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トランプの相互関税 習近平の戦略 6つの報復措置

2025/04/09
更新: 2025/04/09

米中貿易戦争が新たな局面へ突入し、習近平政権は「戦いながら交渉する」という方針を掲げ、6つの報復措置を打ち出した。本記事では、その背景と影響について詳細に解説する。

米中関税戦争の第1ラウンドはすでに一段落した。トランプ大統領は「解放日」と称して新たに34%の関税を導入し、中国共産党(中共)も同率の関税で対応した。トランプは4月7日、「親友」と呼ぶ習近平に最後通告を突きつけ、4月8日正午までに関税を撤廃するよう要求した。拒否した場合には、さらに50%の追加関税を課すと警告したが、中共は強硬な姿勢を変えなかった。こうして、事態は新たな段階へと移行した。

中国の非関税障壁

中共は他国と比較して、非関税障壁を一層強化し、特権階級は大胆かつ冷酷な対応を続けている。

たとえば、中国では輸入車に対して販売段階で非常に高額な税金を課している。特に消費税(最大40%)と増値税(13%)が顕著である。加えて関税(15%)も加わるため、総税額は到着価格(CIF価格)の68~100%以上に達し、最終的な販売価格は国際市場の2〜3倍にまで跳ね上がる。さらに、技術認証、輸入割当、政府調達の偏向により、アメリカ製品の市場参入を著しく阻害している。

そのため、中国のネットユーザーは「3倍の価格で車を買えば、1台分は政府へ、もう1台分は共産党へ、残りの1台分だけが自分のものになる」と皮肉を込めた表現で不満を表している。

輸出面でも中共は、生産段階で補助金を投入し、輸出段階では税還付を実施している。中国国内のメーカーと連携し、労働者の搾取や環境破壊を伴いながら国際市場での競争力を高めている。こうした政策により、アメリカの製造業は深刻な損害を被った。つまり、アメリカ国民が享受する安価な商品には、中国の若者や農民工(出稼ぎ労働者)の血と涙、さらにはアメリカ人自身の苦悩が詰まっている。

さらに、アメリカ下院委員会の報告によれば、中共はフェンタニル類似物やフェンタニル原料、その他合成麻酔薬の生産者に対して税還付という形で輸出補助を継続し、これがアメリカのオピオイド危機を一層深刻化させている。

アメリカ通商代表部(USTR)の「2025年中国補助金報告」によると、中国は2024年に製造業に対して約1.5兆人民元(約29兆7141億円)の補助金を投じ、中国製品の生産コストを10~20%引き下げた。また、中国国家税務総局の統計では、2024年の輸出税還付総額は約1.8兆人民元(約35兆6568億円ドル)に上った。

中共はこの状況を理解しているが、それでもなおアメリカに報復措置を講じる理由が存在する。中共は国家の威信や国内の危機から国民の目を逸らすために、強硬な立場を堅持している。「脅迫には屈しない」と表明し、「最後まで戦う」と宣言した。

実際には、中共の高官たちは交渉の準備を進めており、「戦いながら交渉する」方針を採用している。

上海復旦大学国際問題研究院の院長・呉心伯氏は中央社の取材に対し、「トランプ氏という『強欲なライオン』に対して、戦わずに交渉を始めれば完全に敗北し、問題が解決しないまま長引く」と語り、「まず戦ってから交渉する」という戦略を選択したと述べた。

呉氏はさらに、「トランプ氏の1期目は中国にとって予想外であったが、今回は『準備された戦い』である」と指摘した。財政・金融政策を含む経済刺激策を事前に計画し、「最悪の事態」まで想定済みであるため、政策を容易に変更しない方針を示している。

中共による6つの対米報復措置とは?

では、中共はトランプ氏の104%関税にどう対抗するのか。4月8日、新華社系の情報アカウント「牛彈琴」が公表した内容によれば、中共は以下の6つの対抗措置を準備している.

 

1、アメリカ産大豆や高粱(イネ科の一年草の植物ソルガム)など農産物への関税大幅引き上げ

2、アメリカ産鶏肉の輸入禁止

3、米中間で進行中であったフェンタニル協力の停止

4、サービス貿易分野での反制措置(例 アメリカ企業による調達・法律相談業務の制限)

5、アメリカ映画の輸入禁止

6、アメリカ企業による中国国内の知的財産権収益状況の調査

これら6つの措置は精巧に設計されており、アメリカの農業、文化産業、サービス業へ直接的な影響を与える構図となっている。損失は300~400億ドル規模に達する可能性がある。また、農業州の有権者の不満を引き出すことでトランプ氏の支持率に影響を及ぼし、フェンタニル問題によってアメリカの公共健康危機をさらに悪化させ、政権に対する圧力を高める狙いも込められている。

しかし、筆者はこのような手法には実質的な効果が限られていると判断する。たとえば、今回対象となる農産物の総額は約150億ドルであるが、トランプ氏の1期目には影響を受けた農業に対して2018~20年にかけて約270億ドルの補助金を支給した。中共が「トランプ氏の勝利はレッドネック(田舎白人層)の支持によるもの」と宣伝していても、実際には中共への打撃や麻薬撲滅政策についてアメリカ全体で一致した見解が存在しており、このような手法で選挙結果を動かそうとする試みは無謀である。特に、フェンタニル協力の停止はトランプ政策への支持をむしろ高める要因となる。

さらに、アメリカ企業への報復や調査は愚策にすぎない。これにより、外資企業は自ら撤退を加速させることになる。

一方、アメリカ映画の輸入禁止については、筆者は特に反対しない。近年、ハリウッド映画にはDEI(多様性、公平性、包括性)やウォーク文化(woke culture)が蔓延しており、中共に迎合した映画制作が減少するのであれば、一時的な冷却期間としてむしろ歓迎すべき動きである。

ただし、これらの報復措置は諸刃の剣であり、中国国内にも悪影響を及ぼす。物価上昇や消費者生活の悪化、外資撤退の加速、米中間のデカップリング(経済的分離)の進行といったリスクが顕在化している。現に、国際メーカー各社は利益の低下を警告し、海外新工場の設立を急いでいる。こうした市場リスクの拡大を受け、シティグループは中国の2025年GDP成長率予測を4.7%から4.2%に引き下げたばかりである。

中共の掲げる「戦いながら交渉する」という計画は、実現不可能である。なぜなら、トランプ2.0が掲げる「アメリカをさらに偉大にする」という目標にとって最大の敵は中共であり、他の国とは交渉可能であっても、中共とは交渉が成立しないからである。

ゆえに、現在中共が自らデカップリングを進めている状況は、トランプ氏にとって極めて都合が良い。さらに、中共が関税戦争を他の5つの制裁手段にまでエスカレートさせたことは、トランプ氏にとって対中制裁を一層強化する十分な理由となる。加えて、アメリカは核兵器やSWIFT(国際銀行間通信協会)システムなど、多くの切り札を手中に収めている。

「牛弾琴」の記事では、「現在の中国は100年前の中国でも、40年前の中国でも、4年前の中国でもない」と主張し、「この世界では、借りたものは必ず返さなければならない。関税戦争がアメリカにもたらす嵐はまだ始まったばかりだ」と強調している。

しかし、現実の中共は第一回目の米中貿易戦争時よりもさらに弱体化している。地方債務危機、生産過剰、経済デフレ、不動産不況、雇用不安など、数多くの問題が深刻化している。中南海(中国政府中枢)が握るカードは、かえって減少している状況である。

この6つの制裁手段に加え、中共は新たな動きを見せた。それは、中国企業の国外移転を阻止し、アメリカや他国への投資を禁じる措置である。8日、ブルームバーグの報道によれば、中共商務部はSHEINなどの企業とサプライチェーンの多様化について協議し、他国のサプライヤーからの調達を控えるよう説得を試みた。

とはいえ、この手法にも新鮮味はない。企業は生き延びるために脱出を試みるが、逃げられない企業はそのままあきらめるしかないという現実が広がっている。

トランプは内憂外患に直面しているのか? 関税戦争の開始が早すぎたのだろうか?

ここで重要な問題を提示したい。それは、多くの人々が「トランプ大統領が関税戦争を始めるタイミングが早すぎた」と考えている点である。「外患を治めるにはまず内政を安定させるべきだ」とする意見に基づき、アメリカ国内の諸問題を先に処理し、経済や政府改革において一定の成果を上げた後、半年ほどの準備期間を経て経済戦争に突入すべきであったという主張が存在する。

この順序を無視すれば、現在のように世界の株式市場が連続して暴落し、トランプ支持層のイーロン・マスク氏のような著名人までもが公然と異議を唱える展開となりかねない。

この見解に説得力はあるのか。答えは明確に「否」である。この主張は、中国的な思考枠組みに基づいてアメリカの状況を捉えたものでしかない。

1.アメリカにおいて「外患より内政を優先すべき」とする思想は主流ではない。大統領の最優先事項は有権者の満足度であり、トランプは8千万人という強固な支持基盤を有している。就任以来、支持率は上昇傾向にあり、まさに今が貿易戦争を仕掛ける絶好の機会と判断できる。

2.関税戦争に伴う混乱は不可避である。したがって、経済状況が安定してから開始したとしても、問題の本質は変わらない。

3.トランプ大統領が最も重視しているのは来年の中間選挙である。彼は今この瞬間に積極的な政策を連続して打ち出し、ネガティブな影響を早期に表面化させたうえで、減税、利下げ、さらには1兆ドルを超える大型投資計画によって経済を再活性化させることで、有権者の不満を忘却の彼方へ追いやり、選挙戦で優位に立つことを狙っている。

また、トランプ陣営内での意見の対立については報道も過度に誇張されている。8日、ホワイトハウスのレビット報道官が「イーロン・マスクとピーター・ナバロの間に貿易や関税政策に関する意見の違いがある」と言及したが、トランプ氏自身はこのような意見の多様性を歓迎しており、むしろ多角的な提案を受け入れる姿勢こそが、政権の透明性と柔軟性を象徴するものであると明言している。

加えて、レビット報道官は「男同士ですからね(boys will be boys)」と、冗談交じりに語った。

以上を踏まえ、確固たる自信を持ち、アメリカが世界各国と連携しながら中共を包囲する戦略的ネットワークを構築していく姿を冷静に見守るべきである。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。