中国の一部地方政府で5月から職員給与支払いに、中国人民銀行が数年前より進めてきたデジタル法定通貨「デジタル人民元(e-CNY、数字人民币)」が使用される。これにより個人の監視はますます進むと専門家らは警鐘を鳴らす。
江蘇省常熟市政府は今月20日来月からの公務員や国営企業職員への給与を全額「デジタル人民元」で支払うと公表。地方政府としての使用は初めてとなる。
忍び寄る脅威
デジタル人民元は通貨としての価値は従来の人民元と変わらず、消費者にとっては他のモバイル決済やクレジットカードを使用するのと同様の手順となる。デジタルウォレット同士で送金可能だ。
利点は主に加盟店側にある。「アリペイ」や「WeChat Pay」といったキャッシュレス決済のように手数料が発生しないほか、ブルートゥースのように近接通信(NFC)技術を通じてオフラインの環境でも使えるといった強みがある。
いっぽう、「よりお得でより便利」なデジタル人民元を推進する中国当局の狙いは、個人情報の追跡や監視を強化することだと、複数の専門家やシンクタンクが指摘している。
「政府が望まない言動をすれば、貯金を差し押さえることができるかもしれない。これでは一種の政治弾圧もしくは経済的な略奪になる」と時事評論家の唐浩氏はその危うさを自身の動画番組「世界的十字路口」で解説した。
米シンクタンク・新アメリカ安全保障センター(CNAS)も1月に発表したデジタル人民元に関する報告書のなかで、デジタル人民元が「権威主義国家の新たな統治ツールになる」と警鐘を鳴らしている。
ファンド運営会社ヘイマン・キャピタル・マネジメントの創業者カイル・バス氏は、エポックタイムズのインタビュー番組「米国思想リーダー」に出演した際に「これは単なるデジタル決済アプリではない。所在地や名前、社会保障番号など、すべての個人情報を追跡するアプリだ」と取り上げていた。
唐浩氏も同様にこの問題を捉えている。デジタル人民元は中国共産党の中央銀行が発行しているため、すべてのユーザーの個人情報やデータは中央銀行に集まる。
「いつも監視カメラを持ち歩いているかのようなもの。中国共産党は私たちの生活習慣や居場所、訪れた場所、朝食に何を食べたのか、仕事終わりにどの交通手段で帰るのか、休日にどこで食事や休暇を過ごすのか、すべて把握できるようになる」と指摘した。
前出のバス氏はまた、デジタル人民元を世界に広めるのには、米ドル依存度を下げて米ドル基軸体制を覆す狙いがあるという。
「中国政府には信用がないので、人民元が米ドルに置き換わる日はまだ遠い」と唐浩氏は述べる。世界の中央銀行の外貨準備の約60%が米ドルで、人民元はわずか2.7%だ。
そのいっぽうで、中国共産党は国際決済システム「SWIFT」を通さない、一帯一路参加国圏による国際決済システムの構築を目指している。これを発展させれば、デジタル人民元を通じてイランや北朝鮮、キューバなど独裁政権への送金にも利便性が高まると分析した。
デジタル人民元の流通は、単に中国人が監視・弾圧されるだけでなく、中国共産党が世界に向けて行う「デジタル浸透」、「デジタル覇権」といった国際的な安全保障の問題にも関わってくるため、世界は警戒感を高めるべきだと唐浩氏は提言した。
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