アメリカ連邦議会下院の中国共産党(中共)特別委員会は、中共が合法調達と違法な密輸の両方を通じて、先端半導体とAI開発能力の獲得を進めているとする詳細な調査報告書を公表した。報告書は、輸出規制の抜け穴をふさぎ、重要技術分野におけるアメリカの主導権を維持するため、複数の立法措置を講じるべきだと提言している。
下院の中共特別委員会は4月16日、「買えるものは買い、買えないものは盗む(Buy What It Can, Steal What It Must(PDF)」と題する詳細な調査報告書を発表した。
報告書によると、中共は国家資源を総動員してAIの自立化を進めているものの、そのAIエコシステムは、半導体製造装置、高性能半導体、AIモデル開発といった中核分野において、依然としてアメリカと同盟国のサプライチェーンに強く依存しているという。
中共特別委員会のムーレナール委員長は公聴会で、「AIは米中競争の核心にある。両国政府はいずれも、AI分野での主導権を国家安全保障上の最優先事項とみなしている」と強調した。
そのうえで、中共は軍事力を強化し、外国からの圧力に対抗するため、AI技術基盤全体を掌握しようとしていると指摘した。
複雑な密輸網で規制対象のAI半導体を調達
報告書は、アメリカの技術を違法に取得しようとした複数の事例も明らかにした。中でも特に注目するのは、25億ドル規模の半導体密輸事件で、アメリカ史上最大級の輸出規制違反事件の一つとしている。
調査によると、スーパー・マイクロの共同創業者、イーシェン・リャオ容疑者とその関係者らは、ドライヤーでサーバーの製造番号ラベルを剥がし、それを偽造した箱に貼り付けたうえ、偽のサーバーまで用意して捜査当局を欺いた疑いがある。当局に対し、対象の半導体が依然として東南アジアにあるよう装いながら、実際には規制対象のエヌビディア製半導体をすでに中国へ運んでいたという。
このほか報告書は複数の事例を挙げている。2025年8月には、中国人2をロサンゼルスで輸出管理改革法違反の罪で起訴した。ペーパーカンパニーのALX Solutions Inc.を通じ、中国向けに数千万ドル相当の規制対象AI半導体を輸出した疑いが持たれている。この事件では、少なくとも21件の貨物がシンガポールとマレーシアを経由して輸送し、代金は申告した最終使用者ではなく、香港と中国の企業から支払われていた。
また2025年2月には、シンガポール警察が22か所を捜索した後、9人を逮捕し、このうち3人を正式に起訴した。事件は、エヌビディア製半導体を搭載したデルとスーパー・マイクロのサーバーを中国へ転送した疑いに関するもので、報告書によると、関係者はLuxuriate Your Life Pte Ltdというペーパーカンパニーを架空の最終使用者として使っていた。
さらに同年11月に、4人を逮捕・起訴した。罪名は、輸出管理改革法違反の共謀、密輸、資金洗浄などだった。報告書によると、4人はフロリダ州タンパの不動産会社を装ったJanford Realtor LLCを隠れみのにし、マレーシアとタイを経由して、規制対象のエヌビディア製半導体を中国へ輸出していた。関連資金は、中国から送金された389万ドルの電信送金だったという。
中国は今も大量の先進AI半導体を合法的に入手可能
調査では、中国が現在もアメリカのAI向け計算能力を合法的に確保する手段を二つ持っていることも明らかになった。一つは、規制上限に近い半導体を購入する方法で、エヌビディアのL20やL2がこれに当たる。もう一つは、個別許可を通じて前世代製品を購入する方法で、H200(GPU)などを例として挙げている。
報告書は、アメリカが2026年1月に規制を改定した後、アリババ、テンセント、バイトダンスだけでも、40万個を超えるH200を取得できると強調した。
また、こうした販売はアメリカのAI向け計算能力を圧迫する恐れがあると指摘した。半導体製造に必要な部品や工場の生産能力は、すでに極めて逼迫しているためだ。資源が限られる中、中国向けに輸出する半導体は、本来であればアメリカ内のAI導入を支えるために使えたはずの希少な資源を消費しているという。
米中高性能半導体 生産能力に180倍の開き
中共政権は巨額の補助金を投じているものの、資料によれば、自主開発能力は依然として深刻なボトルネックに直面している。政府関係者の推計では、2025年のファーウェイの先端AIチップ生産は20万個を超えないとしている。
報告書は、無党派系シンクタンク「進歩研究所」の分析を引用し、ファーウェイの先進ロジック半導体の歩留まりはわずか5~20%程度にとどまり、エヌビディアのBlackwell半導体の60~80%を大きく下回るとした。品質を踏まえた実効生産能力では、アメリカとその同盟国は中国に対し170~180倍の差をつけているという。
ムーレナール委員長は公聴会で、「ファーウェイは最近、昇騰950PR半導体を75万個生産すると大々的に発表したが、この数字も品質換算では、アメリカのAI半導体の1週間分の生産量にも満たない」と述べた。
そのうえで、「品質と数量の両面で大きな差がある以上、中国のAI企業は依然としてアメリカ製半導体に頼らざるを得ない。中国のAI大手DeepSeekの創業者が述べた通り、『われわれの問題は資金ではなく、高性能半導体の輸出規制だ』」と語った。
半導体そのものの生産能力差に加え、AI向けの高帯域幅メモリー(HBM)でも大きな開きがある。報告書が引用した資料によると、2025年のHBM生産量は、アメリカとその協力国が中国の約3090倍に達した。2026年に中国で生産能力がさらに増強したとしても、アメリカのHBM生産量はなお中国の70倍に上る見通しだ。
「産業規模の詐欺」 クラウドの抜け穴とモデル蒸留を利用
調査では、中国企業が制度上の隙を突き、マレーシアやシンガポールなどにある海外のデータセンターを経由して、規制対象のアメリカ製半導体を遠隔で利用し、モデルの訓練を行っている実態も明らかになった。
さらに報告書は、中国の研究機関が「敵対的蒸留」(Adversarial Distillation)と呼ばれる技術を用い、大量の不正アカウントを隠れみのにして、OpenAI、Anthropic、Googleのモデルから推論能力を抽出していると指摘した。
委員会は、これを単なる利用規約違反ではなく、産業スパイ活動に当たると位置づけている。
ムーレナール委員長は、「中国にはモデルを独自に開発するだけの十分なAI半導体がないため、アメリカの競合相手から直接盗み取る傾向が強まっている。Anthropic、OpenAI、Googleはいずれも、こうした行為が実際に起きていることを確認している」と述べた。
その上で、「構図は極めて明確だ。中共はAI研究開発を続けるため、われわれの技術基盤に依存している。中共は、買えるものは買い、買えないものは盗むというやり方で、AI分野での野心を推し進めている」と語った。
さらに、「議会の役割は、立法を通じて、中共がこのように合法と違法の両面からアメリカの技術基盤を手に入れ、それをわれわれに対抗するために利用するのを阻止することにある」と述べた。
規制の抜け穴を埋める法整備を提言
こうした脅威に対応するため、委員会は議会に対し、二本立ての戦略を取るよう提言した。まず、「AI OVERWATCH法案」と「SCALE法案」を通じて、現在の輸出規制を政府による「能動的な監督」へと強化し、中国の自主生産能力に応じて輸出枠を機動的に調整するよう求めている。
次に、「MATCH法案」の推進を提案した。同法案は、重要設備に対する規制を中国全土に拡大し、同盟国と足並みをそろえて規制の抜け穴をふさぐことを目的としている。同時に、中国の先端半導体工場にある規制対象設備への保守サービスの提供も禁止する内容で、中国の7ナノ製造プロセス能力を弱める重要な政策手段の一つと位置づけられている。
報告書は総括として、アメリカと同盟国はなお、中国のAI発展を左右する「重要なボトルネック」を握っていると指摘した。その上で、急務は法執行を強化し、アメリカの革新技術が自国の国益を損なう用途に使われないよう確実にすることだとしている。
ムーレナール委員長は、「アメリカがAI競争で決定的な優位を保つことは極めて重要だ。北京がこの技術を主導する未来を、われわれは受け入れることはできない」と述べた。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。