「台湾人を再教育?」中国大使という不可解な職務

2022/08/18
更新: 2024/04/22

外交関係のある国は、通常、それぞれの国を代表する在外公館として、大使館や領事館が置かれる。そこには、本国から赴任してきた大使あるいは領事といった高い役職の人がいる。もちろん日本も外国で、そのようにしている。

台湾人を再教育」とは?

このうち、大使館は主として外交部門の職務を担当し、領事館はその国に在住する自国民の保護を担う。いずれにせよ、本音はともかく建前としては、その機関が所在する相手国と「良好な関係」を保ちながら、円滑に種々の職務がなされているはずだ。

本来、こんな常識的なことは書く必要もないのだが、現体制下における在外の中国大使館は、それ以外のことまで「職務」のうちに入っているらしい。そこが日本人には、まことに不可解に思えてしまうのだ。

駐フランス中国大使である盧沙野氏は3日、仏メディアの番組に出演した際、米国のペロシ下院議長の台湾訪問を強く批判するとともに、中国が台湾を統一すれば「台湾人を愛国者に変えるための再教育を行う」と耳を疑うような発言をして、物議をかもした。

同氏の発言に対しては、台湾にいる2400万人にちかい自由主義社会の人々を、新彊のウイグル人が入れられているような強制収容所に押し込んで「思想改造」でもするのかと、半ば呆れながらの反応がツイッターなどに多数上がっている。

仮にも一国の大使ともあろう人物が、このレベルの発言をするとは驚き以外の何物でもない。ただ、これを口にすることが戦狼外交を展開する中共にとっての「普通」であるのかもしれず、さらには、それに異議を唱えるものは「米国に騙されている」という中共ならでは「独特なロジック」になるらしいのだ。

まさか現実にそうはなるまいが、台湾の歴史を知っている人なら、盧氏のこの不用意な発言は、台湾人の心の古傷に唐辛子を塗ったことに気づくだろう。

第二次世界大戦の直後、日本が去った台湾に、大陸から大挙して押し寄せてきた国民党軍の外省人は、台湾の人々である本省人に対して、ひどい仕打ちをした。

「二二八事件」に象徴される白色テロの時代から現代まで、民主化を着実に積み上げてきた台湾人の誇りを逆なでしたことに、おそらく盧沙野氏は全く気づいているまい。

「外交官の亡命」に神経をとがらす

当然ながら日本にも中国大使館があり、中国(というより中国共産党)から派遣された大使がいる。現職の駐日中国大使は、孔鉉佑氏である。

上海外語大の日本語科に学んだという孔氏は、日本語が堪能で、まことに結構である。大使着任前に日本で勤務した経験が14年というから、知日派であることは間違いない。

ただ惜しむらくは、日本という自由世界をよく知りながら、中共の毒に染まっていることだ。

とは言え、それも無理はないだろう。
かつて、陳用林氏という中国外交部の一等書記官がいた。陳氏は、2005年に赴任先のオーストラリアで家族とともに政治亡命を果たし、現在は同国で永住権を得ている。

亡命理由は、中共による反体制派への人権迫害に対して、自ら反対の意思を示したことによる。以後、亡命や逃亡防止のため、中共による外交官の選抜や管理が格段に厳しくなったことは言うまでもない。

真実を突かれると逆上する体質

先月8日、凶弾に倒れた安倍晋三元首相は、2021年12月1日に台湾で開かれたシンポジウムに日本からオンラインで参加し、「新時代の日台関係」と題する基調講演を行った。

そのなかで安倍氏は「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と明確に述べている。

これに対して、駐日大使である孔鉉佑氏はすぐに反応した。
「ごく一部の政治家が『台湾有事は日本有事』と公然と主張し、台湾問題の介入をあおるなど、過激発言を繰り返している」と述べた上、安倍氏の発言を「意図的な挑発であり、断固として受け入れない」などと、日本語で語気も荒く否定している。

これは驚くには値しない。中共とはそういうものである、と言ってもよいが、とにかく真実を突かれると決まって逆上し、ほとんど狂乱的な反応を見せるのが常だからだ。

それによって、そこが中共の急所であることが、こちらに分かるのである。

中共が台湾を領有したことはない

言うまでもないが、中国共産党が台湾島を領有したことは、歴史上、一度たりともない。

その明白な事実に、日本人および世界が気づいてしまうことを、中共は、一種のアレルギー反応のように、ほとんど生理的に忌避するのである。

過去において中共は、盛んに日本の贖罪意識を利用してきた。しかし、もはやそうした歴史カードの「効き目」は薄れている。実際、日本はずいぶん謝罪してきたが、恣意的に扇動される反日デモの前に、謝罪の意味はないことに日本もようやく気づいた。経済界では、チャイナリスクという言葉も一般化した。

そこで中共は、数年前から、やたら目つきの悪い戦狼外交の要員をわざわざ前面に出してきた。そのチンピラ的な感覚からして、すでに異常な国家であると言うしかない。

中共の戦狼外交は、対米貿易摩擦が主な側面と見られており、日本の頭を飛び越えた米中間の問題とも言われているが、そこからの打開の鍵を握るのは、むしろ日本であるかもしれない。

ここで日本が腹をすえて、「中共は、正統中国に非ず」を明確に示すならば、元寇以来の大風が吹くこともありうるだろう。なにしろ中共にとって、台湾を日本に認めさせたら一大事で、中国共産党は三脚の一本足を失うからである。

足を踏んで「冷静に」とは?

同情するつもりはさらさらないが、この現職大使である孔鉉佑氏という人も、あるいは貧乏くじを引いた人であるのかもしれない。

本国の命じるように、日本で好悪ともに演じなければならないのは、さぞ不如意であろうかとも思う。

記者の記憶にあることだが、2020年10月に日本の報道番組であるBSプライムニュースに出演した孔鉉佑大使に、メインキャスターの反町理氏が沖縄県の尖閣諸島をめぐる問題について質問を向けた。日本の領海には、多数の中国船が連日入り込んでいた。

これに対して孔大使は「しっかりとした危機管理。これ以上エスカレートしないよう、それぞれ(日中双方)がやるべきことをちゃんとやるべきだ」と述べたが、質問に対する答えが、どうも合っていない。

大使本人が日本のテレビに出演する以上、番組で聞かれる質問は事前通告されていただろう。孔氏も、用意していた答えをぶっきらぼうに述べたに過ぎない。

また孔氏は「双方が冷静に対処すべきだ」と再三強調していた。一見もっともなようだが、実際その海域に多数の工作船を入れてきているのは、日本ではなく中国側なのである。
人の足を踏みつけながら何を言うか、といったところか。

それを「これ以上エスカレートしないよう」、「双方が冷静に対処」とは、日本語のうまい孔大使にしてはまことに上手くない芝居であった。

「浸透する」共産主義の危険

本年4月18日、大紀元の取材に答えた櫻田義孝衆議院議員は、「日本は共産主義国になってはいけない」との考えを示した。

まことにその通りである。とくに訂正の必要もないが、一言申し上げるならば、中国共産党の狙いは「日本が政権交代して共産主義国家になる」ことでは全くなく、中共が腹の底でひた隠す本音は「日本は今のままの体制でいい。もちろん日本は、今後も自由主義世界の一員でなければならない。ただ政権与党のなかに親中や容共、あるいは対中経済優先の有力な議員が複数いてくれればいいのだ」ということかもしれない。

中共は、あらゆる手を使って日本や米国に浸透してくる。その浸透の度合いは、日本でも米国でも、すでに深刻なレベルであると言うべきかもしれない。

中共を終焉させる「一言」

日本から続けてカネを吸い取れば、米国と対峙しながらでも、腐敗しきって自滅しそうな中共中国はなんとか延命できる。それが可能かどうかはともかく、彼らは、そう算盤をはじいているだろう。

中共は、人民から搾取する現体制のまま生き残るために、なんとしても米国と直談判して、その保障となる担保が欲しいのだ。

太平洋を中米で二分割するなどは暴論以外の何物でもないが、そこで果たしてバイデン大統領が適切な判断をするか否か、現段階では分からない。

もしもここで、アンデルセン童話『裸の王様』に出てくる子供が登場し、無邪気な指をさして「中共は、中国じゃないよ」と言ったら、どうなるか。

その真実に賛同する人々が世界中に広がり、中国共産党が積み上げてきた虚偽の城の石垣が崩れて、あえなく瓦解するかもしれない。歴史に定められた時が至れば、東欧やソ連と同じく、革命政権など一気につぶれるものだからだ。

さて、その時にである。中国大使館の大使以下、在外勤務の中国人外交官や職員のうち、純粋な愛国心にかられて迷わず祖国へ戻る人は、一体どれほどいるだろうか。

その割合を想像するに、さほど高いとは思われない。それも中共の、隠せない一面である。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。