2025年7月下旬、中国北部の北京、河北、山西、天津などが記録的な豪雨に見舞われた。中でも河北省では、北京などの大都市を守るために行われたダムの選択的放流によって被害が深刻化。事前の避難通知がないまま水が押し寄せ、家々は流され、命と暮らしが一瞬で崩れ落ちた。
とりわけ被害が大きかったのは、河北省承徳(しょうとく)市の農村地域だ。7月26日、突如として水が村を襲い、通知がなかったため、逃げ遅れた住民が続出した。本紙の独自取材によれば、石門子村の女性は「水が家まで来て初めて気づいた。政府は一度も様子を見に来なかった」と怒りを露わにした。家畜や農作物は壊滅し、生活の糧が根こそぎ奪われたという。また別の村では、家族6人が重機によって間一髪で救出され、山中での避難生活を余儀なくされたとの証言も寄せられている。
張家口市では、東京ドーム約70個分(約330ヘクタール)におよぶエビ養殖場が、ダムからの大量放流によって壊滅した。経営者は「北京の飲料水源である官廳水庫(かんていすいこ)は放流量が少なく、北京を守るために河北が犠牲にされた」と憤る。

承徳市近郊の興隆県でも、多くの村が「孤島」と化し、道路の復旧も進まず、支援がまったく届かない状態が続いている。隣接する北京市密雲区にはヘリコプターで物資が空輸されている一方で、そのすぐ隣の村には何も届かず、住民は不公平感を募らせている。
こうした行政による情報封鎖と救援の欠如は、住民の怒りと絶望をさらに増幅させている。ある村民は「この一帯には数百世帯があるが、すべて無視された」と語り、「生き残っても希望が見えない」と声を詰まらせた。
都市を守るために「見捨てられた地方」という構図は、今の中国に繰り返される現実である。
中国では毎年のように洪水が発生しているが、災害そのものは天災であっても、被害を拡大させているのは紛れもなく「人災」である。都市の安全を優先し、声なき地方を切り捨てる構造が放置され続けるなら、その代償はやがて国家全体に跳ね返ってくるだろう。


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