米朝の友好ムードに不安を隠せない中国

2018/06/18
更新: 2018/06/18

12日に開かれた米朝首脳会談で、トランプ米大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長は、「新たな米朝関係を築く」と意見が一致した。しかし、長い間北朝鮮を影響下に置いた中国は今、米朝の友好関係を快く思っていない。一部の専門家は、米朝が友好になれば、中国は北東アジア地域での地政学的リスクに直面し、「北朝鮮カード」なしでは世界覇権を狙うことも実現できなくなるからだと分析している。

米朝関係改善

トランプ米大統領は12日、米朝首脳会談後の記者会見において、「金正恩委員長と特別な関係が築けた」「金委員長は優れた才能のある人だ」と述べた。
一方、金委員長は、会談後の合意文書に署名する際、「歴史的会談を通じて過去を覆し、新しい出発を知らせる歴史的な文書だ。世の中は大きな変化をみるだろう」と発言した。

北朝鮮政府系メディアでは異例だが、金委員長の外交活動を早い段階で報道した。

朝鮮国営朝鮮中央通信(KCNA)は12日、金委員長は11日夜シンガポールの各観光名所を訪れ、同国の経済発展に感銘を受け、「多くのことを学びたい」と語ったと報道した。

また、13日付の党機関紙・朝鮮労働新聞は1面で、「米朝関係の歴史に新たな時代を開いた世紀の会談」との見出しで、金委員長とトランプ大統領のツーショット写真を掲載した。2面には協議を行う両氏の様子を捉えた写真を、第4面には合意文書の写しを、それぞれ載せた。同紙は、これまでの反米言論から一転し、米朝首脳会談を高く評価した。

米朝の共同声明でも、新しい米朝関係を構築すると強調した。

米朝首脳会談が世界各メディアのトップニュースとなった一方で、13日付の中国共産党機関紙・人民日報の1面トップには、米朝関連の報道や写真が全く掲載されていなかった。ニュースは目立たない紙面で短く報じられた。北朝鮮金一族の長年の目標でもある1対1の米朝首脳会談に関して、中国の思わしくない様子が見て取れる。

中国はこれまで、北朝鮮を、欧米をけん制するための駒と見なしてきた。米の北朝鮮分析サイト「38ノース」は過去、中国当局が最も警戒しているのは「中朝国境に、米と軍事同盟を結び南北統一を実現したコリアが現れることだ」との見解を示した。

米紙ニューヨークタイムズも、中国当局は米朝関係の改善で、北朝鮮が逆に中国への対抗力を養う意図があるのではないかと懸念している、と指摘した。

中国系米国人作家のゴードン・チャン氏は、米朝の接近は「米国にとってアジアで1人の友人が増えた、に対し、中国は1人の友人を失った」ことを意味する、との見方を示した。「北朝鮮カード」を失うことで、中国は世界覇権の実現が成功できなくなるとした。

また、チャン氏は北朝鮮が米国と友好関係を築けば、北朝鮮と兄弟関係にあった中国当局の自尊心にも大きな打撃を与えると推し量る。

非核化における中国の役割

12日の記者会見で、トランプ大統領は「即座に非核化のプロセスを始めるだろう」と述べた。また、「われわれは、韓国と日本との協力に務めている。協力は少ないが、中国とも協力している」として、非核化において中国が果たす役目が少ないことを示唆した。

中国当局も非核化をめぐって、関係国から「仲間外れ」されたと意識したようだ。

14日、米朝首脳会談直後に中国を訪問したポンペオ米国務長官に対して、中国の王毅国務委員兼外交部長は、「朝鮮半島の隣国および重要な関係国として、中国は引き続き、朝鮮半島核問題の政治的解決に建設的な役割を果たす」とアピールした。

中国は核問題で「蚊帳の外」に出されることを回避し、引き続き北朝鮮に影響力を及ぼしたい狙いが浮き彫りになった。

北朝鮮は親米路線へ変わるか?

 

2017年トランプ政権が発足してから、国連安保理は北朝鮮に過去最大規模の経済制裁を実施してきた。中国も一部の制裁措置に同調したため、北朝鮮国内経済状況は悪化した。金正恩委員長は、今後の政権維持には、今と変わらず盟友の中国に依存するか、それとも政策を変えて「敵対国」である米国に頼るのかとの課題に直面する。

英紙フィナンシャルタイムズの報道によると、一部の北朝鮮問題専門家は、「金正恩氏は、中国よりも米国を選ぶだろう」と予測する。

金正恩氏が北朝鮮の最高指導者に就任してから、朝鮮労働党内の親中派を粛清し排除してきた。粛清の対象には、中国指導部から支持を受けた叔父の張成澤氏と兄の金正男氏がいた。金正恩氏のこの嫌中感情で、昨年まで中朝関係は過去最悪の状況に陥り、両国のメディアが批判合戦を展開していた。

金委員長が中国を信用しないもう一つの理由は、「盟友国にもかかわらず、中朝間には領土問題がある」と前述のゴードン・チャン氏が過去に指摘したことがある。中朝の間に位置する長白山(北朝鮮などでは白頭山と呼ばれる)の国境画定について意見が対立している。

北朝鮮もまた、経済的な理由で、米との関係を改善しようとしている。

各報道によると、12日の首脳会談の終盤で、米側が金委員長らに対して、非核化を実現すれば、北朝鮮に明るい将来があると4分間のプロモーション・ビデオを見せた。トランプ大統領はその後の記者会見で、同ビデオで、中国と韓国の間に位置する北朝鮮は、不動産投資などで豊かになると金委員長に提案したことを明かした。

時事評論家の横河氏は、「中国のように、国内の経済状況を良くすれば、政権の基盤はより強固なものになる、と金委員長は考えるだろう」と話した。シンガポールの観光名所を視察した後の金委員長の発言からも、その兆しがあると受け取れる。

経済を著しく発展させていくには、米国市場が必要だ。これまで欧州各国、中国、日本、韓国などの経済成長をみると、米市場の重要性が明らかだ。北朝鮮もそれをはっきり認識している。

横河氏は、北朝鮮が今後親米路線に転換する可能性が高いと推測する。

北東アジア勢力構図の変化

米朝首脳会談は、米中関係が緊迫する中で開催された。中国と米国は今、貿易摩擦、知財権侵害、南シナ海・太平洋などにおける軍事的緊張、人権問題などさまざまな問題で対立している。

韓国メディアの聯合ニュース英語版ではこのほど、韓国の専門家の話として、米朝が急接近し半島における米勢力の拡大で、中国は今後高い地政学的リスクに直面しなければならないと指摘。

台湾シンクタンク、国家政策研究基金の李正修氏は、トランプ米大統領と金正恩委員長が合意文書を締結した上、互いに訪問すると言及したことで、「半島に永久的な平和が訪れ、北東アジアの勢力図が大きく変わろうとしている」との見方を示した。

(翻訳編集・張哲)