論評
アメリカがインド太平洋地域での中国の台頭に対抗しようとする中、戦略的および経済的に重要な同盟国との商業提携を強化することが、長期的な成功の鍵となっている。
その中で、こうした戦略を推進する絶好の機会が浮上している。それが日本製鉄によるUSスチールの150億ドル規模の買収案だ。
この買収が実現すれば、アメリカの最も重要な経済・安全保障上の二国間パートナーシップが強化されるとともに、戦略的重要性を持つ国内産業の復活につながる可能性がある。
1945年の最盛期には世界の鉄鋼生産の72%を担っていたアメリカだが、現在では鉄鋼の約30%を輸入に頼っている。中国が世界の粗鋼(加工前の未仕上げの鋼)生産の54%を占め、圧倒的な存在となっている。
USスチールも同じ道をたどっている。かつてはアメリカの鉄鋼の3分の1を生産していたが、2022年には国内生産量が1450万トンにまで減少している。
同社やアメリカの鉄鋼業界全体が中国に対抗し競争力を維持するためには、大規模な投資を必要としている。しかし現在、日本の間では意見の対立が生じている状況だ。
トランプ次期大統領、バイデン大統領、カマラ・ハリス副大統領は、大統領選挙期間中にUSスチール労組や激戦州としてのペンシルベニア州の有権者への配慮から、日本製鉄によるUSスチール買収に反対する姿勢を示していた。同州では、ピッツバーグ近郊でUSスチールの従業員約3700人が働いている。
この立場は、日本との間に摩擦を生じさせるリスクをはらんでいる。日本では、政界や経済界から取引の成立を求める声が強まっている。
選挙が終わったことで冷静な対応を期待したが、報道によれば、ホワイトハウスは依然としてこの取引に反対していると見られる。
さらに、12月2日には、トランプ次期大統領がTruth Social上で、「税制優遇措置や関税を活用して、USスチールを再び強く偉大な存在にする。それは迅速に実現するだろう」と、改めてこの取引に反対する姿勢を示した。
また、「大統領として、この取引を阻止する。買い手は注意せよ!」と警告した。
最終的な決定は、クリスマス前に下される見込みだ。アメリカの対外投資委員会(CFIUS)は、国家安全保障上のリスクを評価する政府間機関であり、日本製鉄によるUSスチール買収が脅威に該当するかどうか判断を下す予定だ。
CFIUSがこの取引を国家安全保障上の脅威とみなした場合、バイデン大統領またはトランプ次期大統領にはこれを阻止する権限が与えられることになる。しかし、詳細な分析によれば、この取引には経済的および戦略的な利益が多く含まれており、そのような決定は誤った判断となるだろう。
CFIUSが8月にUSスチールと日本製鉄に送付した書簡では、この取引を拒否する理由として「国内の鉄鋼生産能力が低下する恐れがある」ことを挙げている。また、日本製鉄が過去にアメリカの貿易保護政策に反対してきたことや、中国による市場支配の脅威も理由に含まれている。
しかし、CFIUSやバイデン政権が日本製鉄による大規模な投資計画をどの程度考慮しているかは不透明だ。トランプ次期大統領の最近の投稿に応えて、日本製鉄は声明を発表し、「労働組合の施設に27億ドル以上を投資し、最先端の技術を導入することで労働組合の雇用を守り、USスチールの米国労働者がアメリカの顧客向けに最先端の鉄鋼製品を製造できるようにする」と約束した。
また、買収後のUSスチールの取締役会では、過半数を米国市民が占める予定であり、そのうち3名はCFIUSの承認を得た上で選出する。このような体制は、安全保障上の懸念を払拭するためのものだ。
これにより、日本製鉄による買収は、USスチールの競争力と生産能力を向上させるだけでなく、ペンシルベニア州の3700人を含む2万1800人の従業員に利益をもたらす。この買収案が国家安全保障への脅威と見なされる理由は乏しい。
また、これまでの多くの日本からの投資と同様に、今回の投資もアメリカに確かな利益をもたらすことが見込まれている。報道によれば、石破茂首相は11月20日にバイデン大統領に宛てた書簡の中で、買収案を承認するよう要請し、「日本はアメリカ最大の投資国であり、その投資額は着実な増加傾向を示しています。この増加傾向を維持することは両国にとって有益であり、日米同盟の強固さを世界に示すものです」と強調している。
この同盟の重要性は現在さらに高まっている。ワシントンが近い将来、日本にさらなる戦略的軍事貢献を求めることを想定するからだ。これは、中国、ロシア、北朝鮮、イランという独裁国家の協力により、ウクライナやヨーロッパでの戦争が深刻化し、台湾の民主主義への圧力が強まり、韓国や日本への戦争の脅威が増している背景がある。
日本は総延長約1900マイル(約3千キロメートル)にわたる島嶼国家であり、約15の基地に5万5千人の米軍が駐留している。例えば、沖縄に配置された米空軍、海兵隊、海軍部隊は、台湾海峡上空の潜在的な戦闘地域まで飛行時間にして2時間以内で到達可能だ。また、与那国島のような日本の小さな島々は、台湾からわずか70マイル(約110キロメートル)しか離れていない。
さらに、日本はフィリピンに対する直接的な軍事支援を増加させており、アメリカの同盟国として、日米比3国間の協力を通じて、アメリカとの三国間協力を通じて、中国共産党(中共)による南シナ海での影響力拡大の試みに対抗する取り組みを強化している。
トランプ政権は、日本に防衛費のさらなる増額や新しい長距離攻撃兵器の導入、ミサイル防衛への追加投資を求める可能性がある。これらは、トランプ氏が掲げる「アイアンドーム型ミサイル防衛」の構想を支える技術ともなる。
さらに、中共が台湾、日本、フィリピンに対する戦争準備を加速させた場合、トランプ政権は、日本国内での戦術核兵器の一時配備や、それを他の同盟国へ配備する計画への支援を求める可能性がある。
さらに、日本はトランプ政権時代に策定された2020年の「アルテミス合意」に最初に署名した8か国の一つであり、月面での平和的活動のルールを設定するこの歴史的枠組みにおいて重要な役割を果たしている。この合意は現在48か国が参加しており、中国に平和的な月面探査を促す国際的な取り組みの中核をなしている。
しかし、中共の透明性の欠如は、月や火星で潜在的な脅威となる可能性を示唆している。この点で、日本がアルテミス計画を財政面や技術面で支援し、小規模な「ゲートウェイ」月面宇宙ステーションの建設を進めていることは重要だ。また、日本は将来的なアルテミス計画で、人類が居住可能な月面基地の構築を目指し、関連技術の開発にも取り組んでいる。
そのため、経済的および安全保障上の観点から、この取引の意義を再評価することはワシントンにとって重要な課題となるだろう。現在、中共が地球や宇宙における覇権を追求する動きを見せる中、東京とワシントンがより強固な同盟関係を築き、必要に応じてさらなる協力体制を構築することが求められている。
日本製鉄によるUSスチールの買収を承認することは、アメリカの鉄鋼生産と雇用への投資となり、日米同盟をより強化する一助となるだろう。
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