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中国の農村商業銀行で「年金ローン」が緊急停止 背後にある規制強化の波

2025/07/24
更新: 2025/07/24

中国の基礎年金を受け取るための「追納」の条件

中国では、特に農村部を中心に、多くの農村商業銀行が「年金ローン」という新しい仕組みを導入してきた。この仕組みは、銀行が高齢者に資金を貸し、そのお金で年金保険料を一括で「追納(不足分を納入)」できるようにし、これによって将来の基礎年金を受け取る権利を得られるというものだ。つまり、本来一度に多額の保険料を用意しなければならない人も、ローンを利用することでその負担を分散できる。

この年金ローンは湖南省、四川省、浙江省などで40を超える農村商業銀行が採用したが、銀行業界からは問題点も指摘されている。主な懸念は二つある。第一に、ローンの使い道が本当に正当かどうかが議論されていること。第二に、商業的に本当に成立する仕組みなのか疑問視されていることである。

そもそもこの仕組みが導入された背景には、中国の年金制度そのものの設計がある。現在の「都市・農村住民基本年金保険制度」は2014年に全国で統一された制度で、「基礎年金」と「個人年金口座」の2本立てになっている。基礎年金は政府が負担し、個人年金口座は自分自身が積み立てる。ただし、基礎年金を受け取るためには最低15年間、保険料を納付していることが条件だ。

たとえば湖南省の場合、年間の保険料が6千元(約12万円)、15年分を一括で追納しようとすると約9万元(約180万円)にもなる。これは低所得層にとって非常に大きな負担である。

ローンを利用した場合、銀行はお金を直接社会保険口座に振り込み、年金を受け取り始めた後にはその年金の中からローンの返済が優先的に行われる。もし高齢者が平均寿命(139か月と設定)に満たない場合は、個人年金口座に残ったお金を使って銀行が回収する仕組みとなっている。平均寿命を超えた場合には、その後も年金から受け取ることができるため、銀行にとっても比較的リスクの低い金融商品だと言える。

しかし、この制度には大きな問題もある。銀行は年利3.1~3.45%という固定金利でローンを貸し出しているが、これは中国の一部住宅ローンよりも高い水準だ。リスクがほとんどない商品のため、この金利設定はおかしいとの指摘がある。

さらに倫理的な問題がある。銀行は国家の年金補助金を原資として利益を上げる仕組みとなっており、中国の基礎年金額である月約100元(約2千円)の多くがローンの利息として銀行に回ってしまうのだ。本来、高齢者の生活保障のための補助金が、銀行の利益として吸い上げられてしまう構造に疑問の声が上がっている。

もし「年金ローン」を禁止すれば、今度は一括で保険料を払えない高齢者が年金を受け取れなくなるという別の問題も生じる。結局、「お金があって一括納付できる人だけが国家の補助をもらえ、貧しい人ほど年金をもらえない」という制度上の壁が浮かび上がっている。

この矛盾を解消するため、専門家の中には「年齢や納付記録に関わらず、適格者全員に無条件で基礎年金を給付すべきだ」と主張する意見も出ている。本当の意味での社会保障を考えるには、今後の議論が求められている。

エポックタイムズ記者。大学では地理学を専攻。主に日本の時事について執筆しています!