中国製品の「裏口」と化した北米 関税逃れが引き起こす貿易体制の亀裂

2026/08/26
更新: 2026/08/26

論評

ここ数日、米国とカナダの二国間貿易交渉は決裂した。

米通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表は、カナダ側が、カナダ産の鉄鋼、アルミニウム、自動車、木材に対する関税をさらに引き下げる、ほぼ合意に達していた協定から離脱したと述べた。

一方、カナダ政府は正反対の説明をしている。米国側の要求が過度なものになったとしており、特にカナダが他国と独自に貿易関係を築く能力を制約するような文言が問題になったという。

その後、双方が公に示した主張は予想通りのものだった。ワシントンは相互主義を強調し、カナダが得られるはずだった利益を自ら手放したと主張した。一方、カナダ政府当局者は、主権、貿易相手の多角化、そして独自の経済的選択に制限を加えることへの抵抗を強調した。

双方の説明は、実際に存在する外交上の摩擦をそれぞれ捉えている。しかし、なぜこの時期に交渉が急速に難航したのか、そしてなぜ原産地規則、中国由来の部品・原材料、さらに米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく優遇的な市場アクセスそのものが、決定的な争点となったのかについては、どちらの説明も十分に明らかにしていない。

実際に米国が最も強硬な姿勢を取る背景にあるのは、カナダとメキシコを経由して行われている、中国に関連した大規模な積み替え貿易と原産地の付け替えである。 

 

「大規模な積み替え詐欺」

USMCAの下で、商品が関税上の優遇措置を受けるためには、原産地規則(Rules of Origin)を満たさなければならない。自動車の場合、現在は北米域内での付加価値比率が75%以上であることに加え、鉄鋼、アルミニウム、労働価値割合(Labor Value Content)に関する要件も課されている。

NAFTAからUSMCAへ移行した際、これらの基準は意図的に厳格化された。その目的は、北米域外、とりわけ中国製の部品を使って付加価値の低い組み立てだけを北米で行う手法への障壁を高め、より付加価値の高い製造業と雇用・賃金を米国、カナダ、メキシコの3か国内にとどめることにあった。

中国原産の部品や半完成品をカナダやメキシコに持ち込み、簡単な組み立て、仕上げ、包装、あるいは書類上の変更だけを施したうえで、USMCA原産品として認定されれば、本来なら適用される中国製品向けの追加関税がゼロになる可能性がある。

2026年8月にホワイトハウス通商・製造政策局が発表した報告書「The Great Transshipment Scam(大規模な積み替え詐欺)」は、この点を明確に指摘している。中国に関連する商品をメキシコやカナダ経由で米国に送り、不適切にUSMCAの優遇措置を受ける行為は、現行制度において最も利益の大きい関税逃れの手法の一つだとしている。

同報告書はさらに、カナダとメキシコの両国を「影の積み替えネットワーク(Shadow Transshipment Network)」の「Tier 1(ティア1:最高警戒グループ)」に位置づけている。両国は「Diversified Scale Leaders(多角化・大規模型の主要国)」とされ、正規の貿易量そのものが非常に大きいため、不正な取引を発見することが難しくなっているという。

高リスクまたは違法とされる年間迂回出荷(関税逃れ)の規模は、民間などの独立した推計によると約400億ドルから3000億ドル以上(約6兆〜45兆円)と幅がある。中心的な推計値は600億ドルから750億ドル(約9兆〜11兆円)のあたりに集中している。より控えめな推計を採用したとしても、回避された関税収入は数百億ドル規模に上る可能性がある。しかも、これには米国内の生産や産業基盤が奪われることによる影響は含まれていない。

もちろん、中国からの直接出荷が減る一方でカナダやメキシコからの輸出が増えているケースのすべてが違法というわけではない。中には合法で正当な投資によるものも含まれている。

米国が問題視しているのは、その中でも、北米の優遇的な原産地規則を組織的に利用して中国由来の部品や原材料の実態を覆い隠し、中国製品に課される関税との差額から利益を得る取引なのである。

 

すべての始まり

この問題は、2026年のUSMCA共同見直しで始まったものではない。その根源は、米国が2018年に導入した通商法301条に基づく対中関税にある。この措置は、中国から米国への輸出品のおよそ70%を対象としていた。

その結果、米中間の貿易赤字は縮小し、高関税が課された一部の商品については、米国市場への輸入量が他国市場と比べて大幅に低い状態が続いた。しかし、中国側もこれに対応した。それまで中国の港から米国へ直接輸送されていた商品が、より低い関税が適用される第三国へ送られ、そこで限定的な加工を施したうえで、新たな原産地を主張して米国へ輸出されるようになったのである。

米国の輸入に占める中国からの直接輸入の割合が低下する一方、リスクが高いとされる40以上の国・地域からの輸入割合は、まるで鏡に映したかのように増加した。ホワイトハウスの報告書は、この現象を「Great Reallocation(大規模な再配分)」と呼んでいる。やがてこれは、生産拠点と物流拠点から成る分散型ネットワークへと定着していった。なかでもカナダとメキシコは、米国に隣接する地理的条件と優遇的な市場アクセスによって、特に価値の高い拠点となった。

その損害は、関税収入の減少だけにとどまらない。北米域内に認められた優遇的な市場アクセスは、本来、米国内および北米域内での生産拡大、より強靱なサプライチェーン、真の「フレンド・ショアリング」、そして中国共産党(中共)の産業システムへの構造的な依存の「低減」を目的としたものである。

ところが、その優遇措置が中国由来の部品や原材料、さらには中国からの競争圧力を受け入れるために利用されれば、関税による防壁は内側から破られることになる。中国の生産能力がカナダやメキシコという「裏口」を通じて米国市場へ再び流入するのである。これはまさに、通商法301条に基づく措置やUSMCAの原産地規則強化によって抑制しようとしていた事態である。

公式データによれば、近年、メキシコとカナダから輸出される輸送機器に占める米国由来の部品・原材料の割合は低下する一方、中国をはじめとするアジア由来の割合は上昇している。そもそも「フレンドショアリング(同盟国・友好国への供給網移行)」は、パートナー国が「依存を減らそうとしている対象(中国など)」の便宜的な抜け道・台頭の足がかりにならないことを前提としている。しかし、それらの国々が「影の積み替えネットワーク(Shadow Transshipment Network)」における重要拠点として機能してしまうと、友好国と依存対象との区別自体が曖昧になってしまう。

そしてこの問題は、防衛産業基盤にも影響する。防衛産業には、透明性が高く、中共への依存度を抑えたサプライチェーンが必要だからである。

こうした問題を提起するにあたり、すべての貨物が正式な規則に違反していることを証明する必要はない。積み重なった全体としての影響だけでも十分だからだ。中国に関連する大量の商品が北米の優遇措置を利用して米国市場に流入する一方、そこに含まれる米国由来の部品・原材料の割合が低下しているのであれば、そのような仕組みはUSMCAの精神にも、中国の産業システムへの依存を減らすという、より広範な取り組みにも反するのである。

 

利害と不満が絡み合うゲーム

カナダとメキシコが、なぜこうした商品の流れを容認してきたのかを説明するために、両国の指導者に悪意があると考える必要はない。より正確に捉えるなら、これは構造的な問題である。

中国共産党(中共)は数十年をかけて、他国の短期的な利益や国内の政治的言説が、北京の長期的な目標と一致するような環境を築いてきた。市場アクセス、投資、関税の軽減、貿易相手を多角化しているという外観など、目先の利益を提供する一方、中国由来の部品や原材料、物流網を深く組み込むことで、後になってそれを切り離そうとすれば大きなコストがかかる状況を作り出している。また、米国との摩擦を生み出す既存の国内世論や政治的言説を増幅させることもある。

カナダにとって、その利益は具体的なものだった。2026年1月の取り決めでは、中国製電気自動車(EV)に課されていた100%の関税が、一定の輸入枠について最恵国税率まで引き下げられた。また、キャノーラなどの農産物輸出に対する規制緩和を確保するとともに、EVやバッテリーのサプライチェーンへの中国企業の投資にも道を開いた。「主権」や「多角化」という枠組みで説明されたこの取り決めは、カナダに短期的な利益をもたらした。

カナダは米国より規模の小さい隣国であり、米国の安全保障体制によって守られ、米国を最大の貿易相手としている一方、文化的には米国との差別化を志向する傾向がある。こうした立場も、「主権」や「多角化」という説明が国内で受け入れられる政治的余地を広げた。

メキシコでは、中国関連の多額の製品流入や積極的な中国投資によって雇用が創出され、輸出の拡大がもたらされた。一方同国は米国の圧力を受けて中国製自動車に対する関税を50%へと引き上げ、予定されていた工場の建設計画に遅れが生じるなど、米国の関与によって相手国の行動や動機(インセンティブ)を変調させられることを示した。

しかし、中国産部材の含有量が増加する傾向そのものが消失したわけではない。メキシコの政治文化の要素として、自国の発展の可能性が米国によって制約されているという言説(ナラティブ)が長く育まれてきた経緯がある。また、調査報道によれば、在米メキシコ領事館が自国政府の優先事項に合わせた大規模な政治活動を米国内で展開している事実も記録されている。

中国共産党(CCP)は、こうした政治的潮流を自ら一から作り出しているわけではない。だが、これらの潮流がサプライチェーンの取り締まりにおける米国との深化した連携への抵抗感として固着したとき、中国共産党は利益を得るのである。

さらに、民主主義国家の政府は数年単位の選挙サイクルで動いている。これに対し、中国共産党は数十年単位で戦略を企てている。自国の優先事項に従うことで得られる短期的な返礼(リターン)を大きく、かつより確実なものにする一方で、抵抗した際に生じる拡散した長期的なコストを印象付けることで、北京は各国にもともと存在する政治的言説や経済的インセンティブを、自国の国益を推進するための道具へと変貌させているのである。

 

今後の展開は?

USMCAの共同見直しと新たな取り締まり手段が導入されたことで、現実的な選択肢は以前よりも絞られてきた。一つ目は、域内調達比率の基準を引き上げ、非市場経済国由来の部品・原材料について、より明確な制限や情報開示を設け、検証体制を強化することで、USMCAをより厳格かつ実効性のある協定にする道である。さらに、現在整備が進められている税関関連の大統領令や、AIを活用した監視・対象選定システムと組み合わせることも考えられる。この方向では、メキシコの方がカナダよりも先に進んでいる。

二つ目は、二国間で個別に取引する道である。市場アクセスを認める代わりに、原産地確認への実効的な協力や、機微な分野における中国由来の部品・原材料への制限を求める個別協定を結ぶという方法だ。

三つ目は、現在の路線の相違がそのまま続くことである。その場合、協定は毎年の見直しへと移行し、不確実性が高まり、関税格差が再び強まることになる。この結果は米国、カナダ、メキシコの3か国すべてに経済的な負担をもたらすが、同時に現在存在する「裏口」の流入経路を閉ざすことにもなる。

どの道を選んでも代償は伴う。しかし、もはや現実的ではないのは、これまでのように幅広い優遇的な市場アクセスを維持しながら、中国由来の部品や原材料の割合が増え続け、それに対する検証も限定的なままという状態である。

決定的に重要なのは、取り締まりにどれだけ信頼性を持たせられるかである。協定の文言を変更するだけでは意味がなく、北米域内で実際に生産された商品と、原産地を付け替えた商品とを見分ける能力が伴わなければならない。カナダとメキシコには、自らの進む道を選択する余地が依然として残されている。

中共は今後も、この「裏口」を開いたままにするための利益や誘因を提供し続けるだろう。北米貿易の次の段階を左右するのは、米国、カナダ、メキシコの3か国が、中国による意図的な産業の過剰生産能力を共通の外部問題として扱うのか、それとも3か国を分断するくさびとして残すのかという問題である。

後者となれば、本来は中国の産業システムへの依存を減らすために設けられた関税やUSMCAの優遇措置そのものが、かえってその依存を北米市場へ流し込む経路へと変わることになる。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。