中国の通販で買った活きた蟹が、AIの力で「死んだカニ」にされてしまった。そんな信じがたい手口で返金を迫った買い手が拘留になったという。
AI悪用の返金詐欺が広がり、まじめに商売する小さな店の店主たちは「もうやっていけない」と追い詰められている。
便利になるはずのAIが、いつの間にか混乱を生む道具になってしまったのが、いまの中国の通販現場である。
事件が起きたのは、江蘇省で上海ガニ(大閘蟹)を扱う小さなネットショップだ。買い手は注文品が届いた翌日「8匹中6匹が死んでいた」と写真と動画を店主に送りつけ、返金を求めた。写真には店が使う結束バンドが写り、あまりに本物っぽいため、店主はその場で195元(約4300円)を返金した。
ところが後から見返すと、不自然な点が次々と見えてきた。画像の蟹の脚は通常の「死に方」とは違い、なぜかピンと反り返っている。動画ではオスとメスの数が微妙に変わっており、状況説明と合わない。店主はそこで初めて「これはAIで作った偽物ではないか」と気づいた。
さらに不可解なのは、店主がミスを公表しようとすると、匿名のアカウントから「動画を出すな」と脅しのようなメッセージまで届いたことである。小さな店主にとっては死活問題であり、身の危険を感じた店主は証拠をまとめ、買い手の所在地域で警察に届け出た。
警察は調査のうえ、買い手に行政拘留8日の処分を下し、店主が返金した金額も全額取り戻した。AIを悪用した不良品偽装が、もはや見逃されないことを示す象徴的な事件となった。
しかし、被害はこの店だけの問題ではない。今年の大型セール期間には、AIで「壊れた商品」を捏造して返金を迫る事例が大量に報告され、SNSには嘆きの声があふれた。中小の店主たちは画像の真偽を判断する技術を持たず「疑わしいが反論できない」まま返金してしまう例が多いという。


一方で、店側もAI加工された宣伝画像を使って実物と異なる商品を売り、買い手を落胆させる事例もある。AIの普及が、販売者と消費者の双方にとって信頼を揺るがす存在になっているのだ。
さらに、AIで「壊れた商品」の画像を作り、返品せずに返金だけを得ようとする手口は、中国の通販全体で急速に広がっている。玩具、服、食器、生鮮品まで、あらゆる商品がAIによって「焦げている」「割れている」「腐っている」ように加工され、店は真偽の判断に苦しむ。
実在しない破損をAIが数秒で作り出せるため、プラットフォームの自動審査が誤判定することも多く、多くの店主は「画像だけで自動返金され、反論が追いつかない」と嘆く状況である。

また、AI画像の作り方を教える「講師」まで出現し、悪用が広がっている。これらの行為は金額によっては拘留処分や詐欺罪に問われる可能性があり、主要プラットフォーム各社はAI偽装検知の導入を急いでいる。
通販大国となった中国では、AI技術が生活の隅々まで入り込んだ。しかし監督体制が追いつかず、まじめに働く小規模事業者ほど深刻な影響を受けている。今回の拘留は氷山の一角であり、AIが便利さの裏で生み出す新たな混乱は、ますます大きくなると見られている。

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