この記事は、災害リスク、強制労働加担…問題山積の太陽光パネル設置義務化 杉山大志氏に聞くの続きです。
ーーレアアース等エネルギー資源、どうすれば中国依存を脱却できるのか。レアアースは電気自動車や半導体などさまざまな機器に欠かせない。
この問題は非常に深刻だ。レアアースは、世界の9割ほどが中国で処理されている。日本のみならず世界中がレアアース供給を中国に頼っている。なぜそうなっているか。
公害問題だ。米国のレアアース埋蔵量は多く、国民の需給は賄えるとされる。なぜできないのか。まず環境問題だ。開発により反対運動が起きるし、排出規制値基準値も厳しい。高額な賠償請求リスクを伴う土壌汚染もある。なかなか開発が進まないが、バイデン政権は他国と協調的な開発を検討しているようだ。
仮にその問題が解決したとしても、新たに鉱山開発で投資をして工場を建設し、産出できるようになるまでは最低5年かかる。世界どこでもそうだろう。このため、向こう5年ぐらいはこの中国の独占的な供給状態は変わらない。国際機関はみな知っていることだ。
今、慌てて太陽光発電や風力電気自動車などを導入しようとすれば、中国製のものに依存することになってしまう。性急に導入するというのはやめることだ。次に、鉱物資源の供給体制を中国に頼らない形で作り上げることだ。環境規制は合理的でなければならない。サプライチェーン構造を整えるには、国の政府が投資すべきだろう。
ーー日本でも石炭は取れるのか。
取ろうと思えば取れるし昔は取っていた。主には採算が合わないので取らなくなった。日本の石炭は、坑内堀りと言ってトンネルを作って掘り出さなければならない。オーストラリアは平原に石炭に転がっている、つまり露天掘りだ。圧倒的にそちらの方が安い。このため日本は輸入に切り替えたのだ。
日本では原子力発電所が多数稼働停止しているため、天然ガスを買っている。(編集者注:液化天然ガス(LNG)は日本の火力発電所の主要な燃料)。しかし、天然ガスは世界的にエネルギー価格が上がり供給量も不足している。
日本は天然ガスをできるだけ使わない方がいい。お金の節約のみならず(ロシアのウクライナ戦争により)ヨーロッパは天然ガス不足と価格高騰でとても困っている。ヨーロッパを助けることにもなると思う。
ーーカリフォルニアなどは積極的に電気自動車(EV)を導入して走らせている。今後のEVの見立ては。
欧米では積極的に導入されているというが、政府がかなり優遇している。免税措置や補助金、優先レーンなど。高速道路を無料で走っていい、駐車場は身障者用のとこに停めていい、などありとあらゆることで優遇されている。
つまり割高なのだ。世界では、エネルギーコストが高まりインフレも悪化している。政府財政も余裕がなくなれば、電気自動車ばかり優遇していられなくなるだろう。私は、この後電気自動車はあまり入ってこないのではないかと。
少なくとも現在のバッテリーでは、電気自動車はガソリン車やハイブリッド車に(走行距離や耐久力で)全然勝てない。もっと良いバッテリー、良い技術が開発されれば別だが、まだまだ夢物語だ。
今大量に慌てて導入すれば、やはり中国依存問題が悪化するだろう。モーターはレアアースを使い、バッテリーはコバルトを使う。コバルトはアフリカ中部のコンゴで多く採掘しているが、中国系企業が処理しており、そこでも児童労働や人権問題が生じている。
ーーレアメタル調査会社の英ダートン・コモディティーズによると、コンゴの昨年のコバルト生産量は世界の72%に達した。携帯電話やEVの充電式電池に使われるコバルトの需要は爆発的に増加している。
性急に電気自動車を大量に導入すれば、中国企業が処理したコンゴのコバルトを使い、中国のレアアースで作ったモーターを大量に導入することになる。この構図は向こう5年ぐらいは絶対変わらない。このため、今慌てて導入しない方がいいというのが私の理解だ。
(おわり)
杉山大志(すぎやま たいし)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策が専門。国連気候変動政府間パネル(IPCC)、産業構造審議会、省エネ基準部会等の委員を歴任する。
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