米最高裁は9月9日、下級審で違法と判断されたトランプ大統領の大規模な関税措置について、迅速に審理すると発表した。口頭弁論は11月第1週に行われる予定で、それまで関税は有効とされる。

トランプ氏は2期目政権で関税を外交・経済政策の柱に据えており、国内製造業の回帰や、輸出国による不公正な貿易慣行の是正につながると主張している。今回の措置は「対等関税」と呼ばれ、相手国がアメリカ製品に課す関税に応じて、アメリカも輸入品に同等の関税を課す仕組みだ。

憲法上の権限を巡る争点

訴訟の焦点は、トランプ氏が1977年の「国際緊急経済権限法（IEEPA）」を根拠に関税を課したことが、大統領権限の逸脱にあたるかどうかだ。

この関税を課す権限を争っているのは、中小企業や酒類販売業者、民主党が主導する複数の州だ。彼らは、トランプ氏が世界のほぼすべての国からの輸入品に課した関税が、企業を破産寸前に追い込んでいると主張する。

複数の下級裁判所は、同法がこれほど広範な課税権を与えているとは解釈できないと判断しており、憲法は関税や課税権限を議会に付与していると判断している。

米連邦巡回控訴裁判所も「同法は大統領に幅広い緊急対応権を与えているが、関税や課税権限については明示されていない」と指摘している。

米法律団体リバティ・ジャスティス・センターのジェフリー・シュワブ弁護士は複数の中小企業を代理しており、「憲法上、関税を課す権限は議会に属し、大統領個人にあるものではない」と指摘。最高裁がトランプ氏の越権を認めると自信を示した。

一方、ホワイトハウスは、トランプ氏の行動は議会から授権された範囲内だと主張する。ホワイトハウスのデサイ報道官は「トランプ大統領はIEEPAで議会から与えられた権限を合法的に行使し、国家の緊急事態に対応した。国家安全保障と経済を守るためのものであり、最高裁で最終的に勝利することを期待している」と述べた。

司法省も、同法の緊急条項は大統領に輸入の「管理」を認めており、その中には輸入品への関税や課税権限が含まれると主張している。

トランプ氏は、もし敗訴すればアメリカは既に合意した貿易協定を破棄せざるを得なくなり、「国家は大きな損失を被る」と警告している。

過去最大規模の関税

問題となっているのは、トランプ氏が4月2日に発表した「解放日」関税で、大半の輸入品に対して10〜50％の税率を課すものだ。

この関税は数兆ドル規模の国際貿易に影響を及ぼし、1930年の「スムート・ホーリー関税法」以来最大の輸入税引き上げとされる。これにより、アメリカの実効関税率は16.3％に達し、100年以上ぶりの高水準となった。

トランプ氏は、関税は米企業と労働者が公平に競争するための「鍵」だと強調。カナダやメキシコに不法移民や麻薬密輸対策を迫るとともに、アジア諸国に対しては中国企業による「原産地偽装」への取り締まりを強化させたと主張している。

米議会予算局（CBO）は、トランプ氏の関税が維持されれば今後10年間で連邦赤字を4兆ドル削減できると試算。ブルームバーグの経済アナリスト、クリス・ケネディ氏は、関税が無効化されれば実効税率が少なくとも半減し、数百億ドルの還付が必要になると指摘した。

8月末までにアメリカの関税収入は1590億ドルに達し、前年同期の2倍以上となった。支持者は他国に新しい貿易協定を受け入れさせる効果があると評価する一方、反対派は消費者負担の増大や国際的な緊張の悪化を懸念している。

最高裁　二つの訴訟を統合

事件は保守派が多数を占める最高裁で審理される。そのうち3人はトランプ氏が初任期中に任命した判事だ。最高裁がトランプ政権（2期目）の政策を直接審査するのは初めて。

最高裁は今回、イリノイ州の教育玩具メーカー「ラーニングリソーシズ」と、ニューヨークの酒類輸入業者「V.O.S.セレクションズ」が提起した訴訟を統合し、併せて審理することを決定した。反対意見を示した判事はいなかった。

これまでも最高裁はトランプ関連の政策について20件以上の緊急判断を下してきたが、それらは最終判決が出るまでの暫定的なものだった。

2つの訴訟が並行して審理されることで、最高裁はどの下級裁判所に管轄権があるかを問わず、関税の合法性について最終判断を下すことになる。トランプ政権は9月19日までに弁論要旨を提出し、企業側は10月20日までに回答しなければならない。