アングル:「合成俳優」に揺れるエンタメ界、エキストラも複製

2023/07/27
更新: 2023/07/27

[21日 ロイター] – 映画製作会社は100年余りにわたってさまざまなモンスターを画面に登場させてきたが、ついに2023年になって私たちとそっくりの外見を持つ「メタヒューマン」と呼ばれる怪物が現れた。

6月以降、米ハリウッドでは制作側と俳優が映画やテレビにおける人工知能(AI)の活用に関する議論を戦わせてきたが、その条件を巡って合意できていない。全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)が14日にストライキに入り、63年ぶりに脚本家組合と同時にストを決行することになった理由の1つがこの問題だった。

俳優たちが大きな不安を持っているのは、AIで生成された「合成俳優=メタヒューマン」が自分たちの仕事をすっかり奪ってしまうのではないかという点にある。

テレビドラマ「ホームランド」に出演した俳優のカーリー・トゥロさんは「俳優の代わりにAIを活用する計画が重大事でなかったなら、何の迷いもなく契約に盛り込むし、われわれは枕を高くして眠ることができる」と語り、しかし事実はそうでないから芸能の仕事がこれからどうなるか考えると恐ろしくなると説明した。

焦点の1つは、幾つもの俳優のイメージを融合して合成俳優を生み出す取り組み。複数の制作関係者によると、これはまだ実行されていないが、俳優側との契約交渉の一環としてその権利を留保していくつもりだという。

SAG-AFTRAで交渉を統括しているダンカン・クラブツリー・アイルランド氏は、俳優の間には過去から現在、将来にわたる仕事の実績が、自らに取って代わられかねない合成俳優の生成に利用されてしまうのではないとの心配が広がっていると述べた。

クラブツリー・アイルランド氏は、組合としてAI活用の全面禁止は求めていないが、制作会社は組合と話し合い、本物の俳優が務める役を合成俳優に割り振る前に承諾を得てほしいと主張している。

映画やテレビの制作側の関係者によると、大手制作会社は最新の提案でこうした組合の懸念に対応しており、彼らの提案に組合がまだ回答をしていないのが今の段階。コンテンツの創造性に関する選択肢を何とか確保したい制作側はSAG-AFTRAに対し、合成俳優を使いたい場合は事前通告し、交渉の場を設けることに同意している。

<デジタルレプリカ>

制作側と俳優側の意見が対立しているもう1つの問題は、エキストラのデジタルレプリカ(複製)作成だ。制作業界団体の全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)は、ある作品に出演したエキストラ俳優のデジタルレプリカをその作品以外に使用する許可を、当該俳優から得ようとしている。

デジタルレプリカの使用料は俳優と協議し、SAG-AFTRAとの合意で定められた最低限のエキストラ使用人数に違反しない範囲でこうしたデジタルレプリカを活用する考えとされる。

しかしSAG-AFTRAは、制作側が受け入れているのはあくまで当初起用時に承諾を得ることで、これは追加報酬という考え方に反すると異を唱えている。

クラブツリー・アイルランド氏は「実際に意味するのはこれらの制作会社がエキストラ俳優に『われわれの要求に応じないならあなたは雇わず、別の誰かで補充する』と伝えることだ。それでは意義のある同意にはならない」と指摘した。

制作側はまた、3Dボディスキャンで俳優の姿形を取り込むという長年の慣行を継続し、AIによるデジタルレプリカ生成に妥当性を持たせようとしている。つまりこれは撮影終了後の編集などの「ポストプロダクション」作業において、俳優の顔を正確に置き換えたり、画面上の「替え玉」を生み出したりするために使われるとみられる。

こうした作業で制作側は俳優の同意を得た上で、レプリカ使用に際して個別の話し合いに応じると約束している。

クラブツリー・アイルランド氏は、もちろん適切な同意や報酬が確立されるならばこの作業は可能だと述べた上で、組合にとっての懸案は将来の作品のためにデジタルレプリカの権利を保持し、俳優の実効的なバーチャル肖像権を手に入れることだと強調した。

制作側も新たな権利を確保したがっている。それはポストプロダクション作業でキャラクターや脚本、監督の構想に沿った形でデジタル技術を駆使して演技内容を変更するという権利だ。具体的には台詞の1つか2つを置き換える、あるいはデジタル衣装を素早く切り替えるなどで、撮り直しのコストを何十万ドルも節約できるという。

そのため通常のポストプロダクションでは収まらない修正作業を俳優側も受け入れてほしい、と制作側は提案している。

ただSAG-AFTRAは、それはAIの過剰行使だと反発。俳優の肖像や姿形、声の変更に事前の許可を求める構えだ。

(Dawn Chmielewski記者)