まもなく中国最大の通販セール「ダブルイレブン(11月11日)」が始まる。しかし業者たちを悩ませているのは、販売競争よりも「着て返品する客」の存在だ。
中国の通販サイトでは「7日以内なら理由を問わず返品できる」という制度があり、本来は消費者保護のために設けられたものだ。だが近年、この制度を悪用し、一度着て外出したあとに返品するケースが急増している。
公開データによると、女性服の返品率は50〜60%、ライブ配信販売では80%を超えるという。多くは品質に問題があるわけではなく「数日だけ着て写真を撮って返す」「イベントで着て使い終えたら返品する」などの行為が横行している。
被害が深刻化するなか、今年はついに一部の業者が「外さないと外を歩けない」ほど目立つ対策を導入した。
服に暗証番号付きの小型ロックを取り付ける店もあれば、取り外したら返品不可の「巨大タグ」をぶら下げる店もある。ロックの場合は試着に支障はなく、購入が確定すると店側が番号を伝えて解除できる仕組みになっており、外したあとのロックはそのまま客へのプレゼントとして渡されるという。
苦肉の対策ながら、その発想には業界内でも「よく考えたものだ」と感心の声が上がっている。しかし、ここまでしなければ商品を守れない現状こそ、中国社会に広がるモラルの低下と信頼の崩壊を物語っている。
その歪んだ価値観は教育現場にも及んでいる。今年5月、遼寧省瀋陽市の職業学校で、教師の指導のもと60人以上の女子生徒がネットで買ったスカートを運動会で着用し、汚れた状態で一斉返品する事件が発生した。
教師が「あとで返品すればいい」と生徒に勧めていたことが明らかになり、SNSでは「ルールを悪用する教育の異常さ」を嘆く声が相次いだ。
信頼より鍵が先に立つ。モラル崩壊の代償が、今の中国の通販現場に重くのしかかっている。

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