災害リスク、強制労働加担…問題山積の太陽光パネル設置義務化 杉山大志氏に聞く

2022/12/09
更新: 2023/03/02

「屋根の上に強制労働に関わった製品を置こうと思う都民はいないだろう」。エネルギー専門のキヤノン・グローバル戦略研究所の杉山太志氏は大紀元のインタビューに答えた。

かねて性急な太陽光パネル設置に反対してきた杉山氏は、人権問題加担や都民の経済負担増、災害時の漏電リスクなどを上げ、東京都が進める新築住宅への太陽光パネル設置義務化の中止を求めている。請願提出や記者会見を通じて問題の周知を行なっている。

東京都や川崎市では、2025年度か新築住宅への太陽光パネル設置義務化に向けた動きが進む。東京都の小池百合子知事は12月の定例会議で、厚い公費助成や還付制度を設けて再エネ政策を推進していくことを改めて強調した。

エネルギー政策を専門とする杉山氏は、世界的に進むネットゼロCO2規制は必ずしも科学的ではないとも指摘する。再生可能エネルギー政策を急げば、主要なレアアースの輸出元である中国の依存は高まりかねず、日本のエネルギー安全保障にも悪影響を及ぼすと警鐘を鳴らす。

太陽光パネルの8割が中国製

ーー2年後の2025年、東京都が住宅に太陽光パネル設置義務化を導入する方針だ。

東京都の太陽光パネル設置義務化には、さまざまな問題が山積している。特に、新疆ウイグル自治区での人権侵害、強制労働疑惑の問題は重大だ。今世界の太陽光パネルの8割が中国製で、そのうち半分ぐらいが新疆自治区だ。もうすぐその中国の世界に占めるシェアが95%になろうとしている。

米国ではウイグル強制労働防止法が制定された。6月に施行されている。EUもこの9月にはそういう法律の検討を始めている。東京都の条例はこうした動きとは逆行しているようだ。

東京都の説明だと建設事業者は「人権を尊重しなさい」と言われ、無理難題を強いられている。そもそも、自分の家の上に強制労働に関与した製品を望む東京都民はいないだろう。
   
ーー住宅のみならず、日本の太陽光パネル事業は進んでいる。山を削ってパネル設置する自治体もある。

施工のひどいところは、原風景の破壊となり景観も悪い。作りながら崩れていたり、のちに土砂崩れを起こしているところもある。導入ばかりに前のめりで安全に関する条例が整備されていない。

そもそも太陽光パネルには経済性が低い。太陽光発電はすでに過剰導入で、天気のいい日などは(電気を)捨てているぐらい。これ以上導入するとますます捨てる量が増える。夜間や雨天など天候に合わせる太陽光発電には、そばに火力発電所が必要で、二重投資になって効率が悪い。

2050年CO2排出ゼロは極端

ーー非効率なのに、なぜ東京都や日本、先進国は進めるのか。

2050年CO2排出ゼロは極端な話で、それを推進している勢力がある。大きな流れが2つある。

1つは資本主義が嫌いな人たち。昔の公害運動も似ている。1991年のソ連崩壊後、よりどころを失った活動家たちは環境運動を掲げ始めた。資本主義のアンチテーゼとしてだんだんシフトしていった。日本と違うのは、欧州では「緑の党」政党があるように、強い市民権を持っていることだ。ドイツでは、政権与党に入り閣僚まで誕生している。

もう1つは金融界だ。ここ数年、世界中の金融業界、主要銀行や投資銀行は2050年に向けて投融資のCO2の排出量をゼロに向けて変えていこうと宣言した。米民主党政権や欧州の政権もリベラルな発想のなかで、世界全体の流れとして2050年にしようとなった。

ーー過激なテロ活動のようなことをする環境活動家は非常に若い。若年層にその反資本主義が広がっている?

今の世の中が気に入らないっていう行動力ある若い世代だ。しかし、彼らの後ろには大人の環境団体がいる。よく見ると、何十年も前の社会主義らしい言葉を発している。日本では、大学紛争という死者まで出す事件を起こして市民権を失っている。これは日本と米欧と違うところだろう。

ーー日本の火力発電は非常にクリーンだという。

磯子(いそご)にある火力発電所などは有名だ。大気汚染となる硫黄酸化物や窒素酸化物が少なく、そういう点では間違いなくクリーンだ。燃焼の効率もよく排ガスは少ない。技術はもっと国内でも推進するのがいいと思うし、海外援助でどんどん作るのがいいと思う。

エネルギー供給には原発稼働

ーー原発稼働について、紛争時にテロの標的となるといったリスクがある。

堅牢に作られている原子力発電所を狙いテロを成功させるのは難しいと思う。高いビルや駅、石油基地など標的になるところはたくさんあるし、テロのコストは圧倒的に安い。

ーーロシアによるウクライナ侵攻で世界情勢はますます不安定になり、台湾有事の可能性も高まる。日本の生命線とエネルギー安全保障について。

エネルギー受給は予断ならない状態だ。ノルドストリームのパイプライン事故や米国ではLNG設備事故が起きた。サイバーテロもある。サプライチェーン途絶に備え国内でエネルギーを供給できるようにしておかないといけない。

日本はエネルギー安全保障を台湾有事まで含めて考えてこなかったと思う。本当に南シナ海とか(封鎖され)、海上輸送できなくなった場合を想定しないといけない。

原子力発電は一度燃料を入れれば1年以上は入れ替えなしにずっと運転する。万が一、有事になり海上封鎖や石油基地が攻撃を受けたとしても電気が絶えず供給されている状態になるので、国のエネルギー環境には一定の安定をもたらすだろう。

エネルギー政策は脱炭素、再エネ最優先と謳われているが危険なことだ。エネルギーは安定供給が必要で経済性も重視されるべきだ。エネルギーはバランスを考慮して停止した原子力発電を再稼働させ、石炭火力発電を最大限に稼働させることだ。

国も東京都も気候変動対応に急いでいるようだが、「気候危機」というほど差し迫ったものではないと考える。2050年に向けた「ネットゼロ」を正当化するような科学的知見はどこにもない。実現には経済負担が大きく、国の安全保障も危険な状態になる。

(つづく)

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。