米英豪3か国の安全保障枠組み(AUKUS)への日本参加の機運が高まっている。米国務省のインド太平洋担当調整官であるカート・キャンベル氏は3日、来週の岸田文雄首相の訪米時に行われるバイデン大統領との首脳会談で、日本のAUKUS第2の柱への関与について協議される可能性を示唆した。
キャンベル氏は、ワシントンの新アメリカ安全保障センター(CNAS)主催の討論会で、「AUKUS発足当初から、特に第2の柱には、ある時点で新しい国の参加を歓迎するという見方があった」と述べた。また、「インド太平洋地域の多くの国がAUKUS第2の柱の分野で重要な研究開発を行っており、他の国々も参加に関心を示している」と明らかにした。
戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長のクリストファー・ジョンストン氏も、「来週の日米首脳会談の共同声明には、日本のAUKUS第2の柱への参加に関する言及が盛り込まれる可能性がある」と指摘。「米英豪が具体的な内容について合意していないものの、AUKUSが拡大する際に日本が最初に招かれるパートナーの1つ、あるいは唯一のパートナーになるべきだという広範な合意がある」と述べた。
AUKUS第2の柱としての日本
AUKUSの強化が求められる背景には、中国共産党の軍事的台頭がある。近年、海軍力を急速に拡大させ、米国に対する挑戦を続けており、質的な面でも差が縮小しつつある。また、中距離弾道ミサイルや極超音速滑空体、対宇宙能力など、西側諸国が保有していない能力の配備も進めている。さらに、人工知能の軍事利用でも優位に立とうとしており、特に群制御システムの開発では民主主義国家によるルールの制約を受けない中国が有利とみられている。
キャンベル氏によると、日本は原子力潜水艦プロジェクトへの参加は意図していないが、半導体やロボット工学などのハイテク分野、サイバー、対潜水艦戦などの安全保障分野で重要な役割を果たせると分析されている。ただし、日本がAUKUSの正式メンバーになるのではなく、第2の柱の特定プロジェクトに参加する形が適切だと見られている。
キャンベル氏は、機微な技術の共有のため、米国が日本に知的財産保護の強化や機密保持の厳格化を求めていることも明らかにした。「我々は、日本のような緊密なパートナーとできるだけ多くの情報やその他の技術を共有することが、日米同盟をさらに深化させ、インド太平洋への関与の基盤となる同盟関係を構築するために不可欠だと考えている」と述べた。
日本のAUKUS参加が現実味を帯びてきたと他の専門家も指摘する。豪州戦略政策研究所のブロンテ・ムンロ氏は、「日本はAUKUSへの参加に向けた国内条件が整いつつある。中国の脅威に対応するため、防衛政策を大きく転換しており、致死性のある武器の輸出を禁じる法律の改正なども行っている」と述べた。
ムンロ氏はまた、「日本の半導体産業の優位性は、ハイテク技術の発展に不可欠であり、AUKUS参加国のサプライチェーンの安全性確保にも貢献できる」と指摘した。
いっぽう、AUKUS拡大の具体的な範囲をめぐっては、機微な技術の共有や移転に伴うリスクから、慎重な意見も根強い。豪州野党国防担当のアンドリュー・ハスティー議員は先月、「AUKUSは、3か国間で核心的な機密情報や知的財産を円滑に移転することに重点を置くべきだ」と述べ、拡大には慎重な姿勢を示した。
AUKUS進展に遅れも
AUKUSの進捗は遅れている。AUKUSでは、オーストラリアが2030年代に米国の原子力潜水艦を3~5隻導入する計画だが、米国の潜水艦産業基盤の脆弱さから、その達成は容易ではない。目標を実現するには、米国の潜水艦の年間建造数を現在の1.2~1.3隻から2.33隻に増やす必要があるが、それも4~5年以内に実現しなければならない。
また、AUKUSを推進する上で、米国の厳格な軍事技術の輸出規制も障壁となっている。国際武器取引規則(ITAR)やミサイル技術管理レジーム(MTCR)の適用プロセスは複雑で、官僚的な手続きを伴う。豪州戦略政策研究所のムンロ氏は、2023年末に成立した国防権限法案(NDAA)に盛り込まれた英豪向けの迅速処理・事前承認制度により、AUKUS関連技術の輸出管理の障壁は取り除かれつつあると指摘している。
それでも、インド太平洋地域の安全保障環境が悪化する中、AUKUSへの日本の参加への期待も高まっている。麻生太郎副総理は昨年11月の豪州訪問時、日本を加えた「JAUKUS(ジョーカス)」構想を提唱。日米英豪4か国の結束強化がインド太平洋における抑止力を飛躍的に高めると訴えていた。
今回の米国務省高官を含む専門家の発言は、日本のAUKUS参加に向けた動きが加速していることを示唆している。岸田首相は8日から米国を国賓待遇で訪問する。現地時間10日にワシントンでバイデン大統領との首脳会談を行い、11日には上下両院合同会議で演説する予定だ。
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