7月下旬、北京や河北省、天津市などで記録的な豪雨とダム放流による大規模な水害が発生する中、SNS上では住民による被災報告が相次いで投稿された。しかし当局による徹底した言論統制のもと、こうした投稿は次々と削除されている。
26日夜、北京市郊外の密雲(みつうん)区に住む女性が「家の中まで洪水が来た」と動画で助けを求めたところ、11万超の「いいね!」が集まった直後にアカウントが封鎖された。動画では「水が腰まで迫っている。船もなく、ドアも塞がれて出られない」と、ひっ迫した状況を必死に訴えていた。
(当局が「問題視」したとされる動画では、女性が自宅内にまで押し寄せた濁流を映しながら、「水が腰まで迫っている。ドアも塞がれて外に出られない。船もない」と、切迫した状況を生々しく訴えていた。2025年7月26日夜、北京市密雲区)
この助けを求めた女性のアカウントが削除されたことを受け、ネット上では「現状を伝えて助けを求めるのも罪なのか」「問題を提出した本人を解決して、問題自体をなかったことにしようとしているのか!」と批判の声が広がった。

それでもSNS上では、「村全体が通信・電気ともに遮断され、家族の消息が途絶えた」「救援が届いていない」といった災害関連の投稿が相次ぎ、一部は海外SNSにも拡散されている。こうした断片的な情報から被災の一角をうかがうことはできるが、全容を把握することは難しく、中国当局による厳しい情報封鎖のもと、国外から真実にたどり着くのは極めて困難な状況となっている。

実際、地元ネットユーザーからは、死傷者の情報が意図的に隠蔽されているとの指摘が相次いでいる。

中国共産党政権はこれまで災害時の情報を隠蔽しており、外部が真実に触れられるのは、もっぱら地元住民の告発やセルフメディアの投稿を通じてのみとなっている。

そうした中、7月24日から中央網信弁(国家インターネット情報弁公室)は、全国で2か月間にわたる「セルフメディア整治行動」を開始。「ネット情報によれば」「ネットユーザーが語るには」といった「ネット出典」の文言を用いた情報発信を禁止し、もともと制限されていた言論空間は、さらに厳しく締め付けられている。

実際、中国版ツイッターとも呼ばれるSNS「微博(Weibo)」では、中央テレビ(CCTV)など官製メディアの報道に対する市民のコメントがほぼ一掃されており、政府に異を唱える声は可視化すら許されない。
市民の叫びは、実際の洪水と同じように、静かに、しかし確実に押し流されつつある。


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