巨額の負債を抱える中国の不動産大手・碧桂園は最近、遅れていた2250万ドル(約32億円)のドル建て債券の支払いを完了した。しかし、これだけでは投資家たちの不満はほとんど解消されていない。SNSや動画での報告によれば、「購入した住宅が手に入らない」と抗議する投資家たちの動画が拡散され続けている。
不動産会社の債務不履行や突如の口座凍結、公務員の給与未払い、ストライキなど、中国共産党政権の要となる「安定維持」のコストが増加している。一方、中国政府関係者は、不動産への救済は主目的ではなく、市場の管理能力を維持することが最大の関心だと述べている。
不動産救済よりコントロール維持
英フィナンシャルタイムズの取材に応じた匿名の関係者は、中国政府が不動産資産に基づく負債の救済に熱心ではないと指摘。北京は停滞する不動産セクターを支援する意向はなく、市場をコントロールする力を維持することだけを目指していると語った。
「政府は不動産セクターの縮小が避けられないことを理解しており、成長の方向性を不動産やインフラから変更することを目指している」と述べた。具体的な移行先は明言していない。
不動産投資が経済のバランスを乱している中、経済の格差が拡大しているとの見解がある。
米モンタナ大学の中国専門家デクスター・ロバーツ氏は、「政府は9兆ドルのオフバランスの政府債務を処理しようとしている。裕福な沿岸部の省と内陸の貧しい地域との間の格差が拡大し、経済的な連鎖反応を引き起こす可能性がある」と指摘した。
カーネギー国際平和基金の上級フェロー、マイケル・ペティス氏も同様の見解を示す。「経済が減速し、北京が負債問題に取り組む中、開発地域と未開発地域の格差は拡大するだろう。政治的な結果は予測できないが、経済的な影響は避けられない」と述べた。
ロイターによると、碧桂園が5日までに行った総額2250万ドルのドル建て債券の償還は、支払いができなければデフォルトのリスクがあった。
ペティス氏は、「碧桂園の債権償還はデフォルトを防ぐためのものだが、回復する不動産市場が必要だ。しかし、それを期待する人は少なく、北京も期待していないだろう」と述べた。
いっぽう、中国政府は不動産セクターの復活を望んでいないばかりか、実際にはそれが「できない」と広く考えられている。2008年の金融危機の際の救済策を再現するだけの資金がない。地方政府や大手不動産企業は負債を抱え、デベロッパーは崩壊の危機に直面している。
台北海洋科技大学のローレンス・ウー准教授は、経済的な困難と財政的な損失が続く中、中国人の忍耐力は弱まっていると述べた。「中国の経済が危機に直面している今、小さな問題でもすぐに抗議運動が起きる可能性がある」とラジオ・フリー・アジアに語った。
ウー氏は、未完の住宅プロジェクトや凍結された銀行口座、住宅ローンのストライキなど、2017年の河南省の銀行危機と現在の不動産危機を比較。「当時、人々は少しの譲歩で満足していた」と回想する。
最近、中国のソーシャルメディアに投稿された映像には、資産運用大手の中植企業集団の北京本社前で抗議する投資家たちが、大きな白いボードを盾にした男たちに制止される様子が映っている。複数の高利回り投資商品の支払いが滞っているという。少なくとも、不動産投資による543億ドル(約7.6兆円)がデフォルトの危機にあるとされる。
1兆元(約20兆円)以上を運用する金融コングロマリットの中植だ。この負債の影響を最も受けているのは、15万人の個人投資家と5000社近くの企業を含む富裕層と企業だ。
不動産セクターの下落 暗部写す
大紀元の取材に応じた金融アナリスト、無盡滋(むじん・しげる)氏は、8月中旬に米国破産法を申請した恒大集団を例にあげ、中国の不動産セクターの凋落は、中国経済の暗部を映していると指摘する。
ロイターによると、恒大のバランスシートは2期連続で債務超過となっており、資産が36兆円、負債が48兆円という状況だ。
米国破産法13条の適用は、米国内の資産の差し押さえを防ぐためのものだが、中国本土では破産の手続きは進められていない。これは、中国の金融機関や政府が何らかの形で恒大を支援すると考えられるとした。
中国の経済において、不動産がGDPの3割から4割を占めていると言われているが、正確な数字は不明。無盡氏によれば、ソ連の崩壊後のロシアの統計手法を導入しているため、公表されているGDPは実際よりも低い可能性があるという。
このような状況の中でも、中国政府は日本を含む外国企業への投資を促進している。無盡氏は、不動産セクターの不透明性を考慮すれば、投資のリスクは非常に高まっていると指摘した。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。