三中全会前に軍高官を粛清した、その真の狙いとは?

2024/07/10
更新: 2024/07/12

中国共産党(中共)の党首の習近平が、7月中に開催予定の重要会議を前に、人民解放軍の高官に対する粛清を強化していると見られている。

今回の粛清は、期待に対する失望の表れと読むことができる。習近平は最高権力者として軍部の忠誠を求めてきたが、就任初期の反腐敗運動で権力を固めた習近平と、中共の代表的な既得権層である軍の高官たちの間には、大きな溝が存在していた。

中国の専門家は、むしろ習近平が無理に忠誠を強要することで、軍部の反発が強まったと分析している。さらに、軍事経験のない習近平が人民解放軍の将軍たちの「自尊心」を傷つける発言をしたことも要因と見られている。

前国防相2名の同日党籍剥奪

中共は先月27日、李尚福氏、魏鳳和(ぎほうわ)氏、両前国防部長の党籍を剥奪した。

政治が全ての中国において党籍剥奪は政治的な死刑宣告に等しい。同日に2人の軍高官に対してこのような厳しい措置を取るのは異例であり、前例のない事態である。

28日、中共の官営新華社通信は、前日の中共政治局会議で両者の処遇が議論され、党籍剥奪と20大中共全国代表資格停止が決定したと報じた。

両者の罪状には、「重大な政治規律違反」「党の厳格な統治を遂行する政治的責任の未履行」「組織の調査への抵抗」「不当な人事介入」「巨額資金の受領」「賄賂受け取り」などが挙げられている。

魏鳳和氏は2018年から2023年まで国防相を務め、李尚福氏はその後任として昨年3月に国防相に就任したが、8月以降公の場から姿を消し失脚説が浮上していた。

今回の党籍剥奪は、両者に対する処罰の始まりを示しており、今後、両者を軍事法廷に召喚し、重刑を宣告すると予想されている。

なぜこの時期に党籍剥奪を断行したのか

中国の評論家は、今回の前国防相2名の党籍剥奪について、習近平が「3中全会」を前に党内反対勢力をけん制するために取った布石と見ている。また、これまでの度重なる掌握の試みにもかかわらず、軍部が依然として習近平に十分に服従しておらず、軍部の反感が深いことを示すものとも解釈される。

アメリカの時事評論家兼中国専門家のゴードン・チャン氏は、最近のVOAとのインタビューで「中共の最高幹部が、真の危機に直面していると感じている」と述べた。チャン氏は「危機がどれほど深刻でどれほど続くかは分からないが、それ以外に現在起こっている多くの状況を説明する方法はない」と語った。

彼は粛清された前国防相2名がどちらも習近平自身が抜擢した人物であることを指摘し、習近平の指導力や人事判断に重大な欠陥があることを示していると主張した。

人民解放軍は中華人民共和国という国家に属するのではなく、中共という政党に属する軍隊であり、直接的には中共軍事委員会主席に忠誠を誓う。中国では主に「解放軍」と呼ばれるが、台湾国防部は「共軍(共産党の軍隊)」と称している。

現在、中国の最高指導者は共産党総書記、党中央軍事委員会主席、国家主席を兼任している。習近平もこれら3つの職位を全て担っており、中共軍高官たちは習近平が軍事委員会主席に就任して以来、「軍は習主席の指揮下にある」と公開的に忠誠を誓っている。

しかし、実際には習近平に対する軍部の忠誠心はほとんど失われていると一部の専門家は評価している。

忠誠を求める習近平、反腐敗に不満を抱く軍既得権層

アメリカ在住の中国軍事評論家である姚誠(ようせい)氏は、2人の前国防相の罪状に「重大な政治規律違反」と「組織の調査への抵抗」が含まれている点に注目している。これが中共軍内部の反習近平の気運を示しているという。

姚氏は、習近平が軍を標的に「選別的」な反腐敗運動を行い、反対派を排除したことが、反習近平気運の始まりだと指摘している。2012年11月に習近平氏が中央軍事委員会主席に就任して以来、メディアで報じられただけでも、副軍級以上の高官91名が制服を脱いだ。

姚氏は「数年にわたり200~300名の将軍が逮捕され、多くの軍人や高官が起訴された」と述べ、こうした標的捜査と軍改革が広範な既得権層を動揺させ、大きな不満を引き起こしたと語った。

彼は、単に人数が減っただけでなく、軍の権力構造が混乱に陥ったことは習近平氏の軍改革の影響だと説明している。

軍内部で習近平の代わりに李克強を推す動きも

姚氏は「習近平の軍改革は軍事委員会の権力と機関を削除してしまった」と述べ、「そうなると今、誰が軍事委員会の指示を聞くのか? 軍には威信が必要であり、指揮官は威信を持つべきだ。指揮官の威信は個人の誇りのためではない。軍はさまざまな状況で上官に従わなければならないからだ」と語った。

彼は習近平が公開の場で軍を辱めた逸話も紹介した。2017年10月の党大会でのことだ。姚氏は「習近平は台湾統一のために武力行使を示唆し、『勝てなくても戦わなければならない』と言ったが、これは軍高官の威信を損なう発言だった」と述べた。

習近平の発言は決然たる意思を示したものかもしれないが、台湾軍に対して圧倒的な戦力を持つ中共軍の立場からすると、指揮官たちを無視するものと受け取られる可能性があるという。

姚氏は、単なる反感を超えて、習近平の指揮能力に関しても、軍の指導部が疑問を持っていると伝えている。

彼によると、2017年に南部戦区海軍では「李克強総理を軍事委員会に加えよう」という意見が大きな反響を呼んだという。習近平では不安が残るため、むしろ合理的な判断を下す李克強総理の指揮を仰ごうという主張だ。

習近平に対する中共軍内部の不満は、中共の代弁者たちの発言からも察知できる。

中共創立の103周年記念日である7月1日、中共の機関紙人民日報は社説で「軍に対する党の絶対的指導力を堅持しなければならない」と強調し、「党と軍に対する全面的で厳格な統治を続け……腐敗が繁栄する土壌と条件を排除するために政治訓練を深める必要がある」と述べた。

6月には中共軍の機関紙である解放軍報が「全ての将校と兵士は習主席の命令に徹底的に従い責任を果たし、習主席が安心できるようにしなければならない」と要求した。これは将校と兵士が習近平の命令に完全に従っていないため、習近平を不安にさせていることを示唆している。

アメリカの中国評論家である王軍濤(おうぐんとう)氏は「習主席が3中全会開幕前に李尚福氏と魏鳳和氏を処理したのは、重要な会議を前に、政治的反対派の服従を求める高強度の措置だと思う」と語った。

王氏は「表向きには反腐敗や政治規律を語っているが、実際には3中全会に出席する党幹部や中央委員に対して『習近平の意向に従わなければ同じ運命をたどる』という警告メッセージを伝えている」と分析している。
 

姜佑灿
徐天睿
エポックタイムズ記者。日米中関係 、アジア情勢、中国政治に詳しい。大学では国際教養を専攻。中国古典文化と旅行が好き。世界の真実の姿を伝えます!