11月に中間選挙を控える米国では、有権者は米中関係に関心を寄せている。専門家は、どの候補者が中国に対する姿勢が最も厳しいかが有権者から投票を得られる基準になる可能性があると指摘した。ただ、米中関係に関して最も重要な課題は貿易問題か国家安全保障かについて、専門家の間では意見が分かれている。
カーネギー国際平和財団アジアプログラム特別研究員のダグラス・パール(Douglas H. Paal)氏によると、今回の中間選挙ではトランプ前大統領の対中姿勢を継続している共和党への投票率が上がっており、「どの候補者も中国に対して厳しい態度を示す必要がある」と大紀元に語った。
米国内では中間選挙に向けて、今月民主、共和両党が候補者を選ぶ予備選挙が本格化している。対中政策の重要性を巡って、ウォールストリート・ジャーナル紙は5月2日、予備選挙が実施される激戦州、オハイオ州とペンシルベニア州で、有力候補者が選挙広告で中国に言及した回数を比較する記事を掲載した。
近年大統領選挙の鍵を握ると言われるペンシルベニア州においては、同州選出の共和党上院議員のパット・トゥーミー(Pat Toomey)議員が今年で引退する。その議席の指名を巡る世論調査では、トランプ前大統領が推薦する医師のメフメット・オズ(Mehmet Oz)氏が、元ヘッジファンドCEOのデビッド・マコーミック氏をややリードしている。ペンシルベニア州の予備選挙は5月17日に実施される予定。
WSJによれば、2日の時点で、オズ氏は選挙報告の中で中国について8351回言及した。中国への言及が次に多かったのはオハイオ州の候補者であるティム・ライアン(Tim Ryan)氏だ。ライアン氏は中国について3417回話した。いっぽう、オズ氏のライバルであるマコーミック氏が中国に言及した回数は2580回で、オズ氏の3分の一以下だ。
オズ氏のリードが僅かである事から分かるように、トランプ氏の推薦を得たとしても、共和党の有権者から圧倒的な支持を得られるとはかぎらない。予備選挙と中間選挙で有権者の支持を得るには、世界における中国の役割をよく理解している必要がある。これは国内の有権者、特に国際競争にさらされているアメリカ中部地域の有権者の関心事である。
外交政策
現在、多くの候補者は経済・貿易問題を重視している。しかし、拡張主義の中国が、アジア太平洋地域で絶えず不安を掻き立て、極めて深刻な外交政策と国家安全保障の問題がある中、候補者の経済重視は的外れであるかもしれない。
中国に対して毅然とした態度で臨むことは共和党内のトランプ派によくみられる傾向だ。しかし民主党内でも見られている。
バイデン大統領は今月20日から24日までの日程でアジア諸国を訪問予定だ。パール氏は大統領の訪問の準備として、民主党が対中強硬姿勢をアピールする可能性が高いと指摘した。
共和党のスティーヴ・シャボット(Steve Chabot)下院議員や民主党のアミ・ベラ(Ami Bera)下院議員らは、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻が他の侵略者をつけあがらせ、米国がリチウムなどのレアアースを中国に大きく依存していることを強く警戒した。
中国政府が中国の一部だと主張し、必要なら武力侵攻も辞さないとしている台湾を巡って、パール氏は「台湾は米国の政治指導者に関して、多くの選択肢を持っていない」との見解を示した。「台湾は常に米国のその時の政権に協力を求める必要がある」とした。
パール氏は、中国共産党は秋に第20回党大会を控えているため、直ちに台湾を軍事侵攻することは考えにくいとした。
ウクライナ侵攻後に、ロシアの銀行などに対して大規模な制裁措置が行われ、ロシアが受けた甚大な影響を中国は無視できない。
「中国は自らの潜在的な欠点だけではなく、経済制裁の影響にも目を向ける必要がある。ロシアによるウクライナ侵攻の結果を踏まえると、中国が台湾への軍事侵攻に対して、以前より慎重になる理由がたくさんある」とパール氏は述べた。
同氏は、中間選挙の候補者は、レアアースなどの中国依存度低減の戦略をアピールできると示した。「研究開発によって新たな代替品が生みだされているので、中国からの輸入品に依存する必要がなくなる。マイクロエレクトロニクスや携帯電話の原材料調達の新しい方法を見つけようとしている日本のメーカーにならって、代替品を開発することは可能だ」
貿易戦争
他の専門家は、台湾やその他の外交政策の重要性を認めながらも、候補者が貿易と雇用に焦点を当て、特に苦境に陥っているラストベルト(さびついた工業地帯)の州において、地元の状況に応じて選挙戦略を調整するのが賢明だとしている。
「特に共和党内では、中国に強い姿勢を示せるかが選挙で問われることになる」と法律事務所Akin Gumpのパートナー弁護士で、トランプ政権時代に国際貿易・投資・開発担当の大統領特別補佐官を務めたクリート・ウィレムス(Clete Willems)氏は述べた。
ウィレムス氏は「米国の国家安全保障の専門家、そして特に共和党は、中国を戦略的競争相手として見ている。中国に対する懸念を十分に認識できない人は、(有権者に)疑われるだろう」とした。
同氏の見解では、貿易問題が最も重要な課題だという認識は消えない。米政府ではトランプ前政権の元幹部を含めて、トランプ前大統領による対中制裁関税を見直すことは同大統領の遺産に対する裏切り行為だとの認識がある。ウィレムス氏は、同関税措置がここ数年どう変化するかを注視する必要がある示した。
トランプ時代の制裁関税は、3000億ドル以上の中国製品に適用されたままだ。ウィレムス氏は、同関税措置は中国に打撃を与えた一方で、米国の競争力を損ねたと主張する。中間選挙の候補者はこの現実を無視するわけにはいかない。
「制裁関税を見直す必要がある。見直さないと効果的な中国戦略にはならない。中国に対してどのように厳しい態度をとるかを賢く考えたほうがよい」とウィレムス氏は語った。
同氏は、中国の「暴力的な」慣行、特にトランプ前大統領の遺産の一部である第一段階の貿易協定を守らない中国政府の対応について、共和党の選挙キャンペーンの最重要課題になるとした。また、同氏は、バイデン政権と民主党は、国内のインフレ、経済政策、アフガニスタンを巡る外交政策で逆風にさらされていることを上げ、民主党が対中制裁関税問題をうまく扱えるかについて疑問を呈した。
米シンクタンク、情報技術・イノベーション財団(Information Technology and Innovation Foundation)の副総裁であるスティーブン・エゼル(Stephen Ezell)氏は、中間選挙で多くの候補者が中国に焦点を当てていることは理にかなっていると話した。
「米国は過去10年間の中国との貿易で、製造業で100万もの雇用機会を失い、中西部の工業地帯が最も大きな打撃を受けた。中西部ではこの問題により関心が集まるだろう」
「中国問題に関しては、国家安全保障の観点よりも経済的な観点の方がより重要視される。もちろん、台湾で何かが起これば、有権者の見方は変わるだろう」と同氏は指摘した。
(文・Michael Washburn、翻訳編集・張哲)
オリジナル記事:英文大紀元「Tough-On-China Stances May Prove Critical for Midterm Candidates: Analysts」
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