日本とベトナムは高速揚陸艇の共同開発・生産に向け協議を開始。南シナ海や南西諸島の防衛需要を背景に、機動輸送力の強化と装備協力の深化を図る。対中抑止や防衛産業連携の行方が焦点となる。
小泉防衛大臣は7月17日の閣議後記者会見で、ベトナムのファン・バン・ザン副首相兼国防大臣の訪日(7月12日~15日)の成果を発表した。両国は防衛相会談で、高速揚陸艇の共同開発・共同生産の実現に向けた議論を開始することで一致した。実現すれば、日本と東南アジア諸国との防衛装備協力は新たな段階に入る。
5年ぶりの訪日
ザン大臣の訪日は5年ぶり。小泉大臣は会見で、防衛相会談に加え、国会議事堂敷地内の散策や昼食会などを通じて「毎日直接お話しする機会があった」と述べ、「ザン大臣と個人的な信頼関係を一層深める機会となった」と振り返った。
両国間では既に、ハイレベル交流や防衛大学校への留学といった人的交流のほか、部隊の相互訪問、艦艇の寄港、親善訓練、能力構築支援など、陸・海・空の各軍種にわたる協力が進んでいる。今回の会談では、こうした協力の進展を歓迎するとともに、PKO(国連平和維持活動)分野やサイバー分野を含む二国間・多国間協力を更に推進し、地域の平和と安定に共に貢献していくことを確認した。
高速揚陸艇とは何か:機動力と実戦・災害での役割
今回の会談の最大の焦点は、防衛装備・技術協力だ。両大臣は、高速揚陸艇の共同開発・共同生産の実現に向けた議論の開始で一致した。
高速揚陸艇について小泉大臣は、「人員や物資を沖合の輸送艦から海岸に迅速に輸送するための上陸用の船」と説明。通常の揚陸艇より速く移動できるため、「上陸作戦や災害時の輸送などで機動力を発揮します」と述べた。既存装備の後継か新規装備かなど具体的な細部については、「事務方で具体的な議論を進めていきたい」と述べるにとどめた。
南北に約3,200キロの長い海岸線を持ち、南シナ海の島嶼防衛を課題とするベトナムにとって、離島や沿岸部への迅速な輸送能力は実務的な意味を持つ。日本にとっても、南西諸島防衛や災害派遣で同種の輸送力強化は共通の課題であり、両国のニーズが重なる分野といえる。
共同開発の戦略的意義:インド太平洋の抑止力強化
記者から、中国と深い関係を持つベトナムと装備品の共同開発を進める意義を問われると、小泉大臣は次のように答えた。
「我が国を取り巻く安全保障環境の変化が加速度的に生じている中で、防衛装備移転を通じて、同盟国・同志国、ひいては地域全体の抑止力・対処力を向上させることが必要です」
その上で、ベトナムを含むインド太平洋地域の同盟国・同志国との連携強化の観点から、「意義のある防衛装備移転を進めていく必要がある」との認識を示した。
ベトナムは中国と南シナ海の西沙(パラセル)諸島・南沙(スプラトリー)諸島の領有権をめぐって対立を抱える一方、経済面では中国との結び付きも深い。また、装備調達では伝統的にロシアへの依存度が高く、近年は調達先の多角化を模索してきた。日本との共同開発・共同生産の枠組みは、ベトナムにとって装備調達の選択肢を広げるものとなり、日本にとっては地域における防衛産業協力の足場を築く一手となる。
技術流出リスクと日本の管理体制
一方、装備移転に伴う技術流出への懸念について、小泉大臣は「移転に参画する日本企業の技術情報が適切に保護されるように、移転先国の政府との間で緊密に意思疎通を行い、必要な措置をしっかりと講じた上で、厳格審査や適正管理の確保に関する措置などを確実に行っていく」と述べ、「我が国の優れた技術を守るとともに、防衛装備移転を通じた同盟国・同志国の抑止力・対処力の強化を実現していきたい」と強調した。
防衛装備移転の転換点:完成品輸出から共同生産へ
日本とベトナムは2023年11月、両国関係を「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」に格上げしている。小泉大臣は会見で、「ベトナムは、インド太平洋地域の平和と安定を実現するための重要なパートナー」と位置付け、「厳しさを増す国際情勢の中で、両国が包括的・戦略的パートナーシップを更に発展させ、安全保障分野での協力を具体化することが重要」と述べた。
防衛装備品の完成品輸出では、フィリピン向けの警戒管制レーダーが先行事例として知られるが、東南アジアの国との装備品の「共同開発・共同生産」が実現すれば、日本の防衛装備協力にとって画期となる。海洋進出を強める中国を念頭に、日本が東南アジアの同志国との安全保障協力を「対話」から「装備」へと深化させる流れが、今回の合意で一段と鮮明になった。
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