専門家:EUは中国共産党に対抗しなければ 自由貿易は守れない

2026/07/22
更新: 2026/07/22

地政経済の専門家2人がこのほど相次いで論考を発表し、中国共産党が長年にわたり産業補助金や為替政策などの非市場的手段を通じて輸出を拡大してきた現状を踏まえ、EUの従来の自由貿易ルールや個別調査では対応が困難になっていると指摘した。ドイツの立場が明確に変化する中、欧州は対中貿易政策を再構築する重要な局面を迎えている。  

米外交問題評議会(CFR)の研究担当上級副会長シャノン・K・オニール(Shannon K. O’Neil)氏は、EUが自由貿易体制を維持するためには、中国共産党が国家補助や非市場政策を用いて競争を歪めている問題に正面から対処する必要があると述べた。  

一方、大西洋評議会(Atlantic Council)地政経済センター副主任のジェシー・イン(Jessie Yin)氏は、EUは米国の制度を参考にしつつ、中国の輸出企業が提供するコストや補助金、サプライチェーンなどの企業データに過度に依存しない新たな貿易手段を構築すべきであると指摘した。  

専門家:従来の貿易ルールでは中国共産党を十分に抑制できない  

オニールは、EUが近年、ニュージーランド、オーストラリア、インド、南米南部共同市場(メルコスール)などの経済圏と積極的に自由貿易協定を締結し、関税の引き下げやサービス市場の開放、労働・環境・デジタル貿易・投資ルールの整備を通じて、多国間貿易秩序の維持を図ってきたと指摘する。  

しかし、この制度の弱点は、主要な経済圏が概ね同じ市場ルールに従うことを前提としている点にあるとする。  

彼女は次のように述べている。  
「世界第2位の経済大国である中国がこれらのルールに従わない場合、従来の貿易ルールはもはや有効ではない」  

オニール氏によれば、中国の輸出競争力は単なる規模の経済にとどまらない。中国共産党当局は、安価な土地、低利融資、税制優遇、保護された国内市場などを通じて、中国企業に広範な支援を行っている。  

彼女は国際通貨基金(IMF)のデータを引用し、中国共産党による企業支援はGDPの約4.4%に達し、欧州の約3倍に近い水準にあると指摘する。こうした支援を背景に、中国企業は労働集約型産業から、自動車、通信、電池、ドローンなどの高度分野へと進出し、欧州産業に大きな圧力を与えている。  

ドイツの立場変化がEU政策の鍵に  

イン氏はドイツの政策転換に焦点を当てる。ドイツは長年、輸出志向型経済の代表例であり、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した後、急成長する中国市場に自動車、機械、化学製品、先端技術を輸出することで、多くの欧州諸国を上回る利益を得てきたと指摘する。  

これが、ドイツがこれまで中国共産党による市場歪曲行為を公然と批判することが比較的少なかった理由の一つである。  

しかしイン氏は、この構図はすでに変化したと指摘する。新型コロナウイルスのパンデミック期、中国は国内経済を下支えするため製造業輸出を拡大し、ドイツの自動車、化学、機械産業は強い競争圧力にさらされた。さらにロシアのウクライナ侵攻後、ドイツの産業コストが上昇し、この傾向を一層強めた。 

また、ドイツは長年維持してきた対中貿易黒字から、継続的な赤字へと転じた。  

イン氏は、中国製品の大量輸出が米国市場から欧州市場へとシフトしたことで、ドイツ国内の政治的力学が変化し、ベルリンがブリュッセルとより足並みをそろえるようになったと分析する。  

ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は先日、ケルンでの演説で、人民元が過小評価されているとの懸念を示した。EUがどれほど高い技術力と競争力を備えていても、自国通貨を人為的に操作する競争国に対抗するのは容易ではないと述べた。  

さらにメルツ首相は、中国に対し「資本市場での競争も含め、自国通貨をより市場原理に委ねるべきだ」と求めた。  

ドイツ、フランス、イタリア、オランダの主導の下、欧州理事会はすでに「世界的なマクロ経済不均衡」問題に関する議論を進めている。インはまた、6月初旬以降、EUが中国からの輸入品に対し新たに9件の反ダンピング調査を開始したことにも言及した。  

EUの既存防御手段は遅すぎるとの指摘  

両専門家は、EUが現在主に依拠している反ダンピング、反補助金、外国補助金に関する調査では、中国の輸出拡大のスピードに十分対応できていないと指摘する。  

オニール氏は、EUが近年、過去最多となる反ダンピングおよび反補助金調査を実施し、外国補助金を受けた企業による公共調達への参加を制限する制度や、経済的威圧、炭素排出差への対応措置などを整備してきたと評価する。  

しかし、これらの手段は「実施が遅く、適用範囲が限定的で、執行も断片的になりがちであるうえ、過度な分断を招く恐れがある」ため、十分な効果を発揮しにくいと指摘した。  

イン氏もまた、EUの従来の調査手法が、輸出企業から提供されるコストや補助金、サプライチェーンに関する情報に大きく依存している点を問題視する。このため、中国共産党当局が企業の協力を制限すれば、調査の遅延や証拠収集の困難化を招く余地が生じる。  

今年5月、中国共産党は初めて「反外国不当域外管轄条例」を適用し、域内企業がEUによる同方威視(Nuctech)に対する越境補助金調査に協力することを禁止した。  

イン氏は、これは中国共産党が新たな防御的経済手段を整備し、ルールと証拠に基づくEUの調査体制を正面から揺さぶっていることを示すものだと述べた。  

両専門家が示す異なる対応策  

具体的な政策対応については、両者ともEUがより積極的な措置を講じる必要がある点で一致している。  

イン氏は、EUは中国の輸出企業のデータに全面的に依存しない関税措置を構築すべきであり、米国の通商法301条や通商拡大法232条のような制度を参考に、経済および国家安全保障の観点から重要産業を保護する必要があると提言する。  

一方オニール氏は、EUが有する広範な自由貿易協定ネットワークを活用し、影響を受ける各国と連携した「共同防衛」を構築することをより重視する。複数国が協調して原産地規則を強化し、中国製品の第三国経由による迂回輸出を防止する、あるいは特定の重要製品について単一国への依存度を引き下げれば、EU単独の措置よりも高い効果が期待できるとする。  

さらにオニール氏は、米国が複数国と締結している「互恵的貿易協定(ARTs)」について、機微な投資の審査や迂回輸出の防止において、より実効性が高い枠組みであると指摘した。  

両専門家は、欧州が直面している問題は、もはや個別製品をめぐる貿易摩擦の域を超えているとみている。すなわち、自由貿易を維持しつつ、中国共産党が制度の隙を突いて欧州の産業基盤を侵食する動きを、いかに抑止するかという構造的課題である。

陳霆