電子廃棄物、リサイクル追いつかず 環境や経済への懸念も=国連報告書

2024/03/26
更新: 2024/03/26

国連が20日に発表した「グローバル電子廃棄物モニター」と題する報告書は、世界における電子廃棄物の発生量の伸びは、それらのリサイクルのペースの5倍になっており、深刻な環境および経済的懸念を引き起こしていると指摘した。

国連によると、電子廃棄物とは家庭または事業で使用され廃棄された、回路、電気部品、電源、バッテリー供給などのアイテムを指す。

電子廃棄物の約3分の1は、おもちゃ、掃除機、カメラなどの小型機器から発生している。他の例としては、携帯電話、ラップトップ、スクリーン、モニター、テレビ、冷蔵庫などがある。

国連の報告書と題する報告書によると、電子廃棄物は世界で最も急速に増加し、最も複雑な廃棄物だ。水銀などの有害物質を含んでいる可能性があり、健康や環境に被害を及ぼす恐れがある。

報告書によると、2022年に発生した世界の電子廃棄物は6200万トンに上るが、そのうちリサイクルされたのは約1380万トンに過ぎない。また、同年には、少なくとも3400万トンの貴金属が電子廃棄物として廃棄されおり、電子廃棄物を抽出して再利用すれば、回収コストを差し引いても約910億ドルの価値があるという。

銅や鉄などの一般的な金属は効率的にリサイクルできるが、金、コバルト、リチウム、ネオジムなどの貴金属は無視されがちだ。報告書の筆頭著者であるキース・バルデ氏は「電子廃棄物の増加に対処する必要がある」と訴えた。

さらに同氏は、「必要不可欠なレアアースの需要のうち、電子廃棄物リサイクルで賄える割合は1%以下だ。簡単に言えば、これまで通りのビジネスは続けられない」と述べ、「インフラ開発への投資拡大、修理と再利用のさらなる促進、能力開発、また、違法輸送の防止措置を直ちに呼びかける」と訴えた。

報告書はまた、電子廃棄物を適切にリサイクルすることで、危険な汚染物質の拡散を遅らせることができると述べた。電子廃棄物から金属を回収することで、鉛や水銀などの物質を水源から排除し、鉱石の掘削時の温室効果ガスの排出をCO2換算で520億キログラム減らすことができると指摘した。

また著者らは、電子廃棄物管理をずさんに行えば健康や環境を害すると指摘。これにより、外部コストとして780億ドルかかるほか、長期的な社会経済的な負担として360億ドル、汚染物質を原因とする医療費に220億ドルかかると主張した。

国連のサステナブル・サイクル・プログラムのシニア・マネージャーであるルディガー・クーア氏は、今すぐ行動を起こすことで、経済と健康に係る懸念に対処し、長期的にはコストを節約できるとし、「この問題に取り組むために、具体的な措置を緊急に検討する必要がある」と語った。

さらに、「電子廃棄物管理を改善すれば、気候変動と健康被害に対処する一方で、380億米ドルという大きな経済的機会を世界に生み出す可能性がある」と付け加えた。

電子廃棄物問題は悪化の一途をたどる

国連のグローバル電子廃棄物モニターの調査で、2010年以降電子廃棄物の発生量は、年間約250万トンの割合で増加しているが、同期間のリサイクル率は年間約55万トンしか増加していないことが明らかになった。

報告書によると、電子廃棄物が増加する理由として、技術開発、消費量の増加、修理オプションの制限、製品寿命の短縮、設計上の欠陥、電子廃棄物管理インフラの不備などが要因となっている。

また、太陽光パネルの普及も要因として挙げられている。著者らによれば、再生可能エネルギー部門による電子廃棄物は、年間66万トンと比較的少ないが、2030年までには4倍に増加するのではないかと予想している。

特に太陽光パネルの廃棄物は、既存のパネルの交換が必要になったり、短寿命の小型太陽光発電装置が普及したりすると、大幅に増加する可能性があると指摘した。

2013年5月8日、中国北西部の新疆ウイグル自治区にある大型太陽光パネル (STR/AFP via Getty Images)

国連国際電気通信連合、電気通信開発部門のコスマス・ザヴァザヴァ局長は、増大する電子廃棄物問題に対処するため、各国政府は規制の策定などを実施しなければならないと語った。

「最新の報告書が示すように、電子廃棄物がもたらす世界的な課題は、今後拡大の一途をたどっていくだろう」

「問題を管理するためのアプローチを実施している国は、世界の半数にも満たないため、回収とリサイクルを増やすための健全な規制に対して警鐘が鳴らされている」

報告書によると、リサイクル率は世界によって大きく異なる。一人当たりの電子廃棄物の排出量が最大のヨーロッパは、電子廃棄物の42.8%がリサイクルされている。いっぽう、世界の電子廃棄物の半分を排出するアジア各国では、わずか11.8%しかリサイクルされていない。

著者らは、この格差は特に法律の欠如によって引き起こされていると主張している。報告書で分析した193か国のうち、電子廃棄物に関する法律を制定している国は81か国、電子廃棄物リサイクルの目標を正式に定めている国は36か国にとどまっている。

対策を講じなければ、2030年の電子廃棄物リサイクル率はわずか20%にとどまり、400億ドルのコストがかかると報告書は指摘。各国が自主的な回収とリサイクルを実施すれば、リサイクル率が38%に上がる可能性があるとしている。

また法律をこれら2つの選択肢のいずれかと組み合わせれば、電子廃棄物のリサイクル率は44%に増加すると述べた。最も理想的なシナリオは、各国政府が法律やその他の支援を整え、電子廃棄物の収集とリサイクルの仕組みを公式に導入することで、2030年までに電子廃棄物のリサイクル率を60%に上げることだとしている。