米議会 米中経済・安全保障調査委員会(USCC)報告書は、中国共産党(中共)がイラン・ロシア・北朝鮮に対し多様な方法で経済制裁逃れを戦略的に支援し、国際的な回避ネットワークの中枢的役割を担っていると警告している。米中対立が激化する中、制裁の形骸化や新たな抜け道の実態に注目。
11月14日、米議会に設置した「米中経済・安全保障調査委員会(USCC)」が新たな重要報告書を発表した。この報告書は、極めて繊細かつ重要な問題を指摘している。それは中共が組織的かつ戦略的に、厳しい制裁を受けているイラン・ロシア・北朝鮮の三か国に対し支援を行い、アメリカおよびその同盟国による制裁と輸出規制を回避させているという内容である。
アメリカは近年、制裁措置やハイテク分野の禁輸を強化している。それにもかかわらず、中共は、これら制裁下の国々に産業規模で「逃避ルート」を提供し続けている。小規模な裏取引にとどまらず、輸送・エネルギー貿易・金融決済・シャドーバンキング・ペーパーカンパニーなど多様な分野に関与している。さらに、ネット犯罪を利用した資金洗浄についても、中共のネットワークを利用している実態がある。
本稿では、この報告書の具体的内容を解説する。アメリカはなぜ警戒を強めているのか、中共はどのような役割を担っているのか。制裁回避のネットワークをどのように構築しているのか。
米国が懸念する理由 制裁戦での中共の役割
国際情勢の緊張が高まる中、アメリカおよび同盟国は非軍事的手段として経済制裁、金融封鎖、輸出規制を積極的に活用してきた。これらは今やアメリカ外交政策の主力手段であり、ロシア・イラン・北朝鮮といった専制国家に対し、資金や技術、エネルギーの流れを遮断することが主要な戦略となっている。
中共が介入する理由は、反米的な戦略意図に基づいている。中共自身も将来的にアメリカと直接対峙し、同様の制裁に直面する可能性を自覚している。そのため、早期から各種の制裁回避手法を研究・構築・実験してきた経緯がある。
USCCの報告書は、中共がこれら制裁国にとって「回避の中枢(ハブ)」となっていると明記している。その背景には、ロシア・イラン・北朝鮮が自力でアメリカの監視を回避できるだけの規模を持たない一方、中共は経済規模が大きく、広大な貿易ネットワーク、強固な製造業基盤、深いサプライチェーンを保有するためである。加えて、国際金融センターでありながら透明性の低い香港が重要な結節点となっている。
報告書は、これら三か国の間で「権威主義経済軸」と呼ばれるネットワークが形成されつつあり、その目的はドル体制からの脱却、アメリカの監視回避、自前の金融・貿易システム構築であると指摘している。
中共が中心となる理由は以下の通りである。
1. エネルギー安全保障:制裁国から割安な原油や天然ガスを入手する
2. 戦略的牽制:ロシアに欧州、イランに中東の混乱を生じさせることで、アメリカの注意をインド太平洋から逸らす
3. 金融独立:独自の決済ネットワークの構築
4. 制裁耐性:アメリカの制裁体制への「免疫力」獲得
アメリカが警戒するのは、単発的な制裁回避よりも、中国を中心とする産業規模の「制裁回避システム」の存在そのものである。
中共の制裁回避手法
中共がどのようにこれら三か国を制裁回避に導いているか、まずアメリカの「制裁ツールボックス」を整理する。
アメリカが主に用いる手段は、経済制裁と輸出規制である。
経済制裁では主に金融機関を標的とし、資産凍結、資金移動への制限、特定銀行との取引禁止などを行う。これは世界のドル圏から排除し、通常の国際取引を不可能にする施策である。
輸出規制は主に先端技術に関わる物資、とくに軍民両用技術を対象にする。半導体、人工知能、光学機器、通信システムなどが典型例であり、軍事転用が可能なため厳格な管理が求められる。
近年最も威力を持つのが「外国直接製品規則(FDPR)」である。アメリカの技術やソフトウェアを介して間接的に製造された製品についても、アメリカが販売を統制可能となるため、日本・韓国・欧州などで生産された場合でも規制が及ぶ。
中共はこうした規則の「隙間」を突き、代金肩代わり、代理輸送、代行生産、不透明な取引経路などを駆使してアメリカの監視を回避している。アメリカの制裁が透明なシステムに依拠するほど、中共は不透明な仕組みで裏口を提供できる状況となっている。現在、中共はこうしたルールの抜け穴を利用し、制裁国向けに「代替経済ネットワーク」を構築している。これによって、制裁下に置かれても資金調達や重要技術の入手が継続される。
中共の具体的な支援手口
報告書が明らかにしている中共の主要な手法は以下の通りである。
第一の手:非ドル建て貿易
ドルから切り離されると、アメリカの監視能力が著しく低下する。ロシア・イラン・北朝鮮はいずれもドル圏から排除されているため、中共は別の取引プラットフォームを提供。物々交換や第三国経由の決済、地域銀行を活用した裏口チャネルなどが用いられている。これにより、米主導のSWIFTシステムを経由せず、監視網を回避している。
第二の手:人民元決済の拡大
現在、中露間では人民元決済の比率が急速に拡大している。ロシアの対外貿易は全体として人民元へ移行しつつある。これによりSWIFTを回避し、アメリカの監視レーダーから外れることが可能になる。中共にとっては、人民元の国際化を推進する副次的効果も期待できるが、「グレーゾーンを通じた国際化」である。
第三の手:独自決済ネットワークの構築
中共はSWIFT外の独自国際決済システムを開発中であり、多数の地域銀行と連携し、制裁国が米国の監視を逃れられるよう支援している。香港は重要なハブとなり、世界と接続しつつも透明性が低い金融システムによって資金の流れを隠すルートとなっている。
第四の手:シャドーバンキング・ペーパーカンパニー・地下ネットワーク
香港を中心に中国系銀行や仲介企業を巻き込んだ不透明なネットワークが形成されており、ペーパーカンパニーが受注・入金・貨物再転送を担うことで複数の中間主体を経由し、資金・物流・技術の実態を完全に隠す構造となる。外から見れば独立した中小企業群にすぎないが、実際には地下のサプライチェーンとして結び付いている。

ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。