反撃能力の必要性など提言、財源は「国民負担も視野」 政府有識者会議

2022/11/22
更新: 2022/11/22

[東京 22日 ロイター] – 政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は22日、反撃能力の確保や外国製ミサイルの購入など防衛力強化に向けた報告書を岸田文雄首相に提出した。防衛力の財源については、歳出削減を優先しつつ国民負担も視野に入れ、国債発行を前提としないよう求めた。首相は年末までに、外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など防衛3文書の改定、今後5年間の防衛強化策や2023年度の関連予算を詰める。

報告書は、会議の座長を務める佐々江賢一郎・元駐米大使が岸田首相に手渡した。首相は、縦割りを排した総合的防衛力構築や経済財政のあり方を提言してもらったとし、「与党とも調整し政府として検討を進めたい」と応じた。直後の政府与党政策懇談会では「報告を踏まえ、年末までに関係閣僚で調整を加速する」と表明した。

<外国製購入で早期ミサイル装備、縦割り打破・サイバー一元化>

報告書は、反撃能力の保有と増強が抑止力の維持・向上のためには不可欠で、ミサイルは国産品の改良や外国製の購入でできる限り早期に十分な数を装備する必要があると提言した。

また、縦割り打破のため防衛省・自衛隊のニーズを踏まえ関係府省が連携し、予算が効果的に活用される仕組みが必要と指摘。具体例として、特に南西諸島の港湾や空港などの公共インフラの安全保障目的の利活用推進を挙げた。

サイバー攻撃への対応では、一元的に指揮を執ることができる機能の大幅強化などで、攻撃を未然に防ぐ能動的サイバー防御を実施できる制度が必要とした。

<財源・国民負担能力や企業に配慮必要>

財源を巡っては、歳出改革による捻出を優先的に検討すべきで、新型コロナウイルス対策で国民の手元に届くことなく独立行政法人に積み上がった積立金の早期返納などで工夫するよう提言。その上で、財源として足りない分は「国民全体で負担することを視野に入れなければならない」と記した。

歳出と歳入のタイミングがずれることに伴う期間調整の仕組みや、防衛力強化の内容と他経費とのバランスを踏まえた検討は必要としつつ、国債発行が前提となることはあってはならないと指摘した。

税負担の具体的項目は示さず、「国民各層の負担能力や経済情勢を配慮しつつ財源確保の具体的な道筋が必要」とまとめた。同時に、企業の投資・賃上げに水を差すことがないよう議論を深めるべきとの意見も盛り込んだ。

共同通信などによると、佐々江座長は報告書提出後、防衛費の財源として法人税増税に関する記述を見送ったことについて「今の段階で法人税だけ特別に重点を置くことが適切なのか」と指摘。慎重に見極めていく必要があると語った。

<防衛費総額めぐり党内調整急務、自民有志48兆円で決議>

有識者会議の提言を踏まえ、防衛予算の増額規模が今後の焦点になる。

自民党は選挙公約で、現在国内総生産(GDP)の1%程度となっている防衛予算を5年以内に2%以上に引き上げることを打ち出している。このため防衛省は内部で2023年度から5年間で48兆円の予算が必要と試算をまとめており、政府が2018年末に公表した現行の中期防衛計画(中期防、19年度から23年度までの防衛費27兆円程度)の2倍弱の規模となっている。高市早苗経済安保担当相など自民党の有志グループ「保守団結の会」も48兆円の確保が必要との決議をまとめている。

これに対して、政府側は有識者会議の資料で、防衛省予算に恩給費・PKO関連経費・海上保安庁などの費用を足した広義の安保関連経費はGDP比1.24%との試算を公表している。自民党内には他省庁予算を組み込まない「真水の防衛費を増やすべき」(閣僚経験者)との意見と、政府案に沿い他省庁予算を組み込んだ広義の防衛費を拡大する意見の対立がある。

財源についても、増税には時間がかかるため、当面国債発行でつなぐとの意見が与党内で主流だが、増税の実現性については党内でも温度差がある。防衛費の規模が、党・政府税調の方針にも影響するため、「政権中枢による防衛費のおおまかなガイドラインが早期に必要」(元防衛相)とされている。

有識者会議が提言に盛り込んだ反撃能力の保有についても公明党は戦後日本の国是としてきた専守防衛の概念と矛盾しかねないと慎重姿勢だ。自民党は、他国が日本を攻撃する準備に入ったと認知して初めて活用する手段と説明する意向だ。

*内容を追加しました。

Reuters