シンガポール科学技術研究庁の研究機関であるIMEに勤務する米国籍の技術研究者は、7年前に「自殺」した。家族は明確な「自殺ではない証拠がある」として、米当局とシンガポール当局に調査を求めている。
「自殺」したとされるシェーン・トッド(Shane Todd)さんは2012年1月、米国ニュージャージー州で米企業ビーコの開発したMOCVD(有機金属化学気相成長)システムを学んでから、IMEに戻った。
IMEでは、同研究所と協力協定を結ぶ中国通信機器大手ファーウェイが、シェーンさんを含む研究所職員と会議を行った。
同年2月下旬から、シェーンさんは在米の家族との連絡を増やし、ファーウェイ関連の仕事に関わったことで、身の危険を感じるようになったと訴えた。
米国への帰国を希望して、シェーンさんは3月、辞職願をIMEに出していた。6月24日、自宅マンションの部屋で首を吊った状態で発見された。
両親は複数の点から、他殺の可能性があると公開文書で主張している。シェーンさんは米国へ戻る準備を進めていたし、米国での就職先も決まっていた。また、別人が作成したと思われる遺書の存在や、米国での遺体検証報告で自死とは考えにくい傷跡があったことなどを挙げている。
ファーウェイに対する調査要求
シェーンさんの両親は、米国とシンガポール当局が、息子の死についてさらなる調査を求めている。両親は双方に米国での遺体検証結果や他殺と考えられる状況報告を送付していた。
2013年5月、シェーンさんの家族はシンガポールへ渡航したが、ファーウェイとIMEからの依頼を受けた10人の弁護士が待ち構えていた。
「馬鹿馬鹿しいことに、私たちが送った証拠は、すべて先方の反証に使われていました」母親のメアリーさんは大紀元にその憤りを述べた。IME、ファーウェイの担当弁護士らは、警察判断の「自殺」という主張を固めようとしていた。
家族は調査支援を求めて、オバマ前政権の上級高官を含む複数の政府機関に、証拠と分析の報告を送った。しかし、ほとんど反応はなかった。
シェーンさんの事件について、フィナンシャル・タイムズが2013年に詳しく報道した。他のメディアも引用し、連邦調査局(FBI)、米議会議員、ハリウッド映画界さえ注目していた。しかし、シェーンさんの死の原因を明らかにしようとする動きはなかった。
両親は共和党のフランク・ウルフ(Frank Wolf)下院議員(当時)に助力を求めた。議員は、両親の行動は正しいとしながらも、どこへ行っても「権力とカネ」により、強力な支持は得られないだろうとした。議員は、ファーウェイはワシントンの隅々まで買収工作を働いており、ファーウェイに丸め込まれた法律事務所が多く存在していると告げた。
それでも、母親のメアリーさんは、複数の上院・下院議員から多くの助けを得たと大紀元に述べた。しかし、調査への進展が見られなかったのは、息子の死の話が「ヒラリー・クリントン氏とバラク・オバマ大統領の政権では、この話題は最高上層部に握りつぶされたのでは」とメアリーさんは考えている。
メアリーさんは、息子シェーンさんの死の真相を探るために、2014年9月『ハードドライブ 3つの国との家族の戦い(Hard Drive: A Family’s Fight against Three Countries)』を出版した。書籍は、数年間にわたるシェーンさんの事件と家族の経験の詳細が描かれている。書籍の題名は、シェーンさん本人が、自死ではないことを示す記録を残したハードドライブに由来する。
トランプ政権の元で、ファーウェイは現在、知的財産窃盗や対イラン経済制裁違反の容疑で連邦検察から調査を受けている。メアリーさんは、息子の死に対する調査が進むと期待している。
メアリーさんは最近、共和党のグレッグ・ジャンホルテ(Greg Gianforte)下院議員の助けを得て、家族が所有していたすべての証拠や調査報告を国家安全保障局(NSA)に届けることができたと大紀元に述べた。
カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校の政治学クリスティーナ・ビレガス(Christina Villegas)助教授は、大紀元の取材に次のように述べた。「中国は政策的・計画的に技術系企業を利用して、海外の商用技術を不正に入手し、自国軍の発展に使っている。米国は、シェーンさんの死に注意をはらうべきだ」
ビレガス助教授は、前述の書籍『ハードドライブ』の共著者で、シェーンさんのいとこにあたる。彼女は、ファーウェイ調査を支持するジャンホルテ議員に向けた書簡で「起訴に向けた調査では、米国人技術者シェーン・トッドさんの事件も含めるべきだ」と主張した。
(文 ネイサン・スー/翻訳・佐渡道世)
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