米議会 米中経済・安全保障調査委員会(USCC)報告書は、中国共産党(中共)がイラン・ロシア・北朝鮮に対し多様な方法で経済制裁逃れを戦略的に支援し、国際的な回避ネットワークの中枢的役割を担っていると警告した。
中共が主軸となり、イランやロシアの制裁逃れを組織的に支援している。石油の偽装輸出、グレーな金融ネットワーク、技術供与──この三本柱が制裁無力化を現実のものとし、世界の安全保障環境に深刻な影響を与えている。本記事では、その仕組み・実例・国際社会への波及影響までを詳細に解説する。
中共はいかにしてイランの制裁逃れを支援しているのか?
報告書によると、中共はイランに対する制裁回避支援の最大の後ろ盾であり、すなわちテヘラン経済を支える生命線そのものである。
まず最も重要な要素から見ていこう──石油である
イランはアメリカの厳しい制裁を受けており、多くの国が公然とイラン原油を輸入することを避けている。では、イランの石油は現在、誰に売られているのか。
報告書によれば、その主要な買い手は中国である。中国の製油所は、長期的かつ安定的に、割引価格のイラン原油を大量に受け入れており、その過程には多重の偽装が伴っている。
では、どのような偽装が行われているのか。
通常、タンカーは中国に到着する前に「信号を切る」「別の船に積み替える」「書類を差し替える」といった操作を行う。そのため、港に入る際の税関申告上の原産地は「マレーシア」「オマーン」またはその他の第三国と記載されることが多い。
外部から見ると、特定の国の対中原油輸出が突然急増したように見えるが、業界関係者の間ではそれが「マレーシア産」を装ったイラン原油であることは周知の事実である。
イランの石油は世界市場では封鎖状態にあるものの、中国市場で再び「蘇生」し、現金の流れが復活することで、テヘランは国内経済を維持し、中東全域に広がる代理ネットワークを支えている。
第二の要素は 一般にはあまり知られていないイランの影の銀行システムが 中国を経由して世界とつながっているという点
イランはSWIFTから排除されたことで通常の国際決済が不可能となり、その代替として「グレー金融ネットワーク」を発展させた。報告書はこの仕組みを「中介銀行+ペーパーカンパニー+仲介業者」という三層構造と位置づけ、中国と香港がその中核拠点になっていると指摘している。
仕組みの概要は以下の通りである。
イラン企業は正規銀行を使えないため、目立たない中介銀行を利用する。これらの銀行は中国や香港にペーパーカンパニーを設立し、外見上は一般的な貿易企業として活動しているが、実際にはイランの国際取引を代行している。
資金はこれらの企業間を循環し、書類上はすべて正当な取引のように見せかけているが、実際の受取人や貨物の行き先は厳重に秘匿され、SWIFT網の外側に「影のルート」を形成している。
特に、監督のグレーゾーンが多く透明性の低い香港が、最も重要な突破口として報告書で名指ししている。
第三の要素は 最も敏感で複雑な問題である──中共がイランに対し、輸出規制の対象となる軍民両用技術の入手を助けている
イランの軍事システムに必要な部品、素材、設備の多くは軍民両用であり、アメリカやヨーロッパでは厳格な輸出規制が敷かれている。本来であれば、これらの品目が容易にテヘランに流入することはあり得ない。
しかし報告書は、イランが「中共を経由する形」で技術を輸入している実態を明らかにしている。
その手口は次のようなものだ。まず核心部品を中国国内で調達し、それを貿易仲介業者を介して真の用途を隠しながら、通常の工業製品として輸出する。貨物がイランに到着すると、即座に軍事システムに組み込まれ、無人機、通信装置、光学システム、さらには一部のミサイル技術に使用する。書類上は「機械部品」や「電子部品」とされているが、実際の行き先はイランの兵器開発現場である。
したがって、イランが制裁下でも持ちこたえているのは、石油、金融、技術という三つの生命線すべてに中共の関与があるためである。
中共はいかにしてロシアの「制裁緩衝地帯」となっているのか?
続いて、中共がどのようにしてロシアの制裁逃れを支える「戦略的後方基地」となっているのかを見る。
この表現が意味するところを分解すると、二つの重要な生命線が浮かび上がる。
第一の生命線:原油──中共がロシアに「価格上限」を回避させている
アメリカとG7諸国はロシア産原油に「価格上限」を設定し、ロシアが原油輸出を継続できる一方で過剰な利益を得られないよう制約をかけ、戦争継続能力を抑制しようとしている。
理論上は強力な制裁手段である。問題は、そのロシア産原油を誰が購入し、誰がそれを市場に流通させているのかという点である。
ここでも中国が主要な買い手となっている。
「影のタンカー」と呼ばれる、国旗を掲げず、位置情報をオフにし、船名や登録情報を偽装した船舶が数多く中国の港に入港している。
一部の中国独立系製油所は、こうした「価格上限回避」の受け皿になっており、ロシアの割安原油を受け入れて国内で消費し、西側の監視網を完全に迂回している。
アメリカは価格上限措置によってプーチン政権の財源を圧縮する狙いだったが、中国市場が受け皿となった結果、ロシアの石油収入は大きく目減りしていない。
言い換えれば、中国の原油備蓄タンクこそが、プーチンの戦争機械に燃料を供給する「プール」となっているのである。それがウクライナにとって何を意味するのかは明白である。
第二の生命線:機微技術──中共はロシア軍需産業の「補給倉庫」と化している
もし石油がロシア経済の血液であるなら、高度な軍民両用部品はその武器体系の血液である。
報告書は、中共をロシアの軍民両用技術獲得における「決定的支援者」と位置づけている。
ロシアの無人機、ミサイル、航法システム、通信装置、戦場センサー──これらすべてに必要なものは、半導体、光学装置、数値制御工作機械、ドローン部品、電子コンポーネントである。
これらの品目は本来、ロシア向け輸出が厳重に制限されている。しかし現実には、中国から大量の部品がロシアの軍需システムに流入している。
アメリカやヨーロッパが戦場で回収した無人機部品、光学レンズ、商用チップなどの多くは、中国のサプライチェーン由来である。さらに、ロシアの兵器修理体制までもが中国製部品に依存している。
報告書は、こうした技術移転がロシア・ウクライナ戦争の行方に実質的な影響を及ぼしていると強調した。
(つづく)


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