自然災害は避けられない。
しかし、中国では豪雨のたびに、こんな言葉が繰り返される。「洪水より恐ろしいのは、人災だ」
今回の広西での洪水でも、約91億円をかけて改修したダムが完成からわずか約1年で決壊した。避難は間に合わず、救援も十分に届かず、被災地では毒蛇まで流出した。
なぜ、同じ悲劇は繰り返されるのか。

「モデル事業」
中国・広西チワン族自治区南寧市横州市で7月6日、六藍ダムの堤防が約50メートルにわたって決壊し、大量の濁流が下流の集落をのみ込んだ。住宅の屋根で救助を待つ住民や、孤立した学校、病院、老人ホームの様子が次々とSNSで拡散され、中国国内では「人災ではないか」と疑問の声が広がっている。
中国当局は、被災者約5万5千人、避難者約4万8千人、警察への届け出ベースで死者2人と発表した。しかし、ネット上では「実際の被害はもっと大きいのではないか」と疑問視する投稿が相次いだ。
今回、最も問題視されているのが、巨額の費用を投じたダム改修工事である。
六藍ダムは1960年に完成し、2009年に補強工事、さらに2023年には約3億8千万元(約91億円)をかけた大規模改修が始まった。2025年6月には工事が完了し、安全性や管理能力を高めた「モデル事業」として大々的に宣伝されていた。
ところが、その完成から約1年後に堤防は決壊した。
中国のSNSでは、「91億円はどこへ消えたのか」「本当に安全対策に使われたのか」「見た目だけ整えた手抜き工事ではなかったのか」といった疑問が噴出した。

なぜもっと早く放流しなかったのか
もう一つの焦点は、放流の判断である。
住民によると、避難の連絡を受けたのは午前8時ごろで、その約1時間後には堤防が崩れたという。これが事実なら、住民には避難する時間がほとんど残されていなかったことになる。
さらに、中国のSNSでは、六藍ダムでは民間企業が魚の養殖を行っており、養殖用の稚魚を放していたことも話題になった。
ダムの水を早めに放流すれば、養殖中の魚も流れ出し、事業者には損失が生じる可能性がある。このため、「利益を優先して放流を遅らせ、限界まで水をため込んだのではないか」との疑いも広がった。
ただし、この情報を裏付ける証拠は確認されておらず、当局からも詳しい説明は行われていない。

届かない救援、広がる二次災害
洪水によって道路や通信、電気は寸断され、多くの村で飲料水や食料、医薬品が不足した。
約380人が孤立した村や、約2千人が山へ避難した集落では、テントも支援物資も届かなかったとされる。
住民は民間のドローンで食料を運んでもらい、手作りのボートで物資を調達しながら命をつないだ。「4日間、魚を捕って食いつないでいる」「高齢者や子どもが3日以上ほとんど食事を取れていない」といったSOSも相次いだ。
さらに洪水で養蛇場が流され、キングコブラやアマガサヘビなど毒蛇が大量に流出した。住宅街や田畑でも毒蛇の目撃が相次ぎ、住民がかまれる被害も発生した。
地元当局は当初、「映像は蛇ではなくダチョウの頭だ」と否定したが、その後になって毒蛇の流出を認め、「約900匹が逃げた」と説明した。一方、民間の捕獲チームは、わずか2日間で約2千~3千匹を捕獲したと明かしており、実際の流出規模を疑問視する声も出ている。

その一方で、中国当局は救援活動を紹介する映像を連日発信している。しかし被災者からは、「浅い場所で撮影した救援ショーばかりで、本当に被害が深刻な地域には誰も来ていない」「救援物資は大通りには届いても、孤立した集落には届かなかった」との不満が噴出した。
現地で支援に当たったボランティアは、高齢者が「饅頭をください」とひざまずいて食べ物を求める姿を目の当たりにし、一緒に活動していた仲間も涙を流していたと振り返っている。

説明されない3つの疑問
今回のダム決壊を巡っては、三つの大きな疑問が残る。
完成したばかりのダムは、なぜ崩れたのか。
なぜ十分な時間をかけて事前放流と避難を行わなかったのか。
そして、なぜ被災後も救援が十分に届かなかったのか。
中国当局は、こうした疑問に十分な説明をしていない。一方、中国のネット上では関連した投稿の削除や「デマ対策」が進められていると指摘されており、被害の全容はいまなお見えにくいままだ。

洪水より恐ろしいもの
豪雨も台風も、人間には止められない。しかし、中国で毎年繰り返される洪水を見ていると、多くの人が口をそろえる。
「恐ろしいのは洪水ではない。人災だ」と。
遅すぎる避難通知。完成からわずか約1年で決壊したダム。十分に届かない救援。そして、被害の実態さえ見えなくなる情報統制。
今年もまた、「助かったはずの命」「守れたはずの村」が濁流に消えた。
なぜ同じ悲劇が、これほどまでに繰り返されるのか。
その問いに向き合わず、原因の検証より情報統制を優先する限り、中国の雨季は来年も再来年も、単なる自然災害では終わらない。

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