自社の主要な取引先は、値上げ交渉や価格転嫁にどれだけ誠実に応じているのか。経済産業省は8月4日、発注者ごとにその取り組み状況を評価した「発注者リスト」を公表した。ことし3月の「価格交渉促進月間」に実施した調査に基づくもので、支払条件については9割超の企業が最高評価となり大幅に改善した一方、官公需(国や自治体などの発注)では価格転嫁への対応が不十分な機関が依然として残っている。中小・下請け事業者は、このリストで自社の取引先がどのように評価されたかを確認することができる。
「発注者リスト」とは何か 中小企業庁が評価を公表する狙い
政府は毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と定め、月間終了後に受注側の中小企業を対象として、価格交渉・価格転嫁・支払条件の状況を調査している。中小企業庁は今回、2026年3月分の調査として、全国30万社の中小企業にアンケートを実施した。
その回答をもとに、多くの中小企業から「主要な取引先」として名前が挙がった発注企業について、①価格交渉に応じているか、②価格転嫁に応じているか、③支払条件は適切か――こうした点を整理・評価したものが「発注者リスト」である。取り組みが芳しくない発注企業のトップに対しては、法律に基づき所管大臣名で指導・助言が行われる仕組みとなっている。
支払条件は大幅改善 9割超が最高評価となった背景
赤澤亮正経済産業大臣は8月4日の会見で、今回の結果について、価格交渉・価格転嫁・支払条件のいずれも最高評価となった企業の割合が増えるなど、全体として改善が見られたと説明した。ポイントは次の2点である。
支払条件:9割超の企業が最高評価となり、前回から大幅に改善した
官公需:最低評価となった機関はなくなったものの、価格転嫁への対応がいまだ不十分な機関も残っている
6月に公表されたフォローアップ調査の結果も、この全体像を裏づけている。調査によれば、価格交渉が行われた割合は90.7%まで上昇した一方、実際にコスト上昇分を価格に反映できた「価格転嫁率」は54.2%にとどまった。コストの内訳別では原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%となっており、とくに労務費とエネルギーコストの転嫁が遅れている。
官公需の価格転嫁率は低迷 国と自治体で分かれる対応状況
官公需の価格転嫁率は48.4%と、前回から約4ポイント低下した。とくに都道府県や市区町村の転嫁率が国よりも低い傾向にあり、公的機関でありながら民間に後れを取る構図が浮かび上がる。また、取引の階層が下請けの深いところに行くほど転嫁率が下がる傾向も続いている。
赤澤経産相は、リストに掲載された発注者に対し、取引先からの評価を真摯に受け止め、いっそうの取引適正化に努めるよう呼びかけた。経済産業省としても取り組み状況の実態把握を進め、改善を促していく考えを示している。
中小・下請け事業者が「発注者リスト」を交渉に生かすポイント
このリストの実務的な価値は、「自社の主要な取引先が、第三者である多数の受注企業の回答にもとづき、どのように評価されているかを客観的な材料として確認できる」点にある。値上げ交渉に臨む際、「御社は価格転嫁の評価が高い(低い)」という公表データを踏まえて話を進めることができるため、交渉を後押しする材料となる。
リストは中小企業庁の「価格交渉促進月間」フォローアップ結果のページで確認できる。
データ活用の留意点 評価と自社の取引実態をどう見極めるか
もっとも、いくつか留意点もある。第一に、評価は3月時点の調査に基づくものであり、現在の取引状況とずれが生じている可能性があること。第二に、評価は受注側企業の回答を集計したものであり、あくまで相手方の受け止め方を反映したものであること。第三に、評価が高いからといって、個々の取引で必ずしも良い条件が得られるとは限らないことである。数字は「交渉の材料の一つ」として活用しつつ、自社の実際の取引条件と照らし合わせて判断することが、実務上は無難である。
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