中国共産党(中共)とフィリピンの南シナ海における領有権争いをめぐる地政学的対立が、学術や文化、教育の分野にも広がっている。
中共官製メディアは7月30日、フィリピンが中国語教育を「過度に国家安全保障の問題として扱っている」と批判した。これに対し、フィリピン国防省は翌31日、外国政府が支援する学術・文化交流事業を厳格に審査すると表明した。
事の経緯
曁南大学フィリピン研究センターの代帆主任は7月30日、中共系紙「環球時報」に評論を寄稿した。
代帆は、フィリピン社会が最近、中国語教育や孔子学院、中国人留学生に対して過度に厳しい審査を行っていると批判した。両国間の長期的な民間交流に悪影響を与えると訴えた。
これに対し、フィリピン国防省は7月31日、反論する声明を発表した。
声明は、外国政府による国内教育機関への資金提供について、公的な監督を行い、制度の透明性を確保することは国家統治の基本的な責務であり、学問の健全性と国家安全保障を守るために必要な措置だと強調した。
フィリピン側は、潜在的な「認知戦」や浸透工作を防ぎ、国家主権を守るための措置だと説明している。
フィリピンのテオドロ国防相は声明の中で、曁南大学をはじめとする中共の統制下にある機関は、一方で「学術の公正」や「学問の自由」を主張しながら、実際の行動はそれと一致していないと指摘した。
声明は次のように強調した。
「真の学問の自由は、国家統制下の宣伝体制には存在し得ない。そこでは言論の自由が抑圧され、党の方針に反する異論は直ちに刑事処罰の対象とされる。歴史そのものも厳しく検閲されている。その最も代表的な例が、中共による1989年の天安門広場での学生や市民に対する暴力的な弾圧だ」
さらに声明は、中共が国際関係において主張する「公平」の定義は、西フィリピン海で示している一方的な立場と同じだと指摘した。
西フィリピン海は、フィリピン政府が南シナ海の一部海域に使用している公式名称である。
声明は、中共が完全な支配を求める一方、自らが求めるのと同じように国際法を尊重しようとはしていないと批判した。
対立の背景
7月初め、代帆が所属する曁南大学フィリピン研究センターは、中国国内の別の6大学から研究者を集め、研究会を開催した。
参加者は、フィリピン最北端のバタン諸島は「中国に属する」との見解で「一致」した。
テオドロ氏は当時、この主張について「何の根拠もない」「極めて荒唐無稽だ」と強く批判した。
代帆は、南シナ海をめぐる国際仲裁裁判所の裁定から10年を迎えるのを前に、「環球時報」にも評論を寄稿し、フィリピンが南シナ海問題について「歪曲された主張と誤った立場」を広めていると非難していた。
米スタンフォード大学ゴルディアン・ノット国家安全保障イノベーションセンターの海洋透明化プロジェクト「シーライト」は7月27日ごろ、調査報告書を公表した。
報告書は、曁南大学について、学術機関を装った外国の影響工作組織であり、中共の統一戦線工作の道具だと指摘した。
同大学は長年、フィリピンにおける中共の統一戦線工作の中心的な実行機関を担っており、フィリピンの華人系学校で教える中国語教師の多くが同大学で研修を受けているという。
曁南大学の英語版公式サイトには、同大学が中共中央統一戦線工作部、教育部、広東省によって共同で設置・支援されていると明記されている。
中共中央統一戦線工作部は、国内外で政治的な影響力工作を調整し、中共の利益に沿った政治環境を形成する役割を担っている。
台湾教育部は、曁南大学による海外での統一戦線工作を理由に、同大学との学術交流を禁止している。
また最近、中共とフィリピンの間では、セカンド・トーマス礁などの海域で船舶の衝突や軍事的な対立が相次ぎ、緊張が高まっている。
フィリピンの安全保障当局や一部の国会議員は、孔子学院や中国人留学生が集中するカガヤン州などで、フィリピン軍と米軍の基地に関する情報収集や、世論操作が行われる可能性に懸念を示している。
テオドロ国防相は一貫して中共に厳しい姿勢を取っており、国家安全保障の範囲を軍事防衛に限らず、社会のあらゆる分野に広げるべきだと主張している。
報告書、中共による教育界への浸透強化を指摘
シーライトの調査報告書は、中共が今年、フィリピンの教育制度への統一戦線工作を強化し、その手法がより組織的かつ体系的になっているとも指摘した。
4月21日、中国の井泉駐フィリピン大使は、フィリピンにある中共大使館で協定の調印式を主催した。
式典には、5か所の孔子学院、10の華文教育機関、中国資本の企業40社、複数のフィリピン華人団体、中国の大学のフィリピン同窓会連合会などから、約100人の代表が出席した。
式典では、就職支援やインターンシップ、奨学金、教員研修、デジタルサービスなどに関する計31件の協力協定が締結された。
フィリピン華文教育研究センター(PCERC)のジェームズ・ワン(黄端明)会長は式典で、フィリピン中国教育について、中共大使館や各地の領事館が調整役となり、関係機関が連携する体制を構築する必要があると主張した。
井泉も、孔子学院、中国資本の企業、教育機関、大学同窓会の間で、情報や人材、教育資源を共有するための効果的なプラットフォームを構築し、さまざまな資源を統合することが目標だと述べた。
ワン会長は、中国聯通フィリピン法人との「クラウドサービスおよびデジタル・インテリジェンス・ソリューション」に関する覚書を含む、3件の協定に署名した。
中国聯通(チャイナ・ユニコム)は中国の国有通信会社で、アメリカ子会社は国家安全保障上の懸念を理由に、2022年に米政府から事業免許を取り消されている。
PCERCは、フィリピンで正式に登録された非営利団体で、1991年からフィリピン国内の中国教育を統括している。
中国聯通フィリピン法人とPCERCの協定には、同社がフィリピンの幼稚園から高校までのK―12基礎教育分野で、デジタルインフラ整備に幅広く参画する内容が盛り込まれている。
「チャイナタウン・ニュース・テレビ(CNTV)」の報道によると、その3週間後、福建省の代表団がフィリピン中正学院を訪問し、5月12日に期間5年の協力覚書2件に署名した。
協力内容には、人材の共同育成、教員と学生の交流、カリキュラム開発、海外インターンシップなどが含まれている。
また、新たに設立されたとみられるマニラの「フィリピン・中国国際教育交流センター(PCIEEC)」も協力機関として関連協定に署名した。
しかし、シーライトは複数の情報源を調査したものの、同センターの詳しい背景を確認できなかったとしている。
シーライトは公開情報の分析を通じて、海上における「グレーゾーン」活動を明らかにするプロジェクトである。
特に、中共による南シナ海での活動に注目しており、「九段線」の主張や海上民兵、海警局による共同展開などを調査している。
これらの活動は、周辺国を、国際法上権利を有する海域から締め出そうとする試みだと指摘されている。
フィリピン国防省は、今回の安全保障審査について、「外国による悪意ある影響工作、取り込み、秘密裏の干渉」に対抗することが目的であり、華人社会を対象としたものではないと強調した。
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