米国に亡命した中国人作家の物語 「私は、心身ともに自由になった」

2023/07/30
更新: 2023/07/30

2023年春、娘とともに米国へ亡命した中国人の人気作家がいる。その人、汐顔(@xiyan68)さんが7月13日、エポック・タイムズの取材に応じた。

汐顔(せき がん)さんは今、民主社会における個人の権利が保障された米国にいる。そこで「心身ともに自由を手に入れた」ことを実感するとともに、数カ月前の中国にいた頃の自身が、常に警察につきまとわれ、精神をすり減らしながら苦しい日々を送っていたことを思い返している。

公安に監視される生活

今年3月、故郷である湖南省に住んでいた汐さんは、広東省で弟と一緒に暮らす母親が病に倒れたことを知り、急いで駆け付けた。だが、その翌日、現地警察が来て、弟に対し「なぜ彼女(汐さん)がここへ来たのだ。彼女は直ちに、ここを離れなければならない。広東に留ってはいけない」と告げたという。

「もし私がこのまま留まれば、弟一家は絶えず当局からの嫌がらせを受けることになり、正常な生活ができなくなる」。そう考えた汐さんは、泣く泣く病気の母親と別れるしかなかった。

汐さんは、思わずつぶやいた。「あれから6年も経ったのに、彼ら(公安当局)は、まだ私を見逃してはくれないのか」。

6年前、汐さんは広東省で行われた人権活動家・劉暁波氏の追悼イベントに参加して、当局に逮捕された。家財を没収されたうえ、現地留置所で28日間にわたり不法に監禁された。釈放後、当時は広東省に住んでいた汐さんは、続けて広東省に住むことを許されなかった。

劉暁波氏は中国政府を批判したことで有罪となり、4度目の服役中にノーベル平和賞(2010)を受賞した作家でもある。劉氏は、その服役中である2017年の7月13日に、肝臓がんで死去した。

私は「籠の中の鳥」だった

今から6年前である2017年7月。逮捕される前、汐さんは広東省で店を経営していたが、警察の留置所から出た後、経営がうまくいっていたはずの店は急に経営不振になった。従業員は去り、商売もそれ以来途絶えてしまった。

実は汐さんは、その2年前の2015年、友人と一緒に天安門事件の犠牲者を追悼しようとしていることを自身のSNSで明かしたところ、自身が経営する店内で当局によって逮捕されている。

その時は、20時間以上にわたって取り調べを受け、午前1時ごろに拘置所に入れられた。そのままそこで、20日間以上監禁されたのである。

そして今年(2023)の政府重要会議「両会」の前に、汐さんは公安当局から「(湖南)省外には出るな。おとなしく家にいるようにしろ」と警告を受けたと言う。

「私は、ただ少しばかり発言し、メッセージを送っただけです。なのに、そうやって公安当局から何度も誓約書へのサインを強制され、脅されてきました」「私は自分の国で行動の自由もなければ、最も基本的な言論の自由さえない。何もないのです」

「私は、まるで籠の中の鳥のようでした」。彼女は、当時の自身を振り返りながら、悲しげに語った。

広東の母親の見舞いから湖南省に戻った後、汐さんはすぐに、自身の逃亡計画の準備を始めたという。

中国人「自由作家」の汐顔さん。(本人より提供)

アカウントの「口封じ」で収入ゼロに

汐さんの持つウェイボー(微博)やウィーチャット(微信)の公式アカウントなどは、いったんファンが増えるとすぐに当局によってアカウント停止されるか、内容を消されてしまうという。

中国を出る前、汐さんがもつ十数ものSNS公式アカウントは失われていた。汐さんの近年の生活は、これら公式アカウントからの収入に頼っていたため、全て封鎖されてからは収入がゼロになっていた。

彼女の記事を楽しみにしている熱心な読者も多く、時には投稿してから5、6時間で10万を超えるアクセスがあったという。しかし、習近平・中国国家主席の写真に墨汁をかけたとして精神病院に入れらた董瑤瓊さんのために書いた文章は、投稿後まもなくしてアカウントごと封鎖され、7万人以上いたフォロワーを失う結果となった。

それから当局は、汐さんのファンが増える度に神経を尖らせるようになった。フォロワーが1万人あたりを超えると、そのアカウントはすぐさま削除されてしまったという。

中国には汐さんと同様、突然アカウントを封鎖される人気作家が多い。汐さんの友人でもある「天佑胖子」の場合、雲南省を批判する文章を公表した後、ウェイボーアカウントが削除され、長年培ってきた30万人のフォロワーを失っている。

「やっと安全になった」と感じた

娘と一緒に乗った飛行機がロサンゼルス空港に着陸した時、汐さんは「これで、やっと安全になった」と感じたという。

彼女が米国へ逃げたことを知った湖南の公安当局は、直ちに「即刻帰国せよ」と求めてきた。もちろん汐さんは、これを拒絶した。それから公安当局は汐さんの両親や兄弟、元夫にまで接触を図り、ありとあらゆる限りの「脅迫カード」を切ってきたという。

今年の六四天安門事件の前、中国の公安は米国にいる汐さんに直接電話をかけ、「中国政府を攻撃したり、中傷してはならないぞ!」と警告した。

これに対し、汐さんは「ああ、あなたの電話のおかげで、大事な日を思い出しました。明日の(追悼)イベントには必ず行きますよ!」と答えたという。

「中国にいたとき、心の中はずっと怖かった。警察が、いつでも私を監視していたからです」と振り返る汐顔さん。しかし「(米国に着いた)今はもう怖くありません。夜眠れないこともなくなりました。とてもいい感じです!」と嬉しそうに語るのであった。

汐顔さんは今、米国という自由の地で、新しい人生を始めようとしている。もちろん、作家として自由に創作し、遠慮なく発言する才能を存分に発揮しながら。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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