「戦時状態に入る」
戦争の話ではない。中国湖北省で、台風13号による大雨に備えて出された異例の指示である。しかも場所は、巨大な三峡ダムのすぐ下流だ。
三峡ダムがある宜昌市の教育局は8月10日、市内の教育機関を「全面的に戦時状態」にすると通知した。11~12日は対面授業などを停止し、学校や教育当局の責任者には24時間態勢で待機するよう求めた。
背景にあるのは台風13号である。中国では「白海豚(ドルフィン)」と呼ばれ、浙江省に上陸した後、進路を大きく変えて内陸へ向かった。湖北省など各地では洪水への警戒が強まり、当局はダムや貯水池への影響にも注意を呼びかけている。
ただ、「戦時状態」という言葉はあまりに物々しい。
中国や海外のSNSでは、宜昌市が三峡ダムの下流にあることから、「大量放流を警戒しているのでは」「三峡ダムが危ないという話は、本当なのではないか」との憶測が広がった。
こうした不安が広がるのには理由がある。世界最大級の水力発電ダムである三峡ダムは、万一決壊すれば長江流域に甚大な被害をもたらすとして、安全性をめぐる議論が以前から続いてきた。
さらに7月には、三峡グループの内部関係者を名乗る人物が「三峡ダムの決壊は時間の問題だ」と告発。中国当局が作成したとされる決壊シミュレーション資料も海外で公開された。資料では、武漢、南京、上海など29都市、約1億3200万人への影響が想定されている。

現時点で、三峡ダムに異常が起きているとの情報も確認されていない。今回の「戦時状態」は、発表上はあくまで台風と洪水への備えである。
それでも、そんな三峡ダムのすぐ下流で突然飛び出した「戦時状態」の四文字。人々が「何か起きるのでは」と身構えたのには、それなりの理由があった。

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