中国共産党政権は今年の年間経済成長率目標を4.5~5%に設定した。1990年代初頭に成長率目標の公表を始めて以来、最低水準となる。米中経済安全保障調査委員会(USCC)は、現在の経済動向を踏まえると、中国経済はこの比較的控えめな目標すら達成できない可能性が高いとみている。
その背景には、同時進行する二つの問題がある。一つは米国とイランの軍事衝突に伴う外部からの供給ショック、もう一つは、それ以前から続く国内経済の構造的な低迷である。
中国の小売売上高の伸び率は3期連続で鈍化した。前年同月比では1〜2月期が2.8%でピークを付けた後、3月は1.7%、4月は0.2%へと減速し、5月にはマイナス0.6%と減少に転じた。
特に落ち込みが目立ったのは高額な耐久消費財である。自動車販売は4月の15.3%減に続き、5月も16.1%減少した。家電、家具、建築資材もそれぞれ8〜16%の減少となった。一方、自動車を除く小売売上高は5月に1.1%増を維持。1〜5月累計の消費財小売総額は前年同期比1.4%増とプラスを保ったものの、1〜4月の1.9%増、1〜2月の2.8%増から伸び率は縮小している。
今年の労働節(メーデー)連休は5月1日から5日までとなった。同連休は旧正月と並ぶ国内最大級の旅行・消費シーズンで、大規模な販促も行われる。しかし、その5月に小売売上高が減少したことは、個人消費の基調が依然弱いことを浮き彫りにした。
一方で、需要が冷え込む中、企業の生産コストは上昇。5月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比3.9%上昇し、46か月ぶりの高い伸びとなった。4月は2.8%、3月は0.5%だった。数十年ぶりの長期デフレ局面から脱した直後に上昇圧力が強まったかたちだ。
鉱業価格は15.8%、原材料価格は9.2%それぞれ上昇。米中経済安全保障調査委員会は、この背景について、米国、イスラエル、イランを巡る戦争が2月以降、世界のエネルギー供給網を混乱させ、資源価格を押し上げたためと分析している。
価格上昇の主因は原油価格そのものではなく、海上輸送の混乱である。イランによるホルムズ海峡への機雷敷設や船舶への攻撃、それに伴う戦争保険の停止に加え、米国がイランの港湾を封鎖したことで、世界の原油・液化天然ガス(LNG)取引の約2割が通過する海上輸送路の物流が大きく制約された。
中国の海上原油輸入量は、過去5年間平均の日量1100万バレルから、5月には約780万バレルまで減少し、この約10年で最低水準となった。中共当局は約14億バレルとされる国家戦略石油備蓄を取り崩すとともに、輸入先の切り替えで急激な供給不足を回避しているが、備蓄には限界があり、いずれ枯渇する可能性がある。
影響はエネルギー分野にとどまらない。同じ輸送路は、世界の尿素取引の約半分を担っているほか、メタノール、一次アルミニウム、ヘリウムの国際物流でも重要な役割を果たしている。これらの資源価格は軒並み上昇しており、経済協力開発機構(OECD)は、供給不足が一部で生じる中、物流混乱が世界的な物価上昇を招いていると指摘している。
もっとも、こうしたコスト上昇は中国の消費者物価にはまだ十分反映されていない。5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比1.2%上昇で4月から横ばいだった一方、消費財の生産者価格は0.8%下落した。
企業は原材料価格の上昇分を販売価格へ転嫁できず、自ら負担する状況が続いており、利益率は一段と圧迫されている。生産者物価と消費者物価の上昇率の差は2022年6月以来の大きさとなった。
イラン情勢による影響の根底には、5年目に入った中国経済の構造的な低迷がある。固定資産投資は2025年通年で前年比3.8%減となり、それまでの増加基調からマイナスへ転落した。2026年も減速が続き、第1四半期の1.7%増から、1〜5月累計では4.1%減まで悪化した。
海外からの直接投資も長期的に減少傾向にある。純流入額は2021年に3441億ドルでピークを迎えた後、毎年減少を続け、2024年には186億ドルまで縮小し、約30年ぶりの低水準となった。
不動産開発投資は今年1〜5月に前年同期比16.2%減少した。新築商業用建物の販売面積は10.8%減、販売額は13.5%減となった。不動産投資は2020年代初頭から約44%縮小し、新築住宅価格も2021年のピークから約20%下落している。
不動産開発会社の直接雇用は2021年の約210万人から約120万人へと半減した。建設業全体でも、2023年のピーク以降、約1680万人の雇用が失われた。
地方政府財政の柱である土地使用権売却収入は、2021年から2025年にかけて5割超減少した。昨年10月までの地方政府歳入全体の伸び率は前年同期比0.2%にとどまり、税収が改善した一方で、土地使用権収入が7.4%減少したことが重荷となった。
16~24歳の若年失業率は2026年3月時点で16.9%だった。若年層の高失業率は消費低迷への対策余地を狭め、不動産市場の調整と相まってデフレ圧力を強めている。国際通貨基金(IMF)は、労働人口の減少、投資効率の低下、生産性の伸び鈍化を理由に、抜本的な改革が行われなければ、中国の中期的な経済成長率は2030年までに約3.5%へ低下すると予測している。
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