半導体は経済のみならず軍事においても欠かせない技術だ。 ロシアによる侵略戦争の対抗手段としてウクライナ軍が使用したことで知名度を上げたロッキード・マーチン社の携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」には、250個以上の半導体が使われているが、台湾の半導体技術が多く含まれている。
5月26日、ダボスで開かれた世界経済フォーラムに出席したレモンド米商務長官は、自国の国家安全保障と経済、未来のために「米国の半導体法(CHIPS for America Act.)」を早急に可決させ、半導体の国外委託の依存度を減らす必要があると説いた。
「米国は台湾から最先端のチップの70%を購入し、いくつかは軍事装備に与えられている。ジャベリン・ミサイルシステムには250個使用されている。これらを台湾からすべて購入するのだろうか。これでは安心できない」とレモンド氏は述べた。
受注先を明かさない台湾積体電路製造(TSMC)だが、同社はアップル、グーグル、クアルコム、エヌビディアなど多くの米国およびグローバル企業の供給パートナーとなっている。前述のように兵器製造に関わるものもあるとされ、台湾の政治・経済的安定性が損なわれれば、米国の安全保障に深刻な影響を与える。
6月9日、半世紀余りの歴史を持つ「米国台湾商業協会(USTBC)」は民間シンクタンク「プロジェクト2049」と共同で、台湾半導体事業と米国の安全保障およびサプライチェーンの影響に関する共同報告書を発表した。それによると、台湾の半導体産業は米国経済、国家安全保障、デジタル経済に欠かせないものであり、現代生活のほぼすべてに影響を与えているとした。
国防総省からテクノロジー企業まで、米国は台湾の半導体、特にTSMCと聯電(UMC)に大きく依存している。複雑な半導体製造技術を備えるのはTSMCと韓国サムスンのみであり、報告書は「米国は産業界でリーダーシップを維持するためにも、台湾との緊密な関係の維持」が求められると指摘した。
USTBCのルパート・ハモンド・チャンバーズ会長によると、台湾の半導体事業はビジネス関係のみならず、自由主義と民主主義の指標として地理上の戦略的意味合いが強いという。共産党の支配下に「台湾が入れば、世界経済の主要な柱を敵対勢力に委ねることになる」と警戒感を示した。
中国は台湾の半導体事業が統一への動機付けになる可能性が高いと指摘する報告もある。業界誌ICインサイツは以前、中国は統一で社会的混乱による短期的な損害を差し引いても、台湾の優れた半導体事業を支配するという長期的な利益を選ぶ可能性があるとの見解を示した。
このほか、中国国際経済交流研究センターの経済アナリスト・陳文玲氏は先月30日、ロシアに与えたような欧米からの「壊滅的な制裁」を受ければ、中国は「サプライチェーン、産業チェーン再構築の観点から台湾を併合させなければならない」と強弁した。
いっぽう、チャンバーズ氏はこうした中国側の姿勢について、仮に中国共産党が侵略したとしてもTSMCを管理し得ないと述べた。また、米国の安全保障に関わる台湾の半導体事業を重視しているため、バイデン政権は中国による台湾侵略のリスクも注視しているという。
同氏は、中国が2025年までにハイエンド半導体の生産を目指しているが、半導体市場の先駆的存在になることは失敗し続けており、TSMCにいるような人材もいないと付け加えた。
米政府は、潜在的なサプライチェーンの混乱が社会に不安定な影響を与える可能性がある分野として、エネルギー、運輸、金融サービス、通信など半導体技術に依存する分野を挙げている。
報告書によると、7ナノメートル以下のハイエンド半導体量産技術は台湾と韓国が世界の100%を占める。
報告書発表に際し、プロジェクト2049のエグゼクティブ・ディレクターであるマーク・ストークス氏は、米台関係が局面を迎えるなか、防衛産業協力とサプライチェーンに関する政治のハイレベル交流グループを設立することが望ましいと提案している。
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