米シンクタンク「民主主義防衛基金(FDD)」は11月17日、新たな報告書を発表し、中共が軍事衝突を起こさずに台湾を屈服させる可能性があると警告した。その手段は「エネルギー封鎖」だという。
報告書によると、中共は「一発も発砲せず」威圧モデルを採用する可能性があり、それはミサイル攻撃ではなく、グレーゾーンでの圧力行使によるものだ。行政審査、中国海警局による検査、税関での手続き遅延、サイバー攻撃など、一見「日常的な行政措置」に見える行為を重ねることで、台湾の燃料や電力の輸入を徐々に締め上げていくとしている。
報告書の共同執筆者であるクレイグ・シングルトン氏は、この戦略を「スローモーションの絞殺」と表現した。中共の狙いは即時的な侵攻ではなく、台湾に抵抗する意志を失わせ、長期的な圧力によって社会を内部から緩ませることにあるとみられる。特に、中国共産党(中共)軍艦が日常的に台湾周辺で活動している現状を踏まえると、この戦略がいつ大規模な危機に発展してもおかしくないとしている。
この報告書は、FDDと台湾・政治大学の「創新民主と永続センター(Center for Innovation and Democratic Sustainability)」が今夏に実施した兵棋演習「エネルギー包囲(Energy Siege)」の結果に基づいている。シミュレーションでは、中共が行動を起こす場合、最も目立たない手段から始める可能性が高いとされた。たとえば、書類審査の厳格化、通信ネットワークへの妨害、偽情報操作などを通じて、段階的に台湾の液化天然ガス(LNG)輸入を圧迫していくと想定している。
台湾はエネルギー輸入依存度が高く、約半分を天然ガス、約3割を石炭に頼っている。しかし備蓄量は最長でも数週間分しかない。台湾の主要なLNG受け入れ基地3か所と、台中の石炭荷揚げ港はいずれも西海岸にあり、輸送には台湾海峡という狭い水域を通過する必要がある。この海域は中共のミサイル射程内に位置しており、リスクは極めて高い状況だ。
報告書では、中共のサイバー攻撃も重要な手段になると警告している。過去1年間で、中共系ハッカーによる台湾のエネルギーシステムへの侵入件数は2倍に増加しているとされる。彼らはLNGターミナルや発電所の制御システムに悪意あるプログラムを仕込み、輸送と配電の両面で混乱を引き起こす可能性があるということだ。また、同時に偽情報を使って、停電や燃料不足、政府の無能さを訴える内容をSNS上で拡散し、国民の不安と不信を煽る恐れも指摘されている。
シングルトン氏と共同執筆者のマーク・モンゴメリー(Mark Montgomery)氏は、「輸入が制限されれば台湾の発電能力は数週間以内に半減する可能性があり、その際には政府が病院への電力供給と半導体工場の操業のどちらを優先するかという、極めて難しい選択を迫られるだろう」と警鐘を鳴らしている。
台湾は世界の半導体の約6割、最先端チップの約9割を生産している。もし台湾の電力網が麻痺すれば、世界の電子機器サプライチェーンや防衛産業全体に甚大な影響が及ぶと報告書は述べている。
さらに報告書は、アメリカ政府に対しても「台湾に耐えることを求めるだけではなく、あらかじめ戦略的備えを講じる必要がある」と提言している。具体的な提案は次の通りだ。
1、アラスカの新プロジェクトを含め、アメリカのLNG輸出能力を拡大し、台湾への直接的支援が可能となるようにすること。
2、米海軍がエネルギー輸送船団の護衛体制を整え、リスクが高まる時期にも供給が途絶えないようにすること。
モンゴメリー氏は「中共は『圧力+忍耐=相手の政治崩壊』だと信じている」とし、中共が最も恐れているのは台湾の軍事的な反撃ではなく、台湾社会が長期的な脅迫に耐え抜くことだと述べた。
報告書は最後に、中共の情報戦が台湾だけでなくアメリカにも向けられていると警告している。ネット上で疑念や分断を煽り、アメリカ国内の台湾支援世論を弱めることが目的だとしている。
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