ハマスがイスラエル奇襲 米国は同時に3つの戦場に臨めるか?

2023/10/11
更新: 2023/10/11

先週末には、中東、南シナ海、北朝鮮とロシアの国境において、次々と緊急事態が発生し、世界の緊張が一段と高まった。

10月7日、パレスチナの武装組織ハマスイスラエルに奇襲を仕掛けた。4日には、中国共産党(中共)とフィリピンの船舶が南シナ海で数時間に渡り対峙し、わずか1mの距離で衝突の危機に瀕した。5日には、北朝鮮の数十両の貨物列車が北朝鮮とロシアの国境駅に到着した。ロシア向けの武器や弾薬を搭載しているとされる。 

多くの者は、パレスチナとイスラエルの間の突如として生じた大規模な衝突の背後に、中共とロシアの関与の可能性を指摘している。一方、米国と中共の対立は、東南アジアや南シナ海において激化の一途をたどっている。米国は、欧州、インド太平洋、中東の3つの戦場における挑戦に立たされている。

 パレスチナにおける戦火の背後の推進力に対する憶測 

10月7日の明け方、パレスチナの武装組織ハマスはイスラエルの東部及び南部に5千発のロケットを撃ち込み、同時に数十のテロリストがイスラエルとパレスチナの境界を越えてコミュニティに侵入し、猛烈な攻撃を展開した。その結果、約300人が命を失い、1500人以上が負傷した。 

多くの専門家たちは、ハマスの突如としての大規模な攻撃の背後に、大国の支援の疑念を抱いている。 

独立評論家である蔡慎坤氏は短文投稿サイト「X」で、「ハマスの大規模な攻撃は、大国の後ろ盾を得て中東を混迷に陥れる目的で行われた」との立場を表明した。

彼は「強硬派のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、国を“戦時状態”に宣言し、果断な反撃を行う他にないだろう」と語った。

元中共海軍の中佐、姚誠氏は、ハマス単独によるイスラエルへの大攻撃には、必要な能力や勇気が欠如しているとの見解を示している。彼は「背後に中共の存在があることが最も疑われる」と分析している。

また姚誠氏は「このような行動を通じて、プーチン氏への圧力が減少し、米国の台湾や南シナ海における対中共の立場が弱められる」との見方を示し、さらに「もし、これが第6次中東戦争の原因となるならば、次には中共が金正恩氏を挑発する可能性が高い。この局面において、台湾問題や米国の大統領選挙が交錯すれば、習近平氏にとっては台湾統一の絶好の機会となるだろう」との見解を述べている。 

中共、ロシア、北朝鮮の挑発は世界の緊張を増加させている

姚誠氏が以前に懸念していた状況が実際に生じている。米国のシンクタンクである「米国戦略国際問題研究所(CSIS)」の「Beyond Parallel」は、10月6日に報告を発表した。その中で、北朝鮮が公然と国連安全保障理事会の決議に違反し、ロシアへ武器を輸送している可能性があると明らかにしている。

報告に添付されている衛星画像によれば、10月5日に北朝鮮とロシアの国境に位置する「豆満江鉄道駅」には、73両の貨物車が停車していた。各車両には物資が積み込まれ、防水布で被覆されていた。

過去5年の間で、この駅で最も多く貨物車が出荷された日でも20両だったのに対し、10月5日には突然、異常な数の貨物車が停車していたのである。報告によれば、これらの車両に積まれている物資は、ロシアへ輸送される武器や弾薬である可能性が高いとされる。この情報は、5日に米国政府が公表した北朝鮮がロシアへ軍火を輸送しているという声明と一致している。 

9月12~17日までの期間に、北朝鮮の指導者である金正恩氏はロシアを訪問しており、ロシアのプーチン大統領と何らかの取引を行ったとの観測がある。取引の内容は、北朝鮮がロシアに武器を提供し、ロシアのウクライナへの侵攻を支えるための弾薬を供給するというものであったとされる。見返りとして、ロシアは北朝鮮にロケット技術などを提供したのではないかと推測されている。

また、南シナ海の情勢も緊迫している。10月4日には、フィリピンの沿岸警備隊がセカンド・トーマス礁へ向けて2隻の補給船を護送していた際、中国の海上警察船がこれを妨害しようとした。両国の船がぶつかる寸前、最短で1メートルの距離まで接近した後、約8時間にわたる対峙が続いた。

フィリピン沿岸警備隊の広報担当者であるジェイ・タリラ准将は、6日に中国の海上警察船の行動は国際法に違反していると非難した。彼は「フィリピンの巡視船が迅速に後退したことで、中国の海上警察船との衝突は回避された」と述べている。

セカンド・トーマス礁への補給活動は、フィリピンの定期的なものである。この事件は、台湾海峡の潜在的な対立よりも、中共とフィリピン間の対立がより高い不確実性を持っていることを示唆している。

フィリピンが南シナ海の争議地域で他国と深刻な対立を引き起こした場合、米国はフィリピンとの軍事同盟条約に基づき、フィリピンを防衛する義務を負うことになる。これは、米国が中共とフィリピンの南シナ海での対立に巻き込まれるリスクが増大していることを示している。

北東アジア及び東南アジアにおける米中の対立が表面化する

最近の報道によれば、ベトナムと中共の高官は、中国の習近平国家主席が10月末または11月初めにベトナムを訪問する準備をしていることが分かる。 

ベトナム外務省の報道官であるファム・トゥ・ハン氏は、5日の記者会見において、習近平氏がベトナムを訪れるかという質問に対し、すべての外交活動は適切な時期に発表されるとの回答をした。 

最近、インド太平洋地域での米中間の競争が表面化している。8月には、バイデン大統領は日本と韓国の首脳をキャンプ・デービッドに招き、日韓の対立の解消を図り、北東アジアにおける中共および北朝鮮への対策として日米韓の「三角安保協力」同盟関係を強化した。

その後、バイデン氏は9月にベトナムを訪問し、米国とベトナムの関係は「包括的なパートナーシップ」から最高水準の「包括的な戦略的パートナーシップ」へと昇格し、中国とベトナム、ロシアとベトナムとの関係と同等の位置付けとなった。これは、ベトナム戦争終結から半世紀近くが経過した後の、米国とベトナムとの関係における大きな転換点である。

また、米国とベトナムは、両国間の史上最大規模の武器取引を行う可能性について話し合っている。この取引には、米国のF-16戦闘機も含まれる予定である。この武器販売に対して中共は不満を持っている。

米中が東南アジアで競争を繰り広げる中、ベトナムが米国寄りとなることから、中共は反応を示している。報道によると、中共は習近平氏の団体の宿泊を手配するため、ハノイにチームを派遣した。中共の関係者は、ハノイで800部屋を予約するためのホテルを探索しているという。

さらに、杭州アジア大会の開会式で、習近平氏は韓国訪問を真剣に検討しており、これは日米韓の「三角安保協力」同盟関係の分裂を狙う動きであると指摘されている。

 米中対立がエスカレートする中、中東に戦火が勃発

現在、米中間の台湾海峡や南シナ海地域における対立は明白となっている。南シナ海は、米国にとってアラビア海と太平洋を最も短いルートで結ぶ通路であり、米国の第5艦隊と第7艦隊が相互に移動する際の最も重要なラインである。また、この海域は、複数の地域での紛争に対応する米国の重要な地域でもある。 

1990年代、米軍は欧州とアジア太平洋地域の戦争に同時に対応できる能力を示していた。しかし、当時、欧州における最大の脅威であったソビエト連邦が主導する東欧の共産陣営は崩壊し、ソ連の解体後、ロシアの力は大きく減退した。アジア太平洋における最大の脅威は中共政権であった。

しかし、中共は内部の整備とともに改革開放を進めており、経済的には米国に大きく依存していた。中共とロシアのどちらも、米国との対立を行う力を持っておらず、米国は世界の平和の中心として、2つの戦線に同時に対応する能力をもっていた。

現在、ロシアがウクライナを侵略してから1年以上経過しており、困難な状況が続いている。一方で、中共は30年の静かな時期を経て、世界第2の経済大国として台頭してきた。さらに、欧州や米国の政治、ビジネス界に数十年にわたり影響を与えてきた。そして習近平氏が政権を取ると、第二次世界大戦後の米国主導の国際秩序に挑戦を開始した。

米国政府は2022年10月に「国家安全保障戦略」を公表した。その中で、米国の力の強化と同盟国との協力を強調し、中国(中共)とロシアの挑戦に立ち向かう姿勢を明確にした。ロシアがウクライナを侵略してから半年以上が経過しているが、この戦略報告書は「中国(中共)は国際秩序を再編成する意向と能力を持つ唯一の競争相手である」との立場を示している。

現在、米中対立がエスカレートする中、中東においてイスラエルとパレスチナの大規模な軍事衝突が発生した。このため、米国が欧州、インド太平洋、中東の3つの地域での戦争に同時に対応できるかどうかが、多くの注目を集めている。

趙彬