アングル: 香港、国際的イメージの回復に注力 中国経済低迷でも

2023/10/15
更新: 2023/10/15

香港 11日 ロイター] – 香港の名所である美術館「M+(エムプラス)」に先月、政府高官や外交官、外国の商工会議所関係者ら数百人が集まり、カナッペやカクテルを楽しんだ。このイベントには明確な使命があった。金融ハブとしての香港の訴求力再生だ。

香港では2019年に反政府抗議行動が起こり、20年に中国政府が徹底的な香港国家安全維持法(国安法)を素早く施行。その後3年にわたる新型コロナウイルス対策の厳格なロックダウンもあって香港から数万人が流出し、香港の評判と経済は大きく落ち込んだ。

このイベントで外交官や企業経営幹部は、米国と中国の緊張と中国景気減速が香港に一段の試練をもたらし、西側諸国と本土を結ぶゲートウェーとしての伝統的な役割に支障が出ていると話した。

「ここ数年で、香港には非常にネガティブなイメージが出来上がった」と、在香港欧州商工会議所のイナキ・アマテ会頭は講演の中で指摘した。イベントでは政府高官や欧州連合(EU)代表者、香港の銀行、航空業界、証券取引所などの幹部も講演した。

西側諸国と香港との関係再構築を試みるイベントは多くある。今回はその一つだ。

アマテ会頭によると、香港を訪れる人は現在、中国本土とアジアからが中心で、ビザ申請者は主に中国本土からという。

企業幹部らは、香港の構造が変化していると指摘する。政府の人材制度に基づき香港での就労を許可された人の割合は現在、10人中9人以上が本土出身という。

アマテ会頭は「こうした傾向を続けることで香港がアジアで最も国際的な都市としての地位を回復できると考えるなら、大間違いだ。香港には多様性が必要だ」と述べた。

香港の陳茂波(ポール・チャン)財政官は9月に欧州諸都市を周り、集中的なキャンペーンを行った。香港の中央銀行に相当する香港金融管理局は11月に香港の「活力」を見てもらい、「ゲストに香港の良さを知ってもらう」ために大がかりな銀行業関連の会議を開催する予定だ。

ただ、在香港全米商工会議所で会頭を務めていたタラ・ジョセフ氏によると、香港に住んだことのない人にとっては「19年の抗議行動以降の香港は本当にボロボロでネガティブなイメージがある」。ジョセフ氏は「国安法、パンデミック、そして今は中国経済に大問題が起きている。香港のイメージは非常に悪く、人々に心からワクワクしてもらいたければフォーシーズンズ・ホテルで銀行業関連の大きな会議を開くぐらいでは不十分だ」と述べた。

<悪評に拍車>

香港在住のある外交官は、香港に優秀な人材を引き寄せようとしても国安法への懸念が障害になっていると述べ、反対派の人物にかけられる報奨金が香港の悪評に拍車をかけていると指摘した。

法律関係者の多くは国安法が司法の独立性に対する懸念を強めていると話す。経営者の中には、一部の企業がシンガポールやドバイに移転し、香港の重要性が低下しているとの懸念もある。

事業用不動産サービスを手がけるコリアーズによると、香港のオフィステナントの5分の1以上が今後2年間にオフィススペースを縮小する可能性があり、その半数以上がビジネス需要の縮小を理由に挙げている。ナショナルオーストラリア銀行などの企業は香港から既に撤退し、数十人の銀行員や企業弁護士がビジネス不足を理由に解雇されている。

「香港は中国の経済活動のバロメーターだ」と中国・東南アジア諸国連合(ASEAN)投資協力ファンドのマネジング・ディレクター、パトリック・イップ氏は言う。「最近の中国景気低迷と、一部の主要セクターにおける規制変更のため、資本市場は投資マインド低迷の憂き目に遭っている」と同氏。

香港の新規株式公開(IPO)市場は勢いを失っており、今年の調達総額はこれまでのところ約27億ドルにとどまっている。一昨年は40億ドルで、新型コロナ危機の最中だったIPO最盛期には少なくとも350億ドルに上っていた。

しかし香港の投資家で「中国と欧州 ターニングポイント」の著者デービッド・バブレス氏は、香港は順応し繁栄していくだろうと語る。従来の西側諸国に代わり、中東や中国本土から香港に資金が流入すると見込まれるからだ。

「古い香港は戻ってこない。新しい香港が現れるだろう。香港は繁栄を続けるだろうが、それは香港が自己改革に成功するからにほかならない」

Reuters