日本ウイグル協会は8月31日、東京都内で記者会見を開き、中国・新疆ウイグル自治区出身のウイグル人男性(30)が、政権主導の「労働移転プログラム」で江蘇省蘇州の食肉加工工場に送られ、約2年3か月間にわたって賃金を受け取れないまま働かされた後、カンボジアの詐欺施設に転売されたとする証言内容を公表した。
会見には当初、北米に逃れた男性本人がオンラインで実名で参加する予定だったが、8月29日から約24時間にわたり、中国共産党当局が男性の親族を拘束するなどしたため、参加を取りやめた。
男性はカシュガル地区出身。証言によると、2021年12月、地元当局の担当者が繰り返し自宅を訪問し、農村部の「余剰労働力」を沿岸部の工場に送り込む「労働移転プログラム」への参加を迫った。男性と家族が拒否すると、担当者の口調は次第に変わっていった。
「政府の意向に反する態度を取るとどうなるか分かるよね。多くの人が失踪していることを知っているよね」担当者はそう言い、新疆各地で相次ぐ「再教育施設」への強制収容を事実上示唆しながら、翻意を迫り続けたという。
男性は当時、ウルムチで出稼ぎ中だったが、ウイグル人が村を離れる際に必要な警察の「通行証」を当局に握られていたため、帰郷命令を拒むこともできなかった。最終的に決断を後押ししたのは、60歳を超えた母親への危害をにおわせる言葉だった。「想像するだけで体が震え、怖くなった」と男性は振り返っている。
同じ住民委員会管轄から集められた若者は約80人。ほとんどが20〜30代で女性が多かった。身分証明書は当局に回収され、行き先も仕事内容も告げられないまま、列車でカシュガルから蘇州市へと移送された。親族も、子供たちがどの工場に送られるのかを知らされることはなかった。
12〜14時間労働、就業後は「政治学習」
配属先は、蘇州市政府が出資する国営巨大グループ「蘇州市農業発展集団」直系の食肉加工・物流プラント。個人との雇用契約は一切なく、1日12〜14時間の労働が課された。
午前9時から午後8時まで食肉の包装・冷凍・積み込み作業を続け、休憩をはさんで午後9時からは2時間の「政治学習」が待っていた。ウイグル人全員が大ホールに集められ、習近平の演説や党の政策指示を繰り返し学ぶよう義務付けられた。漢族の従業員がこの学習に参加することは一度もなかった。
地元当局から派遣された随行管理職員2人、ウイグル人と漢族の各1人が、男性たちの言動を常時監視した。外出は、管理職員に引率される形での近隣の売店への集団買い物のみで、帰省は病気の数人を除き3年間にわたって一切認められなかった。祝祭日も休日も関係なく、漢族の従業員が休む日にも働かされ続けたという。
給与については当初から「銀行口座に振り込むので、カードを預かる」と説明され、全員の銀行カードが管理職員に回収された。以降、カードが返却されることも、給与が支払われることも一度もなかった。口座に実際に入金があったかどうかすら、男性たちは確認できなかった。
約3年間で実際に手にした現金は、月に1度程度の集団買い物の際に渡される100〜200人民元(約2千〜4千円)のみ。それも「最終的には給与から差し引く」と告げられていた。「なぜ直接支払わないのか」と問い返すと、「政府の指示だ。その態度を地元の住民委員会に報告しようか」と返ってきた。
海外の詐欺拠点に移送
転機は2024年3月に訪れた。工場内で知り合った漢族の男性が「もっと良い仕事を紹介する」と持ちかけてきた。警備員に一言告げると男性はあっさりと敷地外へ連れ出され、待機していた車に乗せられた。
その後、車とバイクを乗り継ぎ、ベトナム国境を越えてカンボジア・ココン州へ。工場を出てからわずか4日のことだった。パスポートを持たないウイグル人が、国境を越えてこれほど迅速に移送されたという事実は、移送ルートが事前に組織的に整備されていたことを強く示唆している。
連れて行かれた先は、中国企業がカンボジア政府から99年間の租借権を取得して開発した「七星海・長湾(ロングベイ)経済特区」内の施設。表向きはリゾート開発区だが、実態はオンライン詐欺・人身売買・監禁が横行するとして国際的な人権団体が繰り返し問題視してきた場所である。男性はそこで「1万7千ドル(約250万円)で買われた」と告げられた。
「国家と犯罪組織が地続きだった」
施設では、マニュアルに従い仮想通貨投資を装ったオンライン詐欺への加担を強要された。拒めば暴行を受け、電気ショックも加えられた。ノルマを達成できないと「臓器を売り飛ばす」と脅された。「早く死にたいと願い続ける日々もあった」と男性は述べている。
約1年後、ノルマ未達を理由に首都プノンペンの別の犯罪組織に転売された。命の危険を感じた男性は、インターネットを通じて必死に支援を求めた。これに応じた海外のウイグル人権活動家らが身代金交渉に当たり、5千ドル(約70万円)を支払って解放を実現した。その後、約7か月間の潜伏生活を経て、今年1月、北米への脱出に成功した。

日本ウイグル協会のレテプ・アフメット会長は会見で、「本来、工場の敷地外への移動が厳しく制限されていたはずの男性が、漢族男性の一声で敷地外へ連れ出され、4日でカンボジアへ送られた。国営企業と国際犯罪組織が完全に地続きでつながっていた、戦慄すべき事態だ」と指摘した。
そのうえで、「蘇州は多くの日系企業が進出する地域だ。取引先の実態を精査し、強制労働が疑われる企業をサプライチェーンから永久に排除してほしい」と訴えた。
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