RCEPで日本の輸出増加する試算 専門家は中国共産党由来のリスクに注意喚起

2022/01/11
更新: 2022/01/11

日本や中国などが参加する東アジア地域の包括的な経済連携協定(RCEP)が1月1日に発効した。専門家は、米国不在の枠組みのなか、中国共産党がもたらすリスクについて認識しなければならないと警鐘を鳴らす。

日本、中韓と初の経済連携協定 輸出増加の恩恵も

国連貿易開発会議(UNCTAD)は昨年12月15日、RCEPの発効により域内貿易額が約420億ドル増加すると試算した。なかでも日本製品の輸出増が見込まれており、日本は増加額のうち約200億ドル分の恩恵を受けると予想されている。

試算によると、増加する域内貿易額(約420億ドル)のうち、貿易相手国が域外から域内に変化することによる効果は250億ドル、域内で新たに生まれる効果が約170億ドルとなっている。

RCEPは日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)などによる国際合意で、約9割の品目の関税撤廃を目指す。2012年11月に交渉が始まり、今年の1月1日、日本、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナムの10か国に発効した。韓国も2月1日に発効することになっている。

RCEP参加国のGDP総額は2019年時点で25.8兆ドルとなり、世界全体の29%を占める。輸出額ベースの貿易総額も5.5兆ドルで世界全体の29%に相当する。人口の合計は約22.7億人で、世界人口の29.7%を占める。

日本にとって、中国と韓国はそれぞれ1位と3位の貿易相手国だが、経済連携協定を締結するのはいずれも初めてのこととなる。

中国側の意気込み

中国の官製メディアはRCEPの発効を後押しするような報道を行っている。中国国際テレビネットワーク(CGTN)は2日付の記事で、日中は貿易協定を結んだことがないためRCEPにより「日中貿易で特に大きな意味を持つ可能性がある」と報じた。

中国商務部のデータによると、21年上半期の日本と中国の貿易額は約1813億ドルに達し、前年同期比で23.7%増加した。CGTNによれば、RCEPにより日中の貿易額はさらに増加する見通しだ。

中国共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報は7日、硫酸アルミ製品を取り扱う企業の会社の状況を紹介。同社社長は取材のなかで、関税障壁の撤廃により「(日本向け)輸出量は昨年の数倍になる」と意気込みを見せた。

中国の貿易振興機関である中国国際貿易促進委員会は、同会地方組織らが初日となる1日に発給したRCEPの原産地証明書(関税減免の適用に必要な加盟国の産地証明)は、69社の計158件だと発表した。これらは日本やオーストラリアなどへの輸出品で、減免された関税は約18万ドルと推定されている。

中国共産党政権がRCEPに参加する「戦略的意味」

国際貿易が活発化すると予測されているなか、専門家はRCEPにおける中国共産党のリスクについて警鐘を鳴らした。

カナダのヨーク大学の瀋榮欽教授は大紀元の取材に対し、RCEPは中国にとって経済的な意味のみならず戦略的な側面もあると語った。

「RCEPへの加入は中国にとって最高の機会となった。中国にとってRCEPは単なる経済貿易組織ではない。中国は域内で自由に貿易を行うことができ、バリュー・チェーンを再構築することができる。そして戦略的には米国が主導していた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に対抗することができる」。

米国が離脱を発表した現在、TPPは日本が主導するCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的かつ先進的な協定)に再編されている。中国は加入を希望しているものの、知的財産権や投資などで高い自由度が求められていることから、困難だと考えられている。

RCEPを通じて中国共産党主導のルールが国際社会に浸透していくこともリスクとして認識されている。RCEP発効を目前に控えた昨年11月、上院財務委員会のマイク・クラポ議員ら共和党議員13人はバイデン大統領に書簡を送り、米国の不在により「中国が確実に世界経済を支配する」と警告した。そして、アジア太平洋地域に参加するための新たな貿易ルールの策定を促した。

約束を守れなかった20年

世界経済で最も成長が見込まれるインド太平洋地域を囲うRCEPだが、中国共産党が約束を守らないリスクが懸念されている。前例は世界貿易機構(WTO)だ。

米国在住の政治経済コメンテーター唐敖氏は、中国が2001年からWTOに加入しているにもかかわらず約束を守っていないことを引き合いに出し、中国による国際ルールの恣意的な運用に気をつけるべきだと指摘した。

20年前に中国がWTOに加盟した際、加盟国は中国に対し、加盟議定書に基づき、開放的で市場志向の国際貿易システムに反する政策や慣行を廃止することを期待していた。だが、中国は変化の兆しすら見せなかった。

WTOは昨年10月、第8回目の対中貿易政策審査会合を開催。米国を中心とする加盟国は、中国の公約不履行行為や国有企業への補助金問題などの「競争環境を歪める」産業政策を批判した。

ロイター通信によると、米国のデビッド・ビスビー在ジュネーブ代理公使は会合の中で「中国政府は、国家主導の非市場的政策や慣行を強化し、米国やその他の地域の労働者や企業に不利益をもたらしている」と批判した。

ビスビー氏は中国政府による産業補助金、国営企業への優遇措置、データ制限、知的財産権の不適切な保護、サイバー窃盗などを非難。さらには少数民族や信仰者らに対する人権侵害を念頭に「強制労働を活用しているという報告を無視することはできない」と付け加えた。

この非公開のWTO会合には、今回のRCEPに加盟している日本とオーストラリアも出席し、透明性の欠如や貿易歪曲的な措置や国有企業の問題について意見したという。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。
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