香港で23日から上映される予定だった英国のホラー映画「くまのプーさん 血と蜂蜜(Winnie-the-Pooh: Blood and Honey)」が、公開直前に上映中止となった。中止理由は、明らかにされていない。SNS上では、中国の検閲当局の圧力が香港の映画館に及んだのではないか、という声が飛び交っている。
公開2日前に「32館が不可解な中止」
「くまのプーさん(Winnie the Pooh)」は世界中の子供たちに愛されるディズニーキャラクターであるが、中国の国家主席・習近平氏と体形が似ていることから、近年「プーさん」は習氏を批判したり揶揄する際のシンボルとして、中国でも海外でも定着していた。
そのため、愛らしいキャラクターの「プーさん」は、中国本土では検閲の対象になっている。
同映画は、この「プーさん」をモチーフにし、しかも恐ろしい殺人鬼として描いている。香港で突然の上映中止に追い込まれたのは、そうした表現の自由を認めない中国側からの不当な圧力によるのではないか、とする憶測がSNSなどで飛び交っている。
「くまのプーさん」を殺人鬼として描いたこのホラー映画は、香港での前評判はあまり高くないようだが、劇中の「プーさん」を中国共産党の習近平氏に見立てて「現実は映画より恐ろしい」とするコメントがSNSで注目を集めていた。
同映画は23日に公開予定であったが、公開2日前の21日になって「映画館側から、理由もなく、上映中止を告げられた」として、配給会社が「香港・マカオでの公開中止」を発表した。作品は香港の32の映画館で公開予定だった。
同映画を製作した映画監督のライズ・フレイク=ウォーターフィールド(Rhys Frake-Waterfield)氏はロイター通信に対し、「映画館は上映に同意していた。ところがその後、たった一晩で(上映予定だった映画館が)それぞれ個別に同じ決定を下した。これが偶然であるはずがない」と話したという。
中国は「検閲大国」 数字の89や64まで
この前例のない事態に「やはり中国当局から圧力がかかったのではないか」とする声が広がっている。
「マカオはともかく、香港が徹底的に中国に呑み込まれてしまった」。そう嘆くように、今回の「くまのプーさんの禁令」を、香港の「一国二制度」喪失のもう1つの象徴として捉える人も少なくない。
中国共産党が一党独裁体制を敷く中国本土では、サイバー・セキュリティや検閲が徹底的に行なわれているため、「くまのプーさん」をはじめ、習氏に関連するワードはことごとく検閲されている。
政治的、暴力的、性的な表現を含めて、中共の統治体制に不都合なものを「最小限に抑える」ために、中国の検閲リストには膨大な禁止用語があるといわれている。
1989年の「六四天安門事件」に関しては、年や月日を表す数字の89(年)や64(6月4日)まで検閲され、使用禁止となっている。
バス車内でスマホ検査「抵抗すれば平手打ち」
中国国内では、GoogleやFacebook、Twitter、インスタグラム(Instagram)、YouTube、LINEなど海外の検索サイトやSNSは使用できない。
しかしVPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)などを経由すれば、中国国内でもそれらにアクセスすることが可能である。そのため、中国当局はVPNの存在に神経を尖らせている。
昨年末、上海などでは市民のスマホを抜き打ち検査する警察まで現れて、話題になった。警察は、市民の携帯電話に当局の検閲を回避する「VPN」や「違法な海外アプリ」がないかを確認するために、街角で通行人へランダムに呼び止めるほか、地下鉄やバス車内にまで乗り込んで乗客のスマホを調べている。
ツイッターに投稿された昨年末の動画では、バス車内でスマホの抜き打ち検査を求める「私服警官」が、それに抵抗した乗客の顔を平手打ちする様子が映されていた。
中国政府は昨年9月、ライブ配信サービスを提供する企業に動画の検閲を可能にするシステムの導入やリアルタイムに監視する特別な体制構築などを発表している。これにより、動画の内容に限らず、動画に寄せられた解説や意見も含めて、全てが検閲対象となる。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。