米金融市場の崩壊 高まる金の価値

2024/06/01
更新: 2024/06/13

投資家にとって、金融市場の崩壊という現環境における最悪の選択は、国債への投資と現金の貯蓄だ。

資金供給が再び増加するに伴って、持続的なインフレーションも生じている。通貨の流通量が民間部門の需要を大幅に超えるときにインフレは発生する。投資家にとって、金融市場の崩壊という現環境における最悪の選択は、国債への投資と現金の貯蓄だ。購買力の低下は偶然ではなく、政府が意図的に行っている。

読者に、なぜ政府は自らが発行する通貨の購買力を下げようとするのか、とよく尋ねられる。答えは非常に単純だ。

インフレーションは潜在的なデフォルト、すなわち通貨発行者の支払い能力と信用が下落していることを意味する。

政府は、通貨の購買力を漸進的に下げることで財政赤字はごまかせると知っている。それには2つのメリットがある。1つは、インフレを通じて預貯金や賃金といった富が政府へ流れるようになる。いわば、隠れた税金だ。

もう一つは、民間部門からの富の搾取だ。生産性の高い経済セクターに対して通貨の利用および国債の購入を法的に強制することで、通貨発行者が債務不履行に陥るおそれがある、と思い込ませる。

金融システムに関わる規制は全て、リスクが最も小さい資産は国債である、という誤った前提に基づいている。こうして、銀行は通貨(国債)をため込み、規制を通じて政府機関や公共部門の資金調達に資本をほとんど使わないようにすることで、政府介入と民間部門のクラウディングアウト(政府による国債大量発行で金利が上昇し、資金調達が難しくなる現象)を促す。

インフレが政府による政策であり、通貨発行者の潜在的なデフォルトを意味することがわかれば、伝統的な60・40ポートフォリオ(株式に60%、債券に40%配分する方法)が機能しないこともわかる。

通貨は負債で、国債が通貨である。政府の「財政余力(fiscal space)」が尽きたとき、信用に対する国家のクラウディングアウト効果によって課税比率はさらに上昇し、生産的経済である民間部門を麻痺させる。そして、政府の未積立債務が膨らんでいく。

債務残高の増加を警告する経済学者の主張は正しいが、未積立債務が通貨の購買力に与える影響はしばしば無視される。米国債は34兆ドル(約5千3百兆円)にまで膨らみ、公共財政赤字は毎年2兆ドル(約315兆円)を記録している。しかし、将来的に経済を麻痺させ、通貨の購買力を下落させうる未積立債務に比べれば、取るに足らないレベルだ。

米国の公的年金制度、公的医療保険における未積立債務は175兆3千億ドル(約2京8千兆円)に上ると推計され、実に米国GDPの6.4倍だ。もしそれらが「富裕層からの」税収でまかなわれているなら、計算が合わない。

米国だけではない。例えばスペインでは、公的年金の未積立債務がGDPの5倍を上回り、欧州連合統計局(Eurostat)のデータによると、EU域内の平均値はGDPの2倍近くに上る。それも、公的年金制度だけの数字で、給付金制度などは含まれていない。

政府は、「富裕層への課税」という誤ったナラティブを用いて中間層に対する税率を引き上げ、インフレーションという最も逆進性の高い税を押し付け続ける。

中央銀行がデジタル通貨を可能な限り早く実現しようとしているのも意図がある。中央銀行デジタル通貨(CBDC)はお金に見せかけた監視システムであり、インフレを引き起こしやすい現行の量的緩和政策に対する制約をなくすための手段だ。

中央銀行は、金融政策の波及メカニズムを完全にコントロールできていないことに対してますます不満を覚えている。中央銀行および政府は、銀行チャネルをなくすことでインフレのストッパーになっていた信用需要を消し去り、独立した形態の貨幣競争を強制的になくそうと試みる。また、意のままに貨幣の価値を落とし、経済に占める国の規模を維持・拡大することも可能になる。

金と国債の相対的価値の変動はこれを裏付けている。S&P500種株価指数は85%上昇し、ブルームバーグ米国総合債券インデックスは残念ながら0.7ポイントの上昇にとどまった一方、金の価値は過去5年の間に89%上昇した。

金融資本は通貨の信用下落を映し出している。株式と金の価値が急騰するかたわら、国債はなすすべがない。通貨発行者である政府が自身の債務支払い能力をごまかすために法定通貨を利用している、という図式だ。

これらを踏まえると金はまったく高価ではなく、極めて安価だ。中央銀行と政策立案者は、数兆円に上る未積立債務を清算するには、価値のない紙切れで債務を返済する以外に方法がないことを知っている。現金のままにしておくのは危険だ。政府の国債を蓄えるのは無謀だ。反対に、金の購入を拒むのはお金の現実を受け入れないことと同義だ。

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