台湾南部・台南沖で2月に中国人が乗った貨物船が海底通信ケーブルを切断したとされる事件で、台南地方法院(地裁)は12日、電信管理法違反罪に問われた中国人船長に懲役3年の判決を言い渡した。
今年2月22〜25日、貨物船の船長が南部・台南沖の海上で船員にいかりを下ろすよう指示し、「Z」上に航行してケーブルを切断した。
25日、台湾の海巡署(海上保安庁に相当)は貨物船を拿捕。船籍は西アフリカのトーゴであるが、中国資本が背後にあるとみている。
また、船体には「紅台168」と表記されていたが、AIS(自動船舶識別装置)では「紅台58」と表示されており、船名の偽装疑いがある。
この事件により、修理費用として中華電信が約1700万台湾元(約8300万円)の損害を受けた。
台湾当局は、ケーブル切断事件について、中国共産党(中共)による「グレーゾーン戦略」の可能性を指摘している。「グレーゾーン戦略」とは、戦時と平時の間の「グレーな領域」で相手国に対する嫌がらせや威圧を繰り返し、実質的な支配や影響力を拡大する戦略だ。
米シンクタンクのランド研究所は、こうした「グレーゾーン戦略」を駆使してアメリカや周辺国からの軍事対応を避け、中共の都合に沿う現状へと変更していると分析している。日本やインド、台湾のような対処力の高い国・地域が標的となりやすく、多種多様な戦術を採用している。
中共による海底ケーブル切断 日本への多大な影響も
台湾周辺に敷設された海底通信ケーブルは、インターネット、軍事通信、金融取引といった中核的なインフラを支える重要な基盤である。有事の際、中共がこれらのケーブルを意図的に破壊・切断すれば、台湾の通信能力は大きく制限され、軍事・経済の両面で孤立させることが可能になる。
特に、日米台を結ぶAPG(Asia-Pacific Gateway)、EAC-C2C、TPE(Taiwan-Pacific Express)といった主要なケーブル網は標的となりやすい。中国海軍のみならず、偽装した商船や漁船を用いて物理的に破壊を試みる手段も懸念されている。
さらに、台湾の通信事業者や政府機関、金融機関に対してサイバー攻撃を同時に仕掛けることで、物理的な通信遮断と組み合わせた複合的な攻撃が可能となり、その効果は一層高まる。
こうした海底ケーブルへの依存度が極めて高い日本にとっても、この問題は看過できない。台湾経由の国際通信が遮断すれば、日本の通信能力は著しく低下し、金融市場や貿易システム、さらにはGoogle、AWS(アマゾンウェブサービス)、Microsoftなどのクラウドサービスにも深刻な影響が及ぶ可能性がある。
また、アメリカ軍のインド太平洋軍(ハワイ)との連携や、在日米軍・自衛隊との通信にも支障をきたし、日米の安全保障体制における即応性が損なわれる恐れがある。
中国の大学が海底ケーブル切断する装置の特許を出願か
2020年、中国浙江省の麗水大学の研究チームが、海底ケーブルを迅速かつ低コストで切断する装置の特許を出願していたことが明らかになっている。
この装置は「アンカー型」のデザインを採用しており、船舶がケーブル上を航行しながら切断を行う仕組みだ。さらに、ケーブル切断後に銅の残留物を検知する機能を備えており、切断の成否を確認できる。この技術は、従来の複雑で高コストなケーブル切断作業を効率化することを目的としている。
中国の大学以外にも、2009年には中共国家海洋局・南シナ海支局の研究者らが「海底ケーブル切断装置」の特許を申請しており、違法なケーブルの除去を目的としているが、軍事的な利用も考えられると専門家は指摘している。
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