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中国EV産業に迫るバブル崩壊 過剰生産・株売却・リコールで危機深刻化

2025/09/25
更新: 2025/09/25

中国の電気自動車(EV)産業をめぐり、BYD株式の全売却やシャオミの大規模リコール、新興メーカーの赤字転落など“バブル崩壊”の兆候が相次いでいる。過剰生産と過激な価格競争が中国EV市場の根底を揺るがし、業界再編と消費者への影響が懸念されている。

9月22日、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が中国EV大手「BYD」の株式をすべて売却したことが明らかになった。わずか3日前の19日には、小米(シャオミ)汽車が主力EV「SU7」を安全上の理由で11万台リコールした。さらに上半期決算では、中国の自動運転関連上場企業10社のうち8社が赤字に転落したことも公表されている。相次ぐ悪材料は、中国EV市場の過剰成長に深刻な陰りが見えていることを示している。

政治主導で拡大した産業

統計によれば、中国の自動車生産は2024年に3128万台に達し、前年比3.7%増となった。そのうちEVやハイブリッドなどの「新エネルギー車」は約1289万台で、前年比3割超の増加となり、新車販売全体の4割を占めている。しかし需要が追いつかない中でも、政府目標に沿って生産が拡大しているのが実情である。

2017年に政府が掲げた「2025年までに年産3500万台」という目標の下、EVメーカーは乱立した。ピーク時には約487社に上ったが、2024年には129社まで淘汰が進んでいる。経済学者は「こうした淘汰は市場原理によるものではなく、政府の政策誘導が生んだバブルだ」と指摘する。背景には「気候変動交渉で欧米に対抗するカードとしてEVを利用する狙い」があるともされる。

地方政府もまた、雇用維持や財政収入確保を目的にEV産業を後押ししてきた。専門家からは「補助金や土地優遇に依存した“大躍進型”の過剰投資だ」との批判が上がっている。

内需不振と激化する価格競争

中国の自動車市場では過剰生産の影響で価格競争が激化している。成都国際モーターショーでは、新型アウディが定価の半額で販売され、一汽のSUVは4割引きで登場するなど、過激な値引き競争が続いている。

台湾大学の樊教授は「中国経済は供給主導型で、市場原理より計画経済を優先する。そのため今後も『内巻き』(際限なき過剰競争)の構図が続く」と指摘する。短期的にはGDP維持に寄与する一方、中長期的には業界の大再編と倒産の連鎖が避けられないとみられる。国際コンサル会社AlixPartnersも「2030年までに存続できる中国EVブランドは15社程度に絞られる」との予測を示している。

最大の被害者は消費者

では、誰が得をし、誰が損をするのか。

短期的には中央政府が国際交渉で有利なカードを握り、地方政府は財政収入を確保し、大手企業も一時的に拡大の余地を得る。しかし長期的には、欧米が「EVバブル」を見抜けば政府の戦略は頓挫し、地方政府は債務の重荷に苦しみ、大半の中小メーカーは淘汰されることになる。

最も大きな影響を受けるのは一般消費者である。政府の宣伝を信じて購入したEVは、安全性への不安、急激な価値下落、さらにはデータ監視リスクという三つの重荷を抱えることになった。専門家は「消費者は最大の敗者であり、最終的に利益はなく負担のみが残る」と警告している。

一方、短期的に利益を得たのは政権中枢の権力者や一部の特権層であるとの指摘もある。住宅バブルと同様、彼らはすでに利益を確保して市場から手を引いており、残された危機の負担は社会全体に押し付けられている。

バブル崩壊は避けられるか

中国EV市場は、自由な需要ではなく「国家目標」に基づく過剰生産が構造的問題の根底にある。専門家は「計画経済体制下では需給ギャップを是正できず、バブルは収束不能だ」と口を揃える。今後は淘汰と再編を経て、長い時間をかけて新たな均衡を模索するしかないとみられる。

「中国経済の縮図」とも評されるEVバブル。短期的な繁栄の背後に潜む矛盾は、すでに深刻な揺らぎを示し始めている。

程雯