米ツイッター社は5月11日、グーグルの元チーフサイエンティストで、スタンフォード大学の中国系教授・李飛飛(リー・フェイフェイ)氏を独立取締役に起用したと発表した。同氏のAI(人工知能)の専門知識を活かすことで同社の「多様性」を反映し、「ポジティブな変革」を促すとした。
李飛飛氏は「グーグルAIチームの中国進出を果した」ことで知られている。一方、中国政府と深いつながりも持つ。李氏を起用したツイッターが今後、中国共産党寄りの立場に舵をとるとの懸念が広がっている。
ツイッターは2016年4月、中国で市場を開拓するため、中国共産党の解放軍や公安部門での職歴を持つ陳葵(チェン・クイ)氏を中国市場の総責任者に任命したが、ツイッターの「赤化(せっか)」に危機感を抱く多くのツイッターユーザーから強い反対を受けた。陳氏はわずか8カ月後に退任した。
李飛飛氏「グーグルAIチームの中国進出を導いた」
北京市生まれ、四川省育ちの李飛飛氏(43)は、16歳でアメリカに移住。 家庭が裕福ではなかったため、高校時代は中華レストランなどでアルバイトを掛け持ちし、1日4時間の睡眠時間しかなかった。それでも勉強に励み、プリンストン大学に合格した。当時、地元新聞紙は「アメリカンドリームの実現」と題する記事で彼女を取り上げた。
大学卒業後、カリフォルニア工科大学(Caltech)で電気工学の博士号を取得した。2009年、スタンフォード大学助理教授に着任。現在は同大学コンピューターサイエンス学部教授を務める。世界最大の画像認識データベース「ImageNet」の開発者として知られている。
中国共産党のネット検閲政策に反発し2010年、中国市場から撤退したグーグルはその後も、中国市場に再進出する可能性を探っていた。スタンフォード大学のAI研究室の責任者を務めた李飛飛氏は2016年、グーグルのクラウド事業部門でAIと機械学習のチーフサイエンティストに就任した。
李飛飛氏は2017年12月13日、上海で開催された「グーグル開発者大会」で、「グーグル AI中国研究センター」を北京に開設したと正式に発表した。中国メディアは当時、「グーグルのアジア初となるAIラボ(実験室)」と称し、「李飛飛氏がグーグル社の中国復帰を導いた」と報じた。
李氏は大会でのスピーチで、共産党統治下の中国を「目覚めたライオン」に喩え、中国が「世界のリーダー」になったと称賛した。
2018年11月15日付けニュースサイト新浪網によると、李氏はハイテク専門メディア「量子位」の取材に対し、「グーグルに入社してすぐ、中国関連の企画を推進し、中国でAIの基礎研究を始めたいとグーグルのサンダー・ピチャイCEOとクラウド部門のダイアン・グリーンCEO(当時)に申し出た」と述べた。
グーグル、中国軍を支える清華大学と協力関係に
その後、李飛飛氏の斡旋でグーグルは、中国軍と技術開発を行う清華大学人工知能研究院と提携すると発表した。
2018年6月28日、清華大学の人工知能研究所が正式に設立された。グーグルAI研究開発部門の責任者であるジェフ・ディーン(Jeff Dean)氏が、清華大学のコンピューターサイエンス諮問委員会の委員として任命された。
共産党政府は民間経済活動を隅々まで支配している。2017年10月、習近平主席は「中国共産党第19回全国代表大会(19大)」で、「軍民融合発展戦略」を新たな国家戦略として共産党の綱領に加えた。つまり、民間企業は開発された新技術を中国解放軍と共有しなければならないと規定している。
清華大学は2017年6月、中国軍が掌握する共産党中央軍事委員会科学技術委員会から委託を受け、AIをはじめとする最新技術を開発するための「軍民融合国防先端技術実験室」を設立した。
清華大学の尤政・副学長は中国教育部の公式ウェブサイトで、「軍民融合によるAI開発への道」と題した記事を掲載し、清華大学が「AI大国の戦略に奉仕する義務がある」とし、「中央政府の要求に従い、AI研究を軍事向けの応用につなげ、軍民融合の国家戦略とAIの国家戦略を緊密に統合していくように努力する」と述べた。
グーグル、ペンタゴンとのAI開発めぐる社内紛争
グーグルは、中国軍をバックアップする中国の大学との連携を積極的に推進している一方、ペンタゴン(米国国防総省)とは大規模クラウドシステムの契約を更新しなかった。
グーグルは2018年3月、ペンタゴンと画像認識技術でドローン攻撃を識別するためのAI活用パイロットプログラム「Project Maven」の契約を結んだ。しかし、4000人以上の従業員が「AI兵器化」に反対する署名運動を巻き起こした。同年8月、グーグルはペンタゴンとの契約を更新しないと発表した。李氏はこのプロジェクトの主要責任者だった。「AIの武器化は私の原則に反している」という。
2018年9月、李氏はグーグルを退社し、スタンフォード大学に復帰した。
2カ月後、グーグルのもうひとりの中国系女性AI専門家の李佳氏も、クラウドAI研究開発責任者兼AI中国センター長を辞職した。同氏はかつて李飛飛氏の指導の下で研究し、2011年にスタンフォード大学で博士号を取得した。
李飛飛氏、共産党統一戦線組織と濃密な関係
学術分野のほか、李飛飛氏は中国共産党統一戦線組織「欧米同窓会」と濃密な関係を持っている。 1913年10月に北京で設立された欧米同窓会は、もともとは海外留学経験者が集まる民間団体だったが、1949年以降は中国共産党の指導下に置かれ、海外で親中派の育成やスパイ活動を行う中国共産党の統一戦線工作として重要な役割を果たしている。
公式発表によると、欧米同窓会は現在、中国共産党中央委員会事務局に主導され、中国共産党中央委員会統一戦線工作部の管理を受けており、北京市に本部を置いているという。
同会は中国共産党の歴代指導者からも支持を集めている。鄧小平氏はかつて会員誌の表紙題字を手掛けた。上海市長だった江沢民は1985年、同会の上海支部に入会した。また、胡錦涛、習近平両氏は欧米同窓会の祝賀会に出席したことがある。
一方、李飛飛氏は「中国唯一の国境を越えたビジネスと科学の公益プラットフォーム」と称される、「未来フォーラム(未来論壇)」とも関係を深めてきた。李氏は、未来フォーラムの科学委員会の委員を務めている。
その科学委員会の中には、国内外の著名な中国系学者が多数在籍している。その理事会メンバーには、「網易(ネットイース)」の創業者でCEOの丁磊氏や、中国の検索エンジン大手・百度(バイドゥ)の創業者である李彦宏氏らが名を連ねる。
未来フォーラムの構成員には、前最高指導部メンバーで党序列5位だった劉雲山氏の息子・劉楽飛氏や、朱鎔基元首相の息子・朱雲来氏など、「太子党」呼ばれる党高官子弟も多数含まれている。
未来フォーラムは2015年に北京で設立され、中国科学技術協会の監督下に置かれている。北京朝陽区政府の支援を受けており、人民日報や新華社など官製メディアから協力を得ている。
2018年1月、李飛飛氏は、中国政府が主催する年次の「トップ10女性人物」に、香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官や中国共産党に入党した元台湾人、復旦大学教授の盧麗安氏らとともに選出された。
ツイッター社は26日、トランプ大統領のツイートに初めて、読者にファクトチェック(真偽確認)を促す警告マークを表示した。29日にも、ツイッターが大統領の投稿に「暴力の賛美についてのルールに違反する」との警告を表示した。
これに反発したトランプ氏はSNSの閉鎖に言及し、28日、SNS企業関連の大統領令に署名し、ツイッターやフェイスブック、グーグルなどに対して、投稿などを巡る訴訟リスクから守る法規則の見直しなどを命じた。
(翻訳編集・王君宜)
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