12月22日、湖南省長沙市の住宅団地「合能麗璞」で、年の瀬の中国を象徴する出来事が起きた。フードデリバリー配達員数百人が一斉に抗議に立ち上がった。
きっかけは住宅団地での一件にすぎなかったが、生活に追われる人々の不満が連鎖的に広がり、張りつめた社会の空気がそのまま現場に噴き出した。
抗議の引き金となったのは配達ルールそのものではない。配達員だけを締め出し、見下すような態度で接した管理側の対応だった。

右:配達員らが集まった抗議現場の様子(映像のスクリーンショット)
話の発端は、団地側が「配達員は電動自転車では入れない。徒歩で配達しろ」と求めたことだった。団地の住民は電動自転車での出入りは認められていたと配達員を擁護していた。
しかし団地の警備員は配達用電動自転車の前で地面に横たわり「配達員に殴られた」と主張した。配達員側はそうした警備員の行為を当たり屋まがいの行為だと受け止め、一方的に加害者に仕立てられたとして強く反発し、謝罪を求めた。しかし管理側は応じなかった。団地の住民の多くは管理側を支持し、配達員をかばう声はほとんどなかったという。
こうした一連の出来事が周辺地域から配達員に共有され、配達員が次々と集まり、抗議は短時間のうちに数百人規模へと膨らんだ。団地の出入口は配達員で埋まり、怒りと不満が渦巻いた。現場の映像には、声を荒らげて訴える人々や、感情を抑えきれない様子が映っている。
(現場の様子)
夜になると、抗議は何かの「蜂起」のような一種の熱狂的な雰囲気へと変わっていった。
現場では、若い配達員の一人が王冠のような飾りをつけ、黄色い皇帝の衣を羽織り、「この皇帝を前にして、なぜひざまずかないのか」と書かれた言葉を掲げたまま、別の配達員の電動自転車の後部に立って現場を回った。
王冠や皇帝の衣を身につけるこの行動は、「蜂起を象徴するものだ」と受け止められ、周囲の配達員から歓声が上がった。

現場を撮影した動画はSNSで拡散され、映像には「蜂起」といった言葉をタイトルに付けたものもあった。
応援のため現場へ向かう配達員の列が通ると、沿道の市民が声を上げて応援し、市民が自ら道を空け、走り抜ける配達員に親指を立てて声援を送る場面も相次いだ。現場には、まるで「蜂起」を後押しするかのような空気が漂っていた。
本紙の取材に応じた現場にいた配達員は、「あの日、抗議に集まったのは、ほとんどが20代の若い配達員だった」と明かした。抗議の拡大に当局は警戒を強め、夜が更けると、警察は数百人を出動させて排除に動いた。それでも一部の配達員は最後まで現場に残り、立ち去ることを拒んだため、配達員3人が拘束された。

今回の抗議の背景には、配達員を取り巻く厳しい生活状況と、電動自転車を団地の外に安全に置いておけない事情が重なっている。
配達員にとって電動自転車は、単なる移動手段ではない。配達時間を守り、収入を確保するために欠かせない仕事道具だ。
徒歩での配達を強いられれば、広い団地内を移動するだけで時間を取られ、配達が遅れればペナルティを科される。体力的な負担も大きい。さらに、電動自転車を門前に止めておけば、盗難や駐車違反の不安もつきまとう。配達員にとって、この取り決めはまさに死活問題だった。
そして実際、配達注文数は減り続けており、長時間働いても生活は楽にならず、年末を迎えて不安は増すばかりだ。
抗議の映像や投稿の多くは、その後ネット上から消された。
しかし、中国には約1400万人規模のフードデリバリー配達員がおり、その厳しい境遇が変わったわけではない。社会への不満や怒りが消えたわけでもない。
(現場の様子)
実際、外部の抗議追跡プロジェクトによると、2025年に確認された抗議・集会・衝突の件数は前年を大きく上回っている。
Freedom Houseがまとめる「China Dissent Monitor」では、2025年第3四半期だけで約1400件の抗議・不満行動が記録され、前年同期比で約45%増加したとされる。これは確認できた事例のみを集計したもので、実際の件数はさらに多いとみられている。
年の瀬を迎えた中国社会では、生活の限界に追い込まれた人々の不満が底に溜まり続けている。多くの専門家は、こうした状況が続けば、怒りがいつ、どこで噴き出してもおかしくないと警鐘を鳴らしている。

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