レアアース中国生産、ほぼ100%から今は6割…「喜ぶのは早計」資源国に広がる支配網

2023/05/22
更新: 2023/05/30

世界における中国のレアアース生産比率は2010年の97%から現在、約60%に減った。「喜ぶべきことではない。我々は中国に弄ばれたのだ」ーー。専門家はエポックタイムズに語った。長らく寡占的な状況にあった中国だが、環境汚染や資源の消耗を避けるために、磁石やその他の貴重な製品に対する支配を強化しつつ、国外に採掘拠点をシフトさせている。

中国は資源国ロシアと戦争以降関係を強化させている。防衛分野にまで「電化」政策を追求する西側諸国の方向性に、中露は嘲笑っているだろうと皮肉をこめた。

したたかな戦略

政治や安全保障で対立する中国への依存に危機感を抱く超党派の米議員は最近、この戦略分野の国内生産を促すため、税額控除する法案を再提出した。

数百万の政府資金を、米国のレアアースや重要鉱物の精錬所とレアアース分離プラントに投じる。しかし、専門家は「中国の独占に対抗するにあたり適切な対処ではない」と否定的だ。

鉱山所有者でもあるコンサルタントのジェームズ・ケネディ氏は論文を通じて、当該法案を批判した。「税額控除は、低温磁石の大規模かつ独占的生産をもたらすものだ」と4月28日のインタビューで語った。

法案はガイ・レシェンターラー議員(共和党)とエリック・スウォルウェル議員(民主党)が提出している。

ケネディ氏は、ホルミウム、テルビウム、ジスプロシウムなどいくつかの重要なレアアースの商業的分離は中国の独占状態だと指摘する。これら3つの元素はEV、兵器システム、およびその他のアプリケーションに利用される高温ネオジム磁石を製造するために不可欠だ。

税額控除程度ではコストの差額が補填されず、米国内で高温磁石が生産されないと、ケネディ氏は語る。「誇張でもなく100%だ。(中国の)EV、風力、米国の兵器システムの支配が続くことになる」と付け加えた。

中国製レアアース、将来5割を切る見通し

ケネディ氏は、世界中にいるレアアースの専門家と論文を共同執筆した。中国市場への注意喚起はそのキャリアを失う恐れもあり、数名は匿名で参加した。

米国とその同盟国が実施した過去の評価は、主に経済的利益の観点から行われたものであり誤った結果を導いていると専門からは主張する。レアアースに関する中国の戦略的ビジョンを無視しないよう、米国人に警告したのだ。

「(資源を独占する)中国の動機は経済面のみならず地政学的だ。つまり、経済的優位性と下流の利用技術および関連産業の技術的支配のためだ」と述べた。

中国以外の国に鉱山労働者や加工業者を求めて支援を強化するようになった米国とその同盟国は、中国のレアアースの独占に対抗するために行動を起こしてきた。たとえば、国防総省は、2022年に豪州のリナス・レアアースに1億2000万ドルを与えて、テキサスを拠点とするレアアース分離プラントを建設しようとした。

レイモンド・ジェームズのエネルギー・アナリスト、パベル・モルチャノフ氏は中国によるレアアース採掘のシェアが減少していると指摘した。BPの最新エネルギーレビューによれば、2021年には中国が世界のレアアースの59%を生産している。2010年のほぼ100%から大きく下がった。同氏は中国によるレアアース供給率は今後10年で50%を下回ると予想している。

ケネディ氏によれば、中国のレアアース生産比率の減少に喜ぶのは「早計であり勝利でもない。むしろ中国の戦略的勝利だ」と指摘する。いわく、中国は磁石やその他の貴重な製品に対する支配を強化しつつ、環境汚染や資源の消耗を避けるために採掘を国外にシフトさせているのだという

「中国はもはや自国を汚染したり、資源を使い果たしたりしたくなかったので、生産者に機会の幅を提供している。我々がまさにこの瞬間にいる」。

軍事的弱点

レアアースとその他の重要な材料の利用は、エネルギーの「グリーン・トランジション」に密接に関連している。いわゆる化石燃料や内燃機関から風力、太陽光発電、EVへのシフトだ。レアアースやその他の重要な材料がグリーン関連のニュースとして度々取り上げられることがある。

しかし、モルチャノフ氏は、レアアースが最も重要なのはEVなどの技術ではなく、実際には航空宇宙および軍事用途といった国家安全保障に関連する分野であると強調している。

「ネオジムはEVに使用されているが、これを、単なる持続可能性やエネルギー伝達の問題として描写したくない。実際には、航空宇宙および軍事用途に関連する国家安全保障の問題だ」。

現在の軍事技術はレアアースを脆弱にしている。さらに西側政府は、その弱点にストレスを与えるような防衛電化政策を追求している。

最近の上院軍事委員会の公聴会で、エネルギー長官のジェニファー・グランホルム氏は、軍用車両の急速な電化を推進しようとするバイデン政権に対する支持表明を行った。

英国陸軍は、EVの使用拡大を含む「戦場の電化」の計画を発表した。

希土類金属の埋蔵量が多い国は中国だけでなく、ブラジルやロシアも希土類元素が豊富だ。ロシア・ウクライナ戦争は、ロシアと中国との関係を強固にした。ブラジルは、新しい左翼大統領、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバの下で中国と多くの新しい協定を締結した。

傲慢と誤教育

ケネディ氏の見解では、レアアースの問題は西側の傲慢さの表れだという。米政府関係者は「一帯一路」や「中国製造2025」戦略に関するレポートは読むに値しないと、たかを括っていると聞き及んでいた。

独裁体制の一貫性を見てきた同氏は、この怠慢に危機感を抱いているしている。「我々は、どの目標も達成しておらず、いつも大見得を切り、多くの美徳の看板を掲げているだけだ」と、エポックタイムズに語った。

米国と中国は、レアアースやその他の重要な鉱物について競争しているため、米国のSTEM(科学、技術、工学、数学の頭文字)分野の教育の質の問題は深刻な問題をもたらすと危惧するアナリストもいる。

ケネディ氏は中国の多数の大学や国立その他の研究所でレアアースについて時間をつぎ込んでいると指摘する。対照的に、欧米諸国はほとんど注力していないのだ。

エポックタイムズとの最近のインタビューで、クレアモント研究所のデビッド・P・ゴールドマンは、米国の工学教育を「驚くほど貧弱」だと表現した。

「最も賢い子供たちは大手テック企業に行き、26歳までに億万長者になることを望んでいる」と彼は語った。別の専門家は「(米国の大学で)科学の学位を得るのは多くが外国人留学生だ」とエポックタイムズに語った。

「この教育上の欠陥は、おそらく米国が直面する最も悲痛な問題点の1つになるだろう」とケネディ氏は語り、40年前に関連技術を教えることができたであろう多くの教授が引退しているか亡くなっていることも付け加えた。

エポック・タイムズ記者。国政を担当し、エネルギーと環境にも焦点を当てている。核融合エネルギーや ESG から、バイデンの機密文書や国際的な保守政治まで、あらゆることについて書いている。米国シカゴ拠点に活動。