ウォール街の大手企業3社が気候活動グループから離脱 その打撃は?

2024/02/23
更新: 2024/03/26

2月15日、ウォール街の大手企業3社が最も著名な気候活動グループの1つから撤退したことで、環境・社会・企業統治(ESG)運動が大きな打撃を受けた。

世界最大の資産運用会社ブラックロック、米国最大の銀行JPモルガン・チェース、世界第3位の資産運用会社であるステート・ストリートは、企業に地球温暖化対策を求める国際的な投資家グループ「クライメート・アクション100プラス」からの撤退を発表した。

世界的な地球温暖化対策の提唱者たちは、国連や世界経済フォーラムのような世界的組織が掲げる「ネット・ゼロの目標」に世界で最も強力な金融機関を連携させるための重要な存在として、クライメート・アクション100プラスを称賛してきた。クライメート・アクション100プラスは、そのピーク時には、68兆ドルの資産を保有する700の投資家会員を誇っていたが、今週の脱退により、その資産が約16兆ドル減ることになった。

2017年に設立されたクライメート・アクション 100プラスは、石油生産や航空会社など大量のCO2を排出する業界の170社を「重点企業」として標的とし、ネット・ゼロ目標へのコミットメントを拒否する企業に対しては、株主投票での反対を脅迫するよう会員企業に強制した。この組織は対象となった企業の75%を、そのアジェンダに賛同させることに成功したと宣伝した。

しかし2023年6月、同組織はさらに踏み込み、会員に対して、気候変動目標を口先だけでなく実際に積極的に推進していることを証明するため、株主投票記録を公表するよう要求した。これは違法な癒着の嫌疑をかけられ、共和党の州検事総長や連邦議会議員からの警告や調査に直面していた一部の会員にとっては行き過ぎたものだった。

今週、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは声明を発表し、「署名企業に対するクライメート・アクション100プラスフェーズ2の強化要件は、代理人による議決権行使および投資先企業の関与に対する当社の独立したアプローチと一致しないと結論づけた」と述べた。

気候アジェンダの支持者は、それらの企業が気候グループから撤退することに対して非常に批判的だった。

ニューヨーク市の会計監査官であるブラッド・ランダー氏は、この3社は「気候否定論者に屈服している」と述べ、「公設市場の投資運用の選択肢を検討する」と脅し、より気候変動活動家に特化したファンドマネージャーに年金資金をシフトさせる可能性を示唆した。

いっぽう、気候グループの批評家は、この撤退を称賛した。

ウェストバージニア州司法長官のパトリック・モリシーは、「JPモルガン・チェースは、クライメート・アクション100プラスから撤退するという正しい決定を下した。アクション100プラスは、企業に対して、気候変動対策を重点的に働きかけようとする最大の投資家連合であるからだ」とXで述べた。

世界トップクラスの銀行、保険、資産運用会社の多くがESGの取り組みで足並みを揃えている。その事実は、資本の効果的なチョークポイントとなり、石炭採掘や石油開発のような産業への融資を減らすだけでなく、企業の株主投票もコントロールすることが証明された。

例えば、先週、英国最大の銀行の1つであるバークレイズは、新規の石油・ガスプロジェクトへの直接的資金提供を中止すると発表した。また、化石燃料の生産を拡大しているエネルギー企業への融資を削減するとも述べた。

財務管理

ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載された2019年の調査によると、大手資産運用会社、保険会社、銀行、州立年金基金などの機関投資家が、米国大手企業のS&P500指数の株式の80%を所有していることが明らかになった。

さらに、報告書は「ブラックロック、バンガード、ステート・ストリートのいずれかがS&P 500企業の88%の筆頭株主であり、ダウ30種株価指数の3大株主である」と述べている。これら3社は世界最大のファンドマネージャーであり、合計で約20兆ドルの資産を運用している。

また、「水平的株式保有」と呼ばれるものの一環として、報告書はさらに、ファンドマネージャーのショート・リストが、多くの業界にわたって競合企業を支配していると指摘。

「バンガード、ブラックロック、キャピタル・リサーチ、フィデリティ、ステート・ストリートは、クローガーの5大オーナー、コストコの最大オーナー6社のうちの5社、ターゲットの最大オーナー7社のうち4社だ」と報告書は述べた。「アップルの3大株主は、マイクロソフトの上位4(非個人)の所有者のうちの3株主でもある」

強大な権力が少数企業の手に集中しているため、特に企業が共同で政治的目標を追求したり、クライメート・アクション 100プラス、ネット・ゼロ・アセット・マネジャーズ・イニシアチブ(NZAM)、ネット・ゼロ・バンキング・アライアンスなどの団体のメンバーとして団結した行動を誓ったりする場合に寡占的な行動をとるという疑問が投げかけられている。

以前、化石燃料に対する反感で大手金融機関が連帯していたが、一部では破綻し始めている。JPモルガン・チェース、ステート・ストリート、ブラックロックによる今週のクライメート・アクション100プラスからの撤退は、2022年12月に世界第2位のファンドマネジャーであるバンガードがNZAMから撤退したことに続くものである。

米国の消費者運動団体「コンシューマーズ・リサーチ」のエグゼクティブディレクターであるウィル・ヒルド氏によれば、そうした企業や団体が、米国の消費者と経済に対する武器として金融ポートフォリオを使うことに同意することで、ウォール街とダボス・エリート以外のすべての人の怒りを買った。「彼らがクライメート・アクション100プラスという気候カルテルを脱退したのは、何百万人もの消費者と何十人もの議員の行動が効果を上げているという証左であることを示している」

共和党の州当局者もこの動きを称賛

保守的な州司法長官、財務管理者、州知事、議員たちが反ESG運動を主導したと非難されたり、評価されたりしている。今週のニュースに、彼らは満足と警戒心が入り混じった反応を示していた。

アイオワ州司法長官のブレンナ・バード氏はXで、「同州は、我々の経済を麻痺させたり米国人を破産させたりする目覚めた(Woke)ESG政策に誇りをもって反対する。過激な政治的アジェンダが投資判断を左右するべきではない。JPモルガンがクライメート・アクション 100プラスを脱退し、顧客の経済的繁栄を第一に考えたことを称賛する」と述べた。

ユタ州司法長官のショーン・レイエス氏も同意見だ。「経済にとって朗報だ。企業はESGカルテルに加わるのではなく、受託者責任に関心を持つべきだ」と述べた。

テネシー州司法長官のジョナサン・スクルメッティ氏もXで「企業というものは、イデオロギーを踏まえた目標ではなく、ROI(投資利益率)に透明性を持ってコミットすることで、投資家により良いサービスを提供することができる」と述べた。同氏は昨年、ブラックロックがネット・ゼロのコミットメントに関して投資家を誤解させているとして提訴した。

複数の州と連携しながら、化石燃料企業を差別したと見なされる銀行や資産運用会社をボイコットする取り組みを主導したウェストバージニア州財務長官のライリー・ムーア氏も、次のように語った。

「これは正しい方向への一歩であり、石炭・石油・天然ガス産業を標的とする国際的な企業共謀に対する各州の闘いにおける重要な勝利である。ウェストバージニア州と我々の州連合は、重要なエネルギー産業への資本をボイコットし、抑制し、我々の州の重要な経済活動と収入を減少させようとするこれらの取り組みに対して、何年も戦ってきた」

共和党が主導するウェストバージニア州、テキサス州、フロリダ州、ユタ州、テネシー州、ケンタッキー州、ミズーリ州、オクラホマ州、ルイジアナ州などは、銀行が化石燃料や銃器産業などを差別しているとみなした場合、州との取引を禁止するなど、ESG金融機関に対して措置を講じた。また、多くの州が、ESGを提唱する資産運用会社から年金基金を切り離した。

ESGは衰退しつつあるのか?

一部のアナリストは、こうした州はウォール街の企業に逆らうことで大きな代償を払うことになるだろうと予測している。Econsult Solutions Inc.の2023年のレポートには、差別的と見なした銀行による地方債の引き受けを禁じたテキサス州、フロリダ州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、ミズーリ州、オクラホマ州、ウェストバージニア州などでは、債務に対して7億ドル以上の高い支払利息を支払わなければならないと主張した。

しかし、ESGに反対する取り組みは効果を上げているようだ。銀行や資産運用会社がクライメート・アクション 100プラスとNZAMを脱退したほか、アクサ、アリアンツ、ミュンヘン再保険、チューリッヒ、ハノーバー再保険など、ネット・ゼロ保険アライアンスの会員の半数が、独占禁止法違反への懸念を理由に、過去1年間に同グループを脱退している。

また、かつて「サステナブル投資」を率直に提唱していたブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は、2023年6月に、「ESGという言葉が政治色を帯びすぎたため、今後は使わない」と表明した。

これに対して、ESG運動に反対してきた人たちは、今後も警戒を怠らないと言っている。

ステート・フィナンシャル・オフィサーズ・ファンデーションを率いるデレック・クレーフェルト氏は、クライメート・アクション 100プラスから撤退するという金融機関の決定を称賛したが、この撤退が真の方向転換を示しているのか、それとも単なる見栄えのためなのかについては懸念を抱いていると述べた。

「州の財務担当者は、過去数年間、銀行や投資マネージャーを説得するために懸命に働いてきた。財務上のリターンと受託者責任の伝統的な概念に焦点を戻すために、JPモルガン・アセット・マネジメントとステート・ストリートがクライメート・アクション100プラスを更新しないという決定は歓迎すべきだ」とクレーフェルト氏。「これらの企業は、アクション100プラスを脱退する重要な一歩を踏み出したが、財務的リターンに重点を置いた受託者として、人々の信頼を取り戻すにはまだやるべきことがたくさんある」

クレーフェルト氏は、ネット・ゼロ・バンキング・アライアンスやNZAMなど他の気候グループへの加盟が続いていることについて「本日の発表が真の変化を反映しているかどうか疑問視している」と述べた。

さらに、「気候活動アライアンスへの参加に関係なく、これらの企業や同様の企業がESGアジェンダを前進させると思われるネット・ゼロ目標に取り組むために、どの程度の内部構造を構築しているかについても懸念している」と述べた。

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。