中国の火にロシアが油を注ぐ

2023/07/23
更新: 2024/06/13

砂上の楼閣はいつまで耐えられるか

中国共産党は国内の経営破綻危機と外国からの輸入問題で頭を抱えている。不動産大手の中国恒大は経営破綻が囁かれ、破綻すれば中国経済に打撃を与えると言われている。そんな時に中国恒大は2023年3月にオフショア債務の再編計画を発表するが2023年7月17日に発表した決算で巨額の負債と手元流動性の減少が明らかになったことで債務再編と事業再開を不安視する声が広がる。

さらに格付け会社S&Pグローバルとムーディーズは2023年7月20日、不動産大手の大連万達集団で傘下企業が債務を返済できないリスクが高まったとして格付けを引き下げている。中国経済は大手不動産会社が相次いで資金繰りに苦しんでおり中国共産党を苦しめている。

国家統計局は2023年3月の16から24歳の失業率は19.7%と発表するが、北京大学の張丹丹副教授はオンライン記事で若者の失業率は50%近くに達した可能性が指摘する。だが掲載された記事はその後削除された。

中国はウクライナからの穀物輸入を強化する方針だがロシア軍はウクライナ南部の港湾都市ミコライウとオデッサを3夜連続で空爆した。ウクライナ当局によると中国向けの穀物約6万トンが消失しロシア軍の攻撃で中国領事館も被害を受けた。中国領事館の被害は軽微とされるが中国向け穀物6万トンの消失は痛手となる。

中国の資源は幻なのか?

中国は広大な土地を持ち地下資源が豊富とされ、油田は世界有数が有ると言われたがロシア・サウジアラビアなどから石油を輸入している。ロシアはウクライナ侵攻で経済制裁を受けているが中国はロシアからの石油を輸入しており、6月のロシア産原油輸入は1050万トン(日量256万バレル)、2番目の原油輸入先サウジアラビア産原油輸入量は792万トン(日量193万バレル)だった。

オーストラリア産石炭輸入は720万トンを上回る可能性が高く、ロシア産石炭輸入は1065万トンとなっている。中国は石炭・石油共に外国からの依存度が高く国内の地下資源の影響力は感じにくい。

食料生産は遠く離れたウクライナからも輸入しなければならない状況を示しており、国内生産が拡大していないことを意味している。中国は広大だが食料を生産できる範囲は限られるのは事実。根本的に問題なのは農業の機械化が遅れていることだ。

産業革命は18世紀半ばからイギリスで始まった。機械化により工業生産が拡大し多くの人間を労働者として必要とした。これが原因で農業従事者を工業に引き抜く事になり食糧生産が低下する。これを解決するのは農業の機械化だがイギリスの農業の機械化は遅れた。これは日本も同じで、工業を優先し農業を軽んじたことで1930年代からアメリカ初の世界恐慌に対応できなくなった。

日本の場合は世界の主要な国がブロック経済を始めたことで日本はブロック経済で弾かれてしまう。食料自給率の低い日本は貿易が減少し国民を食わせることが困難になった。この困難を乗り越えることは難しく日本が農業の機械化が進んだのは戦後からだった。つまり産業構造が農業から工業に移行するのは産みの苦しみであり、イギリス・アメリカ・日本なども乗り越えることで今が有る。

だが中国を見ると工業は急速に進歩したが農業の機械化が遅れている。工業の発達で農業従事者を工業に引き抜いたのはイギリス・アメリカ・日本と同じ。だが、これもイギリス・アメリカ・日本と同じ様に農業の機械化が遅れている。つまり中国は産みの苦しみを経験している最中なのだ。

中国は農業を機械化すれば外国からの食料輸入は依存度が低くなり、国内で生産できない品目だけを輸入するだけの国のはず。だが農業の機械化が遅れたことでロシアと交戦するウクライナからも輸入しなければならない事態に陥っている。

世界市場の影響

14世紀までの戦争は当事国と隣接国に限定されていた。だが帆船技術の向上で帆船貿易が拡大し15世紀からは限定された市場から世界市場に至っている。同時に遠方の戦争だとしても自国の国益に影響する様になる。理由は帆船貿易で世界市場になったことで、遠方の戦争が自国の貿易に影響することが明らかになった。そうなると各国は国益優先で遠方の戦争に干渉と関与で挑むようになった。

これと同じことがロシアのウクライナ侵攻で世界に影響を与えており中国も逃れることはできなかった。中国はロシアを支持しているがウクライナとも貿易を行っている。そんな時にロシア軍がウクライナの港湾施設を攻撃したことで中国向け穀物約6万トンが消失。すると中国は間接的にロシア軍の攻撃で損害を受けたことを意味する。

端的に言えば、ロシアは中国が国内の火消しに躍起になっている時に油を注いだのだ。中国は食料が不足するからウクライナから輸入し国民の怒りを抑えようとしている時に6万トンを消失。他の国からも食料を輸入しているが価格高騰を招くことは回避できない。

ロシアは2023年7月17日、黒海経由で輸出されるウクライナ産穀物の安全を保証する合意「黒海穀物イニシアチブ」の期限切れを待たずに「停止した」と発表した。国連とトルコが仲介した合意だがロシアは国連から経済制裁を受けているので食料を外交カードに使ったと思われる。

ロシアから見ればウクライナ産穀物が手に入らないと飢えるか価格が高騰する。そこで食料を外交カードに使いロシアへの経済制裁を解除させたいのだ。ロシアとしては交渉に自信が有るか博打の二者択一だが、世界市場に影響を与えるから敵国を増やす行為になった。

中国はロシアを支援しているが明らかに黒海穀物イニシアチブの破棄に中国は関与していないと思われる。ロシア独自の思惑で動いているがプーチン大統領は中国へ影響を与えることは知らなかった可能性が有る。さらに中国が事前に察知していればプーチン大統領を止めただろうし港湾施設への攻撃も止めたはずだ。

裏切りの報復

結果論だがロシアは中国を裏切った。ロシアは中国に従う気が無いので利用しただけだろう。とにかくロシアはウクライナとの戦争に勝つことが目的で外国を利用したいのだ。そんな時にロシアは中国を頼ったが習近平の横暴に反発した可能性が有る。
 
仮にロシアが中国を敵に回すことを覚悟しているなら今後も強引な策を実行するだろう。何故ならロシアは石油の輸出国であり中国は輸入国。食料に関してもロシアは輸出国であり中国は輸入国。こうなると立場が弱くなるのは中国だからロシアが強気になるのは当然。仮にこの考えが正しければ、主人であるロシアは中国を農奴と見なすだろう。すると中国経済は打撃を受けることは明らかだから中国はロシアに対して報復をすることは明白。

中国がロシアに報復する前に中国経済はロシアに翻弄されることになる。食料価格の高騰が中国を苦しめ物流を苦しめることになる。仮に中国がロシアに報復するとロシアは中国向けの石油と食料輸出を停止するだろう。そうなれば中国とロシアは報復合戦となり弱体化するだけ。これは明らかだから欧米は中国とロシアの共倒れを高みの見物で待っている。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。