台湾の主要港に中国系貨物船が頻繁に接岸し、軍事利用の疑惑やインフラ脅威が高まっている。港湾安全保障やサイバー攻撃の懸念の強まるなか、台湾の立法府から「トロイの木馬」とも呼ばれている船舶が重要港湾に頻繁に接近していることをアメリカのメディアが報じた。
この記事では台湾防衛の最前線・高雄港や台中港で具体的に何が起きているのかを徹底解説。中国海運大手「中遠海運集団」による軍民融合戦略や、日本とのサプライチェーン影響まで最新事情を網羅する。
台湾の港湾安全に深刻な危機が迫っている。アメリカのメディア「The Wire China」は7月27日、中国の海運大手「中遠海運集団」傘下の船舶が、台湾の主要港に頻繁に出入りしている事実を暴露した。さらに注目すべきは、これらの商業貨物船が中国共産党の軍事活動に密接に関与しているという点である。
中国貨物船―平時と戦時で変わる船の実態
典型的な事例として「SCSC Fortune」と呼ばれる貨物船がある。この香港船籍の船は外見上は通常の貨物船に見えるが、その実態は異なる。昨年12月初旬、中国共産党(中共)軍が台湾周辺で軍事演習を開始する直前に、この船は台湾の台中港へ密かに停泊した。この港は、台湾空軍の最重要拠点である清泉崗基地からわずか5マイルの距離に位置しており、軍事的にも極めて重要な地点である。「SCSC Fortune」は2年前、中共軍による特殊部隊の浸透演習にも登場している。
2022年には、中国中央テレビが海上浸透演習の映像を公開した。そこでは、「SCSC Fortune」のクレーンが、特殊部隊を満載した6隻以上の攻撃艇を船内に収容し、金属板で隠して極秘に目標地域へと輸送し、部隊が速やかに上陸して強襲作戦を展開する様子が確認された。
台湾立法委員の王定宇氏は、このような船舶を「トロイの木馬」と表現し、「平時は商業目的を装い、戦時には即座に軍事任務へ転用可能な存在」として、台湾の安全保障に深刻な脅威を与えると警告した。
台湾有事と港湾インフラへの潜在リスク
台中港に限らず、台湾最大の港である高雄港も危険な状況に置かれている。中遠海運は、傘下の香港企業「東方海外(OOCL)」を通じて、高雄港の2つの戦略的に重要なバース(停泊場所)の管理権を掌握している。この場所は、台湾最大の海軍基地・左営基地から5マイル、高雄国際空港からわずか1マイルの距離にあり、戦略上の要衝となっている。中共が台湾侵攻を行ったら、中遠海運の船が左営基地の出口をふさぐだけで、台湾海軍の駆逐艦や潜水艦の作戦行動を大幅に制限できる。
アメリカ国防総省は今年1月、中遠海運を「中国軍工企業リスト」に追加し、その商業活動の背後に軍事的意図が存在すると認定した。
こうした船舶が本当に貨物の積み降ろしのためだけに台湾へ寄港しているのかという疑問は否定できない。「SCSC Fortune」は、高雄、台中、安平などの戦略的港湾に頻繁に姿を現している同時期に、中共軍は台湾周辺で軍事演習を繰り返している。さらに、同じ時期に、台湾の海底ケーブルも正体不明の船によって何度も切断されており、偶然と片付けられない不穏な連鎖が続いている。
米海軍戦争大学の中国海事研究所に所属する専門家コナー・ケネディ氏は、中遠海運の業務および人員が中共の軍事体制に完全に組み込まれていると分析した。船上の中共党支部書記は中共軍の退役軍人であり、船長は中共の命令に従って行動している。
戦略国際問題研究所(CSIS)の研究員ローレン・ディッキー氏も、中遠海運が平時には無害な姿を見せつつ、有事に備えて台湾封鎖や上陸作戦の支援を想定していると述べた。これは、中国共産党が長年推進してきた軍民融合政策の具体的な現れである。
さらに注目すべき事件も発生している。今年2月、中遠海運傘下の「宏泰58号」が台湾と澎湖を結ぶ海底ケーブルを切断し、大規模な通信障害を引き起こした。この船は台湾の軍事上重要な港に頻繁に寄港しており、乗組員は他船「宏泰168号」の名をだまって使い虚偽申告を行った。このような行為は、戦時を想定した情報収集・破壊活動に直結する工作である。
台湾をめぐる状況が緊迫する中で、中遠海運は今度は中米パナマ運河沿いの戦略港へも影響力を拡大しつつある。
ブルームバーグが7月22日に報じた内容によると、李嘉誠氏が率いるCKハチソンが世界43港の売却をアメリカの投資ファンド・ブラックロックなどに打診する過程で、パナマ運河の重要港が売却対象に含まれた。これに対し中共は強く反発した。その後、中遠海運がファンドに加わり「拒否権」の確保を求めた。これは明確に中共の利益を守る意図を持った動きである。
当初4月に予定されていた契約は、中共側の圧力によって7月に延期され、さらに中遠海運集団の立場が固まらないまま9月以降にずれ込む見通しとなっている。アジアからアメリカ大陸に至る中遠海運の広範な動きは、単なる商業活動として説明しきれない地政学的な戦略と直結している。
日本企業への波及と日中海運の現状
ちなみに、中遠海運集団は日本においても、日本法人を通じて日中間や北米・欧州・アジア向けのコンテナ輸送および総合物流を展開している。東京本社のほか、大阪、名古屋、福岡に拠点を構え、社員数は約100人に達する。日本の大手企業とも取引を行い、特殊貨物や自動車輸送といった新分野にも積極的に取り組んでいる。さらに、川崎重工との合弁により中国国内に造船会社を設立し、最新鋭の超大型コンテナ船の共同開発にも着手した。こうした取り組みによって、日本企業との産業連携を推進しつつ、日本市場でのプレゼンス拡大を図っている。

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