チチハル崩落事故 続報 「陳情しない誓約書」に署名しなければ、我が子の遺体にすら会えない

2023/07/27
更新: 2023/07/27

黒竜江省チチハル市の中学校で23日、体育館の屋根が崩落する事故が起きた。崩落時に体育館内で練習をしていた女子バレーボール部の生徒や教員らが下敷きになり、中国当局は11人の死亡を確認したと報じている。

だが、民間では「犠牲者はもっといるのではないか」とする当局不信の声も根強い。この信じ難い事故をめぐり「おから工事手抜き工事)」の疑惑も噴出しており、地元当局に対する責任追及の声が高まっている。厳しい世論の批判を前に、当局は世論誘導に躍起になるとともに、遺族を抑え込むことで「安定維持」を図ろうとしている。

「誓約書」へ署名しなければ、娘と対面できない

ネット上に流れている情報によると、事故発生から3日も経ちながら、いまだに我が子の遺体すら見ることのできない保護者がいるという。つまり、親でありながら、遺体の確認もできていないのだ。

ネット上に出回っている複数の動画は、23日夜に病院で撮影されたとされるもので、当局者と思われる男性が手にA4サイズの紙の束を持ち、まだ娘と会っていない保護者や遺族に署名を求めている様子が映されていた。A4サイズの紙が何であるかは、動画のなかでは説明されていなかったが、他方面からの情報によると「上訪しない誓約書」であるという。

「上訪」とは、中央政府へ上京して陳情することを指すが、主に北京にある陳情局の窓口へ地方の問題を直接訴えることを指す。

その「上訪をしない誓約書」にサインしなければ(すでに遺体となっている)自分の子供に会うことが許されないというのだ。

 

当局者が手に持つのは、遺族にサインを求める「陳情しない誓約書」の紙の束。(下記ネット流出動画よりスクリーンショット)

 

このような地元当局の理不尽に対し、遺族らは怒り「なぜ亡くなった子供に会わせてくれないのか」「サインしなければ遺体に会わせないとは、どういうことだ」と問い詰める。

しかし、用紙を持参した当局者は「私はこの件に関する決定権はない。上の指示を仰がないと…」などと言葉を濁すばかりだ。

「それならば、あなたの上司を連れてきなさい」と要求する遺族に対して、当局者は「なんでもいいから、とりあえずサインしちゃってよ。さもなければ、あんたたち、どこへも行けないよ」と全く誠意のない態度で、悲しみと怒りに胸もつぶれそうな遺族に対して、誓約書にサインすることを求めるだけだ。

また、別の遺族は「5時過ぎに(事故の)報告書は出たんだろう。夜11時過ぎになってようやく(保護者である)我々に知らされた。一体どういうことなんだ?」と問い詰めていた。

 

(ネット上に流出した遺族と当局の交渉場面。陳情しない誓約書を示された遺族が、「サインしなければ子供に会えないとは、どういうことだ!」と詰め寄っている)

「追悼活動」が膨張することを恐れる当局

この関連動画がネット上で拡散されると、当然ながら、ネット民の怒りに火を着けた。

「(子供が)生きている時だけでなく、子供が亡くなっても、その遺体まで(当局に対して、保護者が言いなりになるための)人質にするなんて!」とする罵声がネット上に広がったが、この関連動画はまもなく検閲に遭い、封殺された。

中国大手ポータルサイト「捜狐(Sohu)」26日付は、「一部の犠牲者の遺体は、すでに火葬された」と報じている。この報道における「一部の」という言葉の使い方から、一つの推測が可能になる。

つまりこれは「一部の遺族が、誓約書にサインすることを拒んでいるため、いまだに子供の遺体を確認していない」ということであり、まだ火葬できていない遺体があることを示している。「現地当局の不作為に対して、遺族が怒り、抗議している」というネット情報の傍証になるとみてよいだろう。

事件後「例によって」といってもよいが、遺族は中国当局による「安定維持」のターゲットとなっているようだ。

つまり本来ならば、悲惨すぎる事故によって我が子を亡くした保護者の悲しみに寄り添い、誠心誠意、原因究明と補償に尽力するべき行政側が、はじめから遺族を「抑え込み」にかかっているのである。

「病院にきていた遺族は、実際には騒ぎなど起こしていない。それでも政府は、安定維持を図るために警察を派遣した」。事故のあった中学校に通う生徒の保護者である李さん(仮名)は24日、エポックタイムズの取材に答えた。

取材に応じた犠牲者家族の1人によると、「崩落現場は24日から封鎖され、部外者の立ち入りは禁止された。犠牲になった女子生徒のなかで、最年少は14歳(満年齢13歳)最年長は16歳だった」と明かした。

事故のあった中学校の前には、遺族のほかに、連日のように多くの市民が花や飲み物、お菓子を供えるために訪れ、校門前は、一面を埋め尽すほどの「花海(花の海)」になっている。

ただし、これ以上注目度が上がることを避けたい当局は、そうした供物の一部を撤去して、勝手に処分する動きも見せている。そこには、市民レベルでの「追悼の動き」が膨張することを恐れる当局の本音が、垣間見える。
 

(事故のあった中学校の前に供えられた花束を前に、亡くなった子供を悼む遺族。ある母親は「お母さんが悪かったわ(妈妈错了!)」と号泣し、自身を責めてしまっている。娘に勧めて、この中学校に入学させたことを後悔しているのだろうか。その深い悲しみの訳は、わからない)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。